仲間じゃなくても――「ラブライブ!スーパースター!!」2期10話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
激突の時を迎える「ラブライブ!スーパースター!!」。2期10話ではいよいよ東京大会が開かれる。今回はかのん達の新曲に必要だったもの、そして彼女達が成したことについて考えてみたい。
 
 

ラブライブ!スーパースター!!2期 第10話「渋谷に響く歌」

決勝進出に向けた集中合宿のため、きな子の実家へやってきた9人。
全員の距離を近づけるため、今回は曲もダンスも全部、1年生と2年生が合同で作ることにしたのだ。
最初は戸惑うが、次第にアイデアを出し合っていく1年生たち。
そんな中、「自分たちにとっての歌」とは……と悩むかのん。
ウィーンに以前言われた、「私が本当の歌を教えてあげる」という言葉が引っ掛かっていたのだ。
そこでかのんは、あることを思いつく。

公式サイトあらすじより)

 

1.協力と対立と

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夏美「撮れ高が、撮れ高がー!」
 
今回はスクールアイドルが集うラブライブ!東京大会が開かれる回であり、同時に合宿回だ。合宿回自体は初めてではなく、6話でも結ヶ丘のスクールアイドル部1年生であるきな子達が既に夏合宿を行っている。場所も前回同様きな子の北海道の実家であり、その点でこれは前回の繰り返しであると言える。ただ季節が夏ではなく冬であることを始め、何から何まで同じわけではない。
 

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千砂都「東京大会は曲もダンスも全部1年生と2年生が共同で作る! それが一体感を高めるには一番いいって」
 
6話の合宿は1年生がかのん達2年生に追いつくのが目的であり、そこには敵対とは言わないまでも両者の対立関係があった。1年生は2年生に遠く及ばない自分達の実力に悩んでおり、その競争意識がきな子達の原動力になっていたからだ。
一方で今回の合宿は2年生も交えまた作曲や作詞も共同で行うというもので、ここにあるのは対立ではなく協力関係である。まだ未熟であっても1年生が成長したから協力できるようになったのだろうし、それはかのん達のスクールアイドルグループ・Liella!の確かな進歩であろう。
 

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恋「久々の協力プレイ、楽し過ぎました……」
メイ「作曲するんだろ」

 

ただ、協力は必ずしも対立より良い効果をもたらすとは限らない。Liella!のメンバーはそれぞれ得意分野で協力していくが、作曲担当の恋とメイは思わずゲームの「協力プレイ」に興じてしまうし、掲示物を作っていた可可とすみれは前回「大嫌いで大好き」な互いを確かめあった仲だが、その関係の真髄はやはり仲良く喧嘩する様子にこそある。
 

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かのん「歌詞、降りてきた?」
きな子「今のところはまだ……」

 

かのん達の曲作りは和やかだが、故にすんなりと行かない。調和の取れた協力関係だけでは物事は進まない。それはきな子達1年生が2年生との対立関係をバネに夏合宿に励んだことからも言える。今のLiella!には対立こそが必要であり、そしてその相手は必ずしも内部に求める必要はない。そう、かのん達は東京大会最大の強敵として一人の少女を対立相手に選んでいる。代々木スクールアイドルフェスで自分達を、地区予選で前回優勝のサニーパッションを下した天才少女ウィーン・マルガレーテだ。
 
 

2.仲間じゃなくても

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3話の代々木スクールアイドルフェスで楽曲「Butterfly Wing」と共に鮮烈なデビューを果たしたスクールアイドル、ウィーン・マルガレーテ。振り返ってみれば、彼女の存在は常にかのん達と相容れないものだった。
 

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ウィーン「わたしがラブライブ!に出場するのは、ここがいかに低レベルであるかをスクールアイドル達に知ってもらうため。わたしが"本当の歌"を教えてあげる。それだけ」
 
本作の世界ではスクールアイドルはグループを組むのが基本でありかのん達のLiella!は9人にまで増員したが、対するウィーンはソロ。また彼女はきな子達より更に幼い中学生でありながらダンスや歌唱は高校3年のサニーパッションすら圧倒する実力を持ち、かのんが一人の時に姿を現しては消えていく様子からはバックボーンがまるで覗けない。極めつけ、ラブライブ!は低レベルだとすら評する彼女の言動は傲岸そのものだ。アイドルものには「頑張る姿を応援したくなる」一面があるが、ウィーンにはそうした要素が全くない。きな子達1年生の加入でそうした描写が増えたLiella!とは対照的である。
 

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可可「ラブライブ!が低レベル!?」
メイ「ふざけんな、いきなり出てきて好き勝手なことを!」

 

Liella!とウィーンの対称性は大会前のリモート会見でも明白で、掲示物から挨拶から手作り・破損を補い模範的な会見をするLiella!に対し、ウィーンは自分が本当の歌を教えてあげると言いたいことを言って自分で通信を打ち切ってしまう。スクールアイドルが大好きな可可やメイは憤慨するがこれも無理もない反応だ。
事実上決勝進出を争っている点からも、Liella!とウィーンは対立関係にある。……が、それは必ずしもかのん達に悪影響を及ぼしていない。
 

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千砂都「さっきのマルガレーテちゃん見て、練習しよう!って思ったんだね」
 
例えばきな子達1年生はウィーンの会見とそれを裏打ちする実力の高さに発奮し、自主トレを開始する。負けていられないという思いが、彼女達を磨き上げていく。
 

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かのん「フェスでのデビューライブも、サニーパッションさんを倒した地区予選もマルガレーテちゃんは歌、ダンス共に圧倒的だった。でも、あれが"本当の歌"なのかな……?」
 
またかのんはウィーンの会見を見返し、彼女が口にした「本当の歌」の意味を考える。ウィーンの歌には確かに、歌唱もダンスも本物と呼ぶに相応しいクオリティがある。しかし勝つという思いだけに研ぎ澄まされたその歌が「本当の歌」と言えるのか? かのんは思索する。自分達だけでは考えなかったであろうことを考える。
 

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恋「わたくし達は上手くなるために、勝つためにと考え過ぎていたのかもしれません」
かのん「それを1回忘れたいんだ。歌も練習も全部忘れて、皆で楽しく遊ぼう!」
 
1つの目標に向かって、脇目も振らずまっすぐ進む姿は美しい。けれどそうやって前しか見ずに進んだ時、気付けば人は自分を見失っている。部活動が勝利を至上とする余りそれ以外を犠牲としてしまう弊害(顧問や先輩による奴隷のような扱い)は昨今指摘されるところであるし、経済を第一にまい進してきたはずのこの国はむしろいかに縮小を受け入れるかという方向に進んでいる。初めてボールに触った時の胸の高鳴りであるとか、「世を経して民を済ふ*1」といった意味合いは消えてしまっている。
 
何かに向かって進む時は、錨の備えがなければならない。対立する全く逆の存在を重しにすることで、人は自分が今どこにいるのか見つめ直すことができる。かつて新入部員募集のため練習を簡単にしようとかのん達2年生が考えた時も、その誤りを最初に訴えたのは練習を一番厳しく感じていた1年のきな子の方であった。
 

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可可「すっごく楽しくて」
メイ「すっごく大変で」
すみれ「でも、ここにしかない喜びがあって」
四季「その気持ちが歌になってあふれる」
千砂都「Liella!って、思えばずっとそうだったよね」
かのん「それが私達にとっての"本当の歌"なんじゃないかな」

 

ウィーンという対立する存在を意識したことで、協力の限界を迎えていたかのん達の合宿は再び回り出す。厳しい練習と対になる休み、遊びを組み込むことで練習への意欲を再確認し、遊びからイメージを膨らませ……新曲はそうした対立を利用した先、各人が再び協力した先にあった。楽しさも逆に大変さもあって、しかしそこにしかない喜びがあふれたのが自分達の「本当の歌」なのだとかのん達は気付くが、劇中で恋が指摘するようにその「本当の歌」はウィーンの言葉があったから彼女達の中に浮かび上がった概念だ。対立するウィーンの存在がなければ、かのん達はそれを考えもしなかったし新曲は生まれてこなかっただろう。ある意味で、ウィーンとの対立関係はかのん達にとって究極の協力関係ですらあった。
 

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合宿を終え迎えた本番、ウィーンはあくまで孤高を貫く。自分の力で、自分ひとりで自分の未来をビルドするという彼女の歌を、かのんは「本当の歌」だとは認めない。対立とは相容れないものなのだから、両論を併記し対等に扱えば良しとなるわけではない。ぶつけ合って高め合って、より高次のものへと進めなければそれは偽の対立に過ぎない*2
かのん達はかつてフェスでは演出上歌うこともできない程ウィーンに圧倒されたが、今はそれに立ち向かうことができる。相手の凄さは感じつつも歌って、輝いて、笑うことができる。そうやって対立し、対抗する力が今のかのん達にはある。全てはウィーンがいたからだ。
 

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ウィーンの謳う「エーデルシュタイン」、Liella!の歌う「Sing!Shine!Smile!」。いずれが決勝に相応しいか、ビルの大型ディスプレイは結果を映さない。この10話ではLiella!がウィーンに感じる対立関係の緊張そのものが肝要であり、そこから解放すべきは今回の話よりも先のステージにあるのだろう。
新星が異例を重ねるのか、積み重ねた小さな星達が雪辱を果たすのか、あるいはそれ以外の道があるのか――少なくともそれは、かのん達が悔し涙を流した1年前の単なる繰り返しではないはずである。
 
 

感想

というわけでスパスタ2期10話レビューでした。今回は最初は何を書けるか戸惑ったのですが、副題の「渋谷に響く歌」というのがLiella!の歌だけなのかな、むしろウィーンと両方で「渋谷に響く歌」なのではないかな……という思いつきを浮かびまして。この思いつきがどういうことなのか自分の中で敷衍していったところこんなレビューができあがりました。本作がどういうところに着地するのか? 鍵となるウィーンの人間性は次回で描かれそうですが、期待したいと思います。
 
 

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*1:経世済民、世を治め民を救うこと

*2:現実には既にトンデモとして否定されたものをそのまま出し直し、対話や議論と称して認めるよう迫るケースもあるのがまた厄介なところだ