もうひとりの自分を探して――「ラブライブ!スーパースター!!」2期8話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
私を集める「ラブライブ!スーパースター!!」。2期8話ではいよいよ大会が始まる。ステージ探しを通して、かのん達は一体何を見つけたのだろう?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 2期第8話「Chance Way」

ラブライブ!に向けての作戦会議をするLiella!。今年のラブライブ!はリモート形式で曲目は自由。
曲はもちろんだが、多くのグループが参加する中で目立つためには、ステージ作りも重要になりそうだ。
Liella!と結ヶ丘のことが伝わるステージ……。
かのんは、そんなステージを作るために、結ヶ丘のシンボルについて考えていた。
その町やその場所に学校があるのは、きっと何か繋がっている、意味があると──。
公式サイトあらすじより)
 

1.ステージはもうひとりの自分

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可可「これとか、これとか、これも、これなんかも……全てラブライブ!です!」
 
今回はステージ探しが課題の回だ。歌というのは歌声だけでも成立するものではあるが、ライブをするのであればダンスを始めとしたパフォーマンス、ひいてはステージの飾り立てや仕掛けも劣らず大きな要素になってくる。スクールアイドルグループ・Liella!の中でも特にスクールアイドルを愛する可可は昨年使用されたステージを紹介するが、これらは見るだけでどんな歌が歌われたかある程度の想像がつくようなコンセプト(基本的な方向性)のはっきりしたものになっている。スクールアイドルにとって、ステージとはもうひとりの自分なのだと言っても過言ではないだろう。
 

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千砂都「Liella!と結ヶ丘、そして私達のことがちゃんと伝わるシンボルになるような場所……」
 
スクールアイドル部部長の千砂都は言う。ステージはLiella!と母校結ヶ丘、そして自分達にとってシンボルになる場所でなければならないと。だが、これはなかなかの難題だ。劇中でも言及されるように、表参道と原宿と青山のはざまにある結ヶ丘は賑やかな場所に事欠かない一方、それらは結ヶ丘自体のシンボルではない。雪国の学校の雪、海沿いの学校の海のような分かりやすい目印がかのん達には無い。
 

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恋「やはりライブを行った方が……」
ナナミ「それなんだけど」

 

結ヶ丘は別に魅力のない学校というわけではない。例えばかのん達自身、すなわちLiella!はラブライブ!優勝候補と目され人気を集めているし、生徒からも希望のスーパースターとして愛されている。Liella!は結ヶ丘にとって「もうひとりの自分」なのだと捉えることもできるだろう。かのん達もそれを受け入れているから新入生を呼び込むオープンキャンパスでライブをしようと考えていたが――意外なことに、結ヶ丘の生徒はそれを望まなかった。
 

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かのん「ライブをやると、Liella!だけに注目が集まり過ぎちゃうんじゃないかって」
 
Liella!がライブをすれば確かに人は集まる。だがそれはあくまでLiella!が目当てであって、結ヶ丘への興味から集まるわけではない。そうなればLiella!と結ヶ丘は溶け合って同質化し、もはや「もうひとりの自分」ではなくなってしまう*1。後にステージ候補として表参道が挙がった際、既に一度やった場所と同じなのを理由にメンバーが難色を示すのと同様だ。
高い同質性を持つだけでなく、確固として別の存在であるからこそ「もうひとりの自分」は成立する。そんな存在を、ステージを探すにはどうしたらいいのだろう?
 
 

2.もうひとりの自分を探して

ステージ探しはもうひとりの自分探し。この難題を探すヒントは、かのん達が悩み迷走している最中にも実は散りばめられている。
 

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可可「分かってくれますか?」
メイ「当たり前だろ!」

 

例えば、このステージ探しで最初に候補に挙がったのは外苑球場であった。あまりにも規模の大き過ぎるこの案は本来一顧だにされずに終わるものであったが、発案者の可可のノリにメイが賛同したため申込みにまで至ってしまう。もちろん一蹴される結果には終わったが、かのん達には二人が意外に似ているという認識は残った。喜怒哀楽が激しい可可とツッコミ役のメイは対照的なようでいて実は、スクールアイドルが大好きという一点で「もうひとりの自分」の関係にあった。
 

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ヤエ「私達もかのんちゃんと一緒に喜びたいの」
ココノ「だからできること、手伝えることがあったら全部やりたい!」
ナナミ「悔いが残らないように!」

 

また、かのんの友人達結ヶ丘の生徒はラブライブ!が終了するまでの間、生徒会の仕事をかのん達に代わって引き受けることを提案する。Liella!が決勝まで勝ち進めば相当な長期間になるにも関わらずそんなことを申し出たのは、一緒に喜びたい気持ちがかのん達と友人達の間に等しくあったからだった。等しい気持ちと、しかしLiella!の一員ではない別存在という条件が揃ったからこそ、友人達は当面の間かのん達の仕事を代行する「もうひとりの自分」になれた。
 

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かのん「表参道……道……あっ!」
 
「もうひとりの自分」を探すために必要なものはなにか? それは発見だ。異なる相手の違いを認めるというより、相手の中に同じものを見つけることだ。外見、言動、人間関係など人の事情は様々で全く同じものなどありはしない。それでも相手に自分と同じ何かを――食べ物の好き嫌いが似ているとか、そういう些細なもので構わない――見つけられたら、それは自分と相手を繋ぐ本質になる。全く縁のなかった両者を結ぶ、交わるはずのなかった道を集める舞台になる。かのんが決めたステージは「道の集まる場所」。かつてライブを行った表参道の「もうひとりの自分」たり得る場所だった。
 

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かのん「道が集まり、人が集まる場所だったから。それぞれの夢や希望が集まり、繋がる場所だったから」
 

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かのん「だから、わたし達はここにステージを作りました!」
 
ラブライブ!東京大会突破を目指して果たせなかった、しかしきな子達新入生を惹きつけた表参道でのライブは、今やかのん達の新たな原点になっている。それ以上のライブをするためには、きな子達が夢見るようにそれを超えるには、まずあのライブが何だったのかを顧みなければならない。未来の美名で忘却の彼方に捨てるのでなく、その本質を見つけなければならない。もう一つの表参道と呼べるステージを探すこの8話は副題通り、かのん達が異なる場所の中にあの時のライブと同じものを、すなわち本質を見つける「Chance Way」となっていた*2
 

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かのん「わたし達は、結ヶ丘女子スクールアイドル部!」
 

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一同「「Liella!」です!」

 

かくてステージを定め、歌い終えたかのん達は高らかに歌い上げる。自分達は結ヶ丘のスクールアイドル部、Liella!であると。それは彼女達がこのステージ探しを通して自分達の本質を、自分達が何者であるかを見つけられた証だ。できるだけのことをやった、しかし結果を出せなかった表参道でのライブを超えるための最初の一歩をかのん達は踏み出したのだ。
 

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かのん達にとって、今回のステージ探しはもうひとりの自分探しであった。そして、もうひとりの自分を見つけることは自分を識る最良の手段なのである。
 
 

感想

というわけでスパスタ2期の8話レビューでした。なかなか扱いの難しい話を持ってきたな、と思います。もうひとりの自分というのは見つけるものであると同時に定めるものでもあって、つまり勝手な決めつけである可能性が全然否定できないので……まあそういう話だと言うのがある種私の思い込みだし、私のレビュー自体もAとBの描写が「もうひとりの自分」の関係にあるんじゃないかという推論の繰り返しでやってるものなんですが。
 
一足早い秋を感じる描写が印象的な回でした。さて、次回予告を見ると可可の帰国問題にそろそろスポットが当たるのかな……?
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいですのー>

*1:古い例え方をするなら、エヴァの旧劇の人類補完計画LCLに人が溶けた状態を想像してもらうのがいいかもしれない

*2:この発見の射程を伸ばすことで、劇中で言及される「なぜあの時皆は表参道を選んだのか?」、つまり結ヶ丘がこの場所に作られた理由、本質に手が届く