勝利の在り処――「ラブライブ!スーパースター!!」2期9話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
皆の中の私を見つめる「ラブライブ!スーパースター!!」。2期9話では立ちふさがる難敵を前にLiella!のあり方が問われる。副題に謳われる「勝利」とは何を指すのだろう?
 
 

ラブライブ!スーパースター!!2期 第9話「勝利のために」

ラブライブ!地区予選を突破したLiella!。
しかし千砂都は、2年生にこっそり、1年生と2年生の間にかなりの実力差があると伝える。
1年生が頑張っているのは確かだが、このままだと恐らく決勝進出は難しい。
どうすれば……とみんなが悩んでいると、可可は今のままでいいと話す。
1年生は頑張っている。今そのことを話すと、頑張りすぎて辛くなってしまうと思う、と。
そんな可可を見つめるすみれはどこか不満そうで──。

公式サイトあらすじより)

 

1.何に勝つのか

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千砂都「9人で出る、東京大会に向けての練習メニューだよ」
夏美「うえー、こんなに!?」

 

この9話の副題は「勝利のために」だ。実際今回かのん達Liella!を悩ませるのはラブライブ!東京大会で勝てるかどうかが重くのしかかり、それが騒動を起こしている。だがこの「勝利のために」を、ラブライブ!東京大会最大の難敵ウィーン・マルガレーテへの勝利とすると9話は途端にその価値を落としてしまう。なぜなら彼女に勝つための方策としてかのん達が選んだのは結局「今まで以上に練習する」でしかないからだ。スポ根的要素の指摘されるラブライブ!シリーズらしいといえばらしいが、これではあまりにただの根性論にしかならない。
 

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メイ「駄目に決まってんだろ」
 
今回課題となっているのは「ウィーンに勝つために」ではない。単に勝利を至上とするならば、効果的な方法はLiella!の中から早々に提案されている。すなわち四季の調合した毒薬であるとか、夏美が流そうとした根も葉もない誹謗中傷であるとか……しかし二人の企みはあくまでコミカルに描写され、また言下に否定されている。かのん達が勝つべきものはもっと別にあり、それは物語を追っていくことで見えてくる。
 
 

2.昨日の私、今日の君

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悠奈「ごめんね、東京大会で君たちと歌うの楽しみにしてたんだけどね」
 
かのん達が勝つべきものは何か。それを定義するために最初に考えたいのは、そもそもなぜウィーンが難敵となったか、だ。元々かのん達が目指していたのはスクールアイドルの全国大会、ラブライブ!での優勝だったが、そのための最大の壁は神津島のスクールアイドル・サニーパッション(以下サニパ)だと考えられていた。昨年東京大会でLiella!を破り全国優勝を果たしたグループなのだから、彼女達への勝利をかのん達が目指すのは当然だろう。だが蓋を開けてみればサニーパッションはなんと地区大会敗退、東京大会出場の切符は新星ウィーン・マルガレーテに奪われてしまっていたのだった。
 

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悠奈「わたし達の後に歌ったんだけどね。聞いた瞬間『しまった』って思った。圧倒された」
 
あなた達も会ったことがあるのでは、とサニパの摩央が指摘するように、ウィーンとLiella!、そしてサニパの関係はよく似ている。3話でLiella!が参加した代々木スクールアイドルフェスも今回のラブライブ!地区大会も、「ウィーンが優勝候補者の前に風のように現れ圧倒する」展開は同じだからだ。今日のサニパは昨日のLiella!だった、と形容してもいいだろう。そして東京大会がある以上、Liella!とウィーンの再激突は避けられない。今日のサニパが明日のLiella!である可能性は全く否定できない。
 

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悠奈「1回1回を、これが最後ってつもりで挑んだ方がいいよ。じゃないと……気付いた時には終わってる」
 
もちろん、Liella!とサニパは所属校を始めとして多くの違いを抱えたグループだ。しかし1・2年しかいない結ヶ丘のかのん達にとって3年生のサニパは事実上の先輩であったように、人の立場はあらゆる違いを越えて重なり繰り返すことがある。Liella!にとってウィーンは1人の天才的スクールアイドルである以上に、人が繰り返しから逃れられないことを宣告する概念的な障壁なのだとも言える。つまりこの繰り返しに対する抵抗が目指すべき「勝利」への道のりなわけだが、当然ながらそれは簡単なものではない。サニパにしても、「ラブライブ!を連覇したものは未だかつていない」という繰り返しへの抵抗は呆気なく潰えてしまったのだから。
 
 

3.抜け出せない悪循環

かのん達はウィーンというより、彼女が背負っている繰り返しに抗わなければならない。これを考える上で重要になるのが、東京大会の参加メンバーを巡る今回の悶着である。
 

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かのん達Liella!はラブライブ!優勝を目指しているが、勝たなければならない分かりやすい事情を抱えているわけではない。優勝して母校を廃校の危機から救おうだとかその名を刻もうだとかいった理由があるわけではない。……ただ一人、上海からやってきたメンバーである唐可可タン クゥクゥを除いて。
 

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すみれ「ラブライブ!で結果を出さないと上海に連れ戻されるって話はまだ生きてるんでしょ?」
 
スクールアイドルに憧れて結ヶ丘にやってきた可可は、日本に残るため親も認めるような結果を必要としていた。優勝者であるサニーパッションに認められたことで猶予はもらえたが、今度東京大会を突破できなければ帰還を余儀なくされてしまう。しかし彼女は、その事情をLiella!の皆に明かしていなかった。そんなことをすれば皆が頑張り過ぎ、歌うのが辛くなってしまうと考えたためだ。
 

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可可「できません。可可は、皆と楽しく歌っていたいのデス。それが可可が夢見たスクールアイドルなのデス」
 
偶然からただ一人事情を知っている同じくメンバーのすみれから話すべきだと諭された可可は、自分は皆と楽しく歌っていたいのだと拒絶する。もっともらしいが、しかしこの論理は破綻している。なぜならこの言葉を口にした時の可可は笑っていない。楽しそうにしていない。黙っていればかのん達は楽しく歌えるかもしれないが、その時"皆"に可可は入っていない。
 

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可可「話さなくていいと思います」
かのん「可可ちゃん」
可可「1年生は頑張ってます。今話したらきっと、頑張り過ぎてしまう気がします。歌うのが辛くなってしまうと思います」

 

可可は優しい娘だ。実力の劣る1年生がハンデになっている状況を部長の千砂都から聞いても、彼女達が頑張り過ぎてしまうのを懸念して明かさないよう提案するほど気遣いのできる娘だ。けれどそこでは自分は置き去りになっている。可可は自分が我慢すれば"皆"のためになるのだと一人抱え込んでしまっている。そしてその実、それは彼女一人の我慢で済んでいない。先に挙げたように、すみれは可可の事情を知ってしまっているのだから。
 

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恋「本気なのですか?」
すみれ「ええ、昨日一晩考えたの。あの娘に勝つには、決勝に進むにはそれしかないって」

 

このままでは東京大会を突破できず可可が帰国してしまうのを危ぶんだすみれは、一計を案じる。それは、東京大会のステージには2年生5人だけで立つというものだった。
 

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メイ「わたしらが休めば」
四季「2年生だけでより素晴らしいステージが作れる」
きな子「ていうことっすか……」
かのん「馬鹿なこと言わないで!」

 

以前の話でも描かれたように、Liella!においては2年生と1年生の実力差は大きい。夏の合宿で1年生であるきな子達の実力は底上げされたが、それでもまだかなりの差があることを千砂都は分析している。対ウィーンの勝率を考えるなら、2年生だけで挑むというのは現実的な選択肢ではあるだろう。ただここで問題なのは、その提案に際してすみれが自分の気持を偽ったことだ。
 

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かのん「本気で言ってるの?」
 
後に「悪者になる覚悟はできてたはずでしょ」と自分に言い聞かせることからも伺えるが、すみれの言い方は露悪的である。ショウビジネスの世界に返り咲くために目立たなければならない、などと心にもないことを言い、可可の事情はおくびにも出さない。しかしそれに対するかのんの反応は、すみれを大きく動揺させる。
 

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かのん「Liella!全員で挑まなきゃ意味がない! だって、ここにいる全員がLiella!なんだもん!」
 
この言葉は実は、ここで初めて出たものではない。誰あろう、それを口にしたのは前日のすみれだ。可可が自分一人の事情だから関係ないと遮った昨日、すみれはこう返したのである。
 

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すみれ「関係なくない。少なくとも、Liella!にとっては大きなことでしょ! そんなに皆のことが信用できないの!?」
 
昨日の可可は今日のすみれであり、だから怒りに震えてすみれを平手打ちしようとしたかのんを可可は止める。それは自分が頬を打たれるに等しいからだ。いや、自分が打たれるべきなのにすみれが打たれることは、本当に打たれるよりもっと辛いほどだろう。
 

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反目し合いながらその実、今回の可可とすみれはよく似ている。"皆"のことを考えながらそこに自分を加えず、自分さえ我慢すればと思ってしまう点でよく似ている。つまり繰り返して・・・・・しまっている。前回同様に東京大会での敗退の繰り返しを防ぐのがすみれの目的なのに、実際は別のことの繰り返しになってしまっているのだ*1
 
 

4.勝利の在り処

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メイ「次のステージには立たない」
夏美「東京大会は2年生、5人で立つんですの」
四季「そしてわたし達に」
きな子「勝つところを見せてくださいっす」

 

可可が皆とスクールアイドルができる時間が「気付いた時には終わってる」のを止めようと自己犠牲に走ったすみれ。しかし彼女は、1年生が意見に従うのではなく自ら出場を辞退しようと家(神社)にやってくると激しく動揺する。
 

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すみれ「そんなのできるわけないでしょ! どれだけ練習頑張ってきたと思ってんのよ、朝から晩まで毎日毎日ラブライブ!のために。皆で一緒に喜ぶために頑張ってきたんでしょ!」
 
2年生だけでステージに立ちたいと言っておきながらのこの反応は、きな子達が困惑するように言っていることが変わっている。けれど本当は、すみれの言っていることは何も変わっていない。彼女が歩もうとしたのは自分が悪者になることで皆が救われる道であって、これでは1年生にババを引かせただけだ。可可の自己犠牲を自分が繰り返しただけでなく、それを更に後輩に繰り返させてしまう悪循環などすみれが望む結果であるはずもない。
 

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人類の歴史が生と死の繰り返しであるように、私達は結局繰り返しから、循環から逃れられない。ならばいかにすれば抗えるのか、「勝利」できるのか? ヒントは昨日、すみれから逃げるようにして可可が去った際に落とした人形にある。
 

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昨日、可可は自分が犠牲になることを決め、自分を諦めたからすみれから去った。故にその時落とした人形は彼女が落とした「自分」だ。拾ったすみれも人形を部屋にしまい、自分を犠牲にする道を歩もうとした。けれど1年生が神社を訪れる直前、妹が持ってきたことで人形は再び彼女の手元に戻っている。
あくまで可可のものであって、しかしだからこそすみれにとってかけがえのない「自分」がその人形にはある。犠牲として捧げられ顧みられなくなった「自分」は彼女の手元にある。悪循環を断ち切りたいのなら、まずはそれを手に取ればいい。
 

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すみれ「嫌なの」
可可「え?」
すみれ「あんたと一緒にいたいのよ。3年間、一緒にスクールアイドルやりきりたいの」

 

なぜ一人で勝手に苦しむのか問う可可に、涙と共にすみれは明かす。「皆が」「皆と」ではなく自分が可可と一緒にいたいのだと訴える。それはこれまで可可が、1年生が、そしてすみれ自身がしてきた自己犠牲と真っ向からぶつかるものだ。けれどそうやって自分を見捨てないでこそ本当の意味で「皆」は救われる。そして、それはワガママではない。
 

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すみれ「あたしはこれで救われたの。だからお礼がしたいの。わたしの力で、あんたに最後までスクールアイドル続けさせたいの。上海に絶対帰らせたくないの」
 
すみれの奥深くには、昨年の地区大会の際に可可に救われたことへの感謝があった。その礼がしたい思いがあった。それはつまり、してもらったことを自分も繰り返し・・・・・たかったということだ。これまで散々逃れられないものとして描かれてきた繰り返しは、しかし全てが否定されるべきものではなかった。
自己犠牲が連鎖し繰り返されるものなら、逆に自己の救済もまた連鎖し繰り返される。可可もまた、そんなすみれの前では素直にならざるを得ない。
 

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すみれは自分の嫌がることばかりすると言った後、可可は彼女を抱きしめこう言う。「大嫌いで、大好きデス」――これは照れ隠しではない。大嫌いな時も大好きな時もあって、そのいずれもが嘘ではない。二人は二つの気持ちを繰り返す度に離れがたくなっていったのであって、今この時現れているのが「大嫌い」か「大好き」かは実はさほど意味がない。二つの気持ちを繰り返せる相手であることそのものが望んでも得難い稀有な関係性であり、だから可可とすみれは互いが互いにとってかけがえない存在なのだろう。いくつものそうした関係の積み重ねの上にあるから、Liella!はこの9人でなくてはならない。
 

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千砂都「じゃあ1年生、覚悟はいい?」
 
かくて誰もが誰も見捨てたくない思いだったことを、そしその"皆"の中には自分こそ必要だったことを知り、9人のLiella!は再び走り出す。既に触れたように、東京大会突破のための方策は「今まで以上に練習する」……根性論と言えば根性論だが、一発逆転の秘策などそうは転がっていないのだからある意味現実的ではある。
 

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かのん「今日から特訓するよ。この9人で勝つために!」
 
1年生達の感じる実力差。2年生の抱える事情。相手が前回の優勝者すら上回る強敵でありかのんにしか興味を示さないこと。本作の世界は9人としてのLiella!を否定する壁にあふれていて、だからかのん達はそれにこそ立ち向かわなければならない。誰一人欠けず、誰一人見捨てないそのありようを見せつけなければならない。
Liella!の「勝利」は、自分達は9人でこそLiella!なのだと認めさせることだ。5人ではできなかったことをただ繰り返すのではなく、9人だからできる繰り返しでそれを乗り越えることだ。9人がかつての5人を超えた時、かのん達は初めて勝利を手にできるのである。
 
 

感想

というわけでスパスタ2期の9話レビューでした。昨晩3回見て「まあ早めに書けるのでは」と思ってたのにどうしてこんなにかかってしまったのか。可可とすみれの関係性については比較的すぐに見立てができたのですが、前後がなかなか整わずに時間を費やすことになりました。
 
今回はすみれが全カット全セリフ魅力的でもう。コミカルな役割も演じられるキャラクターですが、それだけにシリアスメインでの様子も際立ちます。序盤の可可の名前を呼ぶ場面からもうスロットルがかかりっぱなしでした。
可可の帰国事情はすみれとの関係が大きくフィーチャーされそうだとは思っていましたが、期待以上の内容に大満足。次回も楽しみです。
 
 

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*1:これは1期10話ですみれが可可のためにセンターを辞退しようとしたことの繰り返しでもある