9人を超えて――「ラブライブ!スーパースター!!」2期12話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
終わらない「ラブライブ!スーパースター!!」。2期12話、全国大会で歌い終えたかのんは「これがわたし達のラブライブ!」だと語る。かのん達のラブライブ!とは、果たしてなんだったのだろう?
 
 

ラブライブ!スーパースター!!2期 第12話(最終回)「私を叶える物語」

理事長にウィーン国立音楽学校への編入を勧められたかのんは、自分の進路に悩んでいた。
千砂都は、かのんが世界に歌を響かせる夢を叶えるためにも留学してほしい、と言ってくれたのだが、かのんはLiella!やほかのみんなのことが気になってしまい、思い留まっていた。
そんな夜、千砂都から連絡があり、かのんは学校に向かうことに。
するとそこには、千砂都だけでなく、Liella!のみんなの姿があって──。

公式サイトあらすじより)

1.1人で終わる問題にあらず

主人公であるかのんがウィーン国立音楽学校への留学の誘いを受けるもスクールアイドルグループ・Liella!での活動のため辞退しようとし、これに同部部長にしてかのんの幼なじみ・千砂都が再考を促すという思わぬ展開となった前回。かのんは改めて悩むが、続くこの12話で明かされるその理由は少し意外なものだった。
 

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かのん「わたしにとって、Liella!や学校のことが自分の夢くらい大切な存在なの。わたし、結ヶ丘に入学してなければ歌を辞めていたと思う。そんな大切な仲間と場所を失ってしまうのが、正直怖いんだ……」
 
東京大会で優勝を競ったウィーン・マルガレーテが訪問してきた際、かのんは自分が留学を辞退しようとした理由が恐怖であったことを明かす。Liella!や母校結ヶ丘は自分を支えてくれた、夢と同じくらい大切な場所であり、彼女は留学によってそれを失うことを恐れていた。本作は2期9話で勝利のための自己犠牲を問うており、そこからすればかのんの留学辞退も「自分が夢を諦めればLiella!のためになる」といった理由が想起されるところであったが、実はかのんは「皆のために」ではなく「私のために」留学を辞退しようとしていたのだ。
 

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千砂都「わたし、かのんちゃんに留学してほしい」

 

私のため、あなたのため、皆のため――誰のためかという理由は全く別物のようだが、本当はそう単純に切り分けられるものではない。千砂都にしてもかのんに再考を促したのは彼女を大切に思っているからだが、「(かのん自身が学校にいたいと思ったとしても)私、かのんちゃんに留学してほしい」という言葉にはそれが自分の願望だというはっきりした自覚がある。実際、彼女はかのんに願いを伝えた際、「本当はかのんちゃんも留学したがっているいるはず」といった言葉はけして使わなかった。
かのんのための言葉がかのんのためだけではなく、自分のための言葉でもあることから千砂都は逃げなかった。そして彼女は更に、これがかのんに全ての決断を委ねていい問題ではないことも指摘している。
 

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千砂都「皆もそれでいいの? もしそうなったら(留学の話が消えたら)、わたし達がかのんちゃんの夢を叶えるチャンスを奪ったんじゃないかって皆後悔するんじゃない?」
 
留学するか否かを決断する主体は確かにかのんにある。Liella!の他のメンバーにしても、行ってほしくない気持ちはあってもはっきり口にしたわけではない。留学を辞めた結果かのんの夢が潰えた場合、少なからぬ人は、いやかのん自身も自己責任と断ずるだろう。けれどそれは実際のところ、皆から離れたくないかのんが皆に甘え、かのんから離れたくない皆がかのんに甘えた結果であって全てを彼女一人に帰責することはできない。千砂都はこの言葉で、留学は最終的にはかのん一人の問題だという皆の逃げも封じているのだ*1
 
「一億総懺悔」などという言葉を例に挙げるまでもなく、責任を集団に求めることは単なる責任の希釈に終わることが少なくない。けれど本来、集団における責任とはその構成員一人ひとりが自分の担ったそれを把握するものではあるまいか。民主主義下の投票においては棄権や白票も含めてたかが一票はされど一票であるし、選んだ人間に私達の知らない一面があろうがそれが予期せぬ結果を招こうが、選挙結果は有権者全体の責任であることを免れない。
 

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千砂都はかのんの留学について、かのんだけでなくLiella!の皆にも再考を促した。これは彼女一人の問題ではなく、「私の、あなたの、皆の」問題なのだと捉え直してみせた。事実、その後に描かれているのはメンバーであるすみれや恋がこの問題を自分に置き換えたり、1年生が自分達に今できることとして練習を選択する様子だ。
 

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母「どうしたの? 落ち込んだ顔してるわよ」
かのん「そんなことないよ、ほら! ……たこ焼き買ってきた」

 

下校中のかのんもまた、これが自分や千砂都だけの問題ではないことを痛感する。千砂都のバイト先に行っても彼女はいない一方で、帰路にはメンバーの家があったりそこから踵を返しても今度は1年生の自主練に出くわしてしまう。彼女は留学をあくまで自分の問題として捉え、自分が仲間や居場所を失う恐怖から誘いを断ろうとしたが、これは許されることではなかった。その重さを感じたからこそかのんは、落ち込んでいるのを察した母親に空元気を見せようとしても涙を我慢できなくなってしまうのである。
 
 

2.皆が押す背中

自分の選択は、自分だけの選択に留まるとは限らない。まだ子供であるかのんにとってこの気づきは非常な重圧であり、故に悩み迷う。しかし彼女が気付かされるのはその重さだけではない。
 

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例えば、泣き出してしまったかのんに対し彼女の母親(と妹のありあ)は助言する。費用は音楽学校持ちとは言え子供の留学は重大事であるから、相談に乗るのは当然であろう。要約すれば、彼女の助言は以下の2つになる。
 
①この留学の誘いは誰にでも来る話ではなく、間違いなくかのんに来た話であること
②かのんがどんな選択をしたとしても、自分はかのんを応援する。だから後悔だけはしないように。

 

まず①で示されているのは、選択の主体が自分であることの再自覚である。かのんの選択は確かに彼女一人に留まらない影響力を持っているが、どこまで行ってもそれはやはり最終的には自分で決断するものでもある。2期9話で黙って自分を犠牲にする連鎖が悪循環を生んだ時のように、自分の選択であることを手放してしまってはいけない。
 
そして②で示されているのは、矛盾するようだが選択の結果を一人で背負う必要はないということだ。人は一人では脆弱だから集団や社会に属するのであり、共助や公助にしてもまず一人ひとりを支えるためにある。そしてどれほど賢い人間も愚行や過ちと無縁ではいられない以上、私達にできるのはせいぜい選択を無意義なものにしない*2ことであろう。
 
かのんの選択はかのん一人に留まるものではないが、選択はやはりかのんのものであるし、同時にその選択を一人で背負う必要はない。これを象徴するように、かのんの前にはもう一人の少女が姿を現す。東京大会で優勝を競った天才音楽少女、ウィーン・マルガレーテである。
 

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ウィーン「……美味しい」
かのん「良かった」

 

以前はかのんを見下さんばかりに挑発していたウィーンは今回、今までのように高いところから現れない。熱いたこ焼きに舌鼓を打つ姿からも見えるように12話の彼女は年相応の少女に過ぎず、故にその言葉にもかつて「氷のよう」と評された冷たさはない*3。故に彼女はもはや自分の未来を全て独力でビルドしようとは――"自分だけ"で終わらせようとは――しない。
 

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ウィーン「それなら、留学しても恩返しができる。むしろ留学した方があなたの学校の力になれるわ」
 
仲間や居場所を失う恐怖を告白したかのんに、ウィーンは助け舟を出す。もし留学すればそれは結ヶ丘の知名度向上に繋がり、世界から入学希望者が集まるかもしれない……いささか希望的観測の印象もあるが、これはかのんにとって逆転の発想とも呼べる発見だったはずだ。彼女は自分の選択が皆に悪い結果をもたらす可能性に恐れおののいていたわけだが、影響力はもちろんマイナスにばかり働くわけではない。自分だけの選択に留まらない自分の選択には、他者への助けや希望となる可能性も秘められていることをウィーンは指摘してみせたのである。
 

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ウィーン「勘違いしないでね。わたしはウィーンに戻れたらそれでいいの。でも飛び込んでみたら? とても大切なことよ」
 
かのんの留学は皆にプラスに働く可能性がある。そして打ち明けているようにウィーンはかのんの選択次第で自分も一緒に音楽学校へ行けるから留学を勧めており、同時に未知の世界に飛び込んでみるのは大切なことだと純粋にかのんのためのアドバイスもしている。けして「皆のため」に自己犠牲で留学しろと言っているわけではないからこそ、ウィーンは「勘違いしないでね」と劇中で断りを入れるのだ*4
 
 

3.9人を超えて

かくて「皆」から手がかりをもらったかのんは、千砂都に呼び出された夜の学校でLiella!の仲間に留学の決心を打ち明ける。一方の仲間達もまた、それを受け入れると同時に「かのんの留学をもってLiella!は解散する」という答えを出していた。
 

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千砂都「かのんちゃんのいないLiella!はLiella!じゃない。それがわたし達の出した答え」
 
かのんの願いによって撤回されることもあって結論としての印象には欠けるが、この答えは彼女達がどうしても通らなければならなかったステップでもある。なぜならLiella!はこれまで、この9人でいられなくなる危機に何度も立ち向かってきたからだ。1年生と2年生の実力差やメンバーの一人である可可の帰国問題などLiella!は従来の作品よりも不安定なグループであり、それでもこの9人でなければLiella!ではないとスクラムを組み直してきた。ならばかのんを送り出すことを決めた以上、8人ではLiella!でいられないのは自明のことだ。留学問題は降って湧いたような話ではあったが、9人でいられなくなる危機という点でこれまでの延長線上にあったことを千砂都達は確認したのである*5。それは彼女達がかのんの留学を「あなただけの」の問題にせず、「私の」「皆の」問題として捉えたからこそ出せた答えであった。
 

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かのん「一つだけお願いがあるの。Liella!は続けてほしい」
 
かのんの留学はこれまでの9人の危機の延長線上にあり、だから千砂都達はこれまでと同じように「9人でなければLiella!じゃない」ことを確認する。しかし同時に、やはりこの出来事はこれまでと同じではない。なぜか? それは9人でなくなるのがけして不本意な理由からではないためだ。
留学によるかのんの脱退は実力差が大き過ぎるだとか、結果を出さなければ帰国を余儀なくされるだとか、勝つために劣者を切り捨てるだとかいったものではない。危機ではなく祝うべき門出であって、ならば9人でなくなることにも別の意味が見えてくる。かのんに頼まれ活動を続けることにした8人の中にはセンター争いに意欲を見せる者もいるが、これなどは脱退がもたらす好影響の1つと言えるだろう。1年前は5人で挑んだ東京大会を9人で超えたLiella!はこの時、その9人すら超えてみせた。
 

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迎えたラブライブ!全国大会の日、かのん達は大会場いっぱいの観客の前で歌う。そこには「私(かのん)」がいて、「あなた(千砂都を始めとした仲間達)」がいて、そして「皆(学校の仲間、家族やライバル、そして観客)」がいて、その全てが1つになっている。Liella!の掛け声である「Song for Me、Song for You、Song for All!」はここに体現されており、つまりこのライブは彼女達にとって「もう一つのLiella!」になっていたと言える*6
 

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かのん「これが、わたし達のラブライブ!

 

かのん達が歌ったのは、かのんの歌でありLiella!の歌であり皆の歌であり、同時にそのいずれでもない。「私とあなたと皆の歌」が歌えたからこそ、これは「かのん達にとってのラブライブ!」なのだ。
 
 

感想

というわけでスパスタ2期の最終回12話レビューでした。どうなっちゃうの!?という終わりに面食らい、大雑把な方向性が決まって書き始めて見るとそこから更に拾える情報が増えていって面食らい……所用で遅れたのもありますが、や、やっと夕飯食べて水星の魔女2話が見られる。
 
ラブライブ!シリーズはリアリティや辻褄にあまり重きを置いた作品ではなく、世の中こんな上手くいかねーよ!という部分はありますが、奇跡のようなものだとしても望ましい形を示せるのはフィクションの大切な仕事でもあって。「私も」「あなたも」「皆も」幸せになれる道がないか求めるのは忘れてはいけないのだと思います*7
 
 
さて、毎度次は映画をやるんだろうなと思っていたらなんと3期を製作するのだそうで。新展開を楽しみに待つことにします。スタッフの皆様、お疲れ様でした。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいですのー>

*1:千砂都はかのんの夢は「世界に歌を響かせる」ことだと繰り返すが、彼女はここで留学問題をLiella!の皆に響かせていると言える

*2:これはことの成否や社会的な価値の有無を指さない

*3:言うまでもなくたこ焼きは前回彼女に接触した千砂都の暗喩であり、つまり千砂都はウィーンの心を溶かしたのだ

*4:ここで「Win-Win」と頭に浮かんでしまったことを許してほしい

*5:つまりかのんはここで前回の「かけがえのなさ過ぎる」状態から解放されている

*6:これもまた9人を超えるあり方ではある

*7:同時に、この3つから除外されている人がいるのではないか? という目線も必要なように思う