無二は一致の先――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」14話レビュー&感想

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
誰が為の「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。14話ではエルメェスと仇敵の決着がつく。"シール"を剥がした彼女が手に入れたのは、無二にして普遍の意思である。
 
 

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第14話「愛と復讐のキッス その②」

エルメェスは姉・グロリアを殺したスポーツ・マックスに復讐をするため、スタンド『キッス』を使い、奇襲をかける。しかしマックスのスタンド『リンプ・ビズキット』の反撃を受け、防戦一方に。徐倫とF・F(フー・ファイターズ)があらわれ、エルメェスに加勢するも、リンプ・ビズキットの能力である『みえない死骸』を前に、3人は次第に追い詰められていく。

公式サイトあらすじより)

 

1.一致を使いこなせ

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エルメェス徐倫、F・Fを連れて逃げろ! これはあたしの問題だ、お前達には関係ねえ!」
 
前回、仲間である徐倫やF・Fにも事情を明かさず単独行動を始めたエルメェス。それは目的が姉を殺したギャングの囚人スポーツ・マックスへの復讐という個人的なものであったが故だが、彼女は今回、それがもはや自分だけの戦いではないことを思い知らされる。
 

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徐倫「いやエルメェス、これはもうアンタだけの問題じゃあない」
 
例えば徐倫は、スポーツ・マックスの打倒が自分の目的にも適うことを主張する。超キレたギャングとはいえ普通の人間だったはずのスポーツ・マックスはいつの間にか見えないゾンビを生み出す超能力(スタンド能力)を身に着けており、それは彼が徐倫の宿敵ホワイトスネイクの部下になっていることを意味するためだ。企みを知るためにはスポーツ・マックスを倒し、彼の頭から排出される記憶DISCを入手しなければならない。もう一人の仲間であるF・Fに至っては見えないワニのゾンビに左足を食われたというシンプルな恨みがあり、いずれもエルメェススポーツ・マックスの戦いに介入する動機としては十分なものだろう。ものを二つに増やすエルメェスのスタンド「キッス」のシールを貼ったように二手に分かれていた徐倫達は、それぞれ異なる理由から再び一つのグループに戻ることとなった。
 

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F・F「そう、食いつかれる。それしかやらねえもんなあコイツは。だがこれでOK。これでヤツの口の中に入れた!」
 
理由が異なろうと目標が"一致"すれば、実際は二つ以上あるようなものも一つのように振る舞ったり扱うことができる。このルールはF・Fのワニへの反撃の場面で顕著だ。見えないゾンビと化したワニは重力に縛られない移動で徐倫達を惑わせるが、その攻撃方法は結局その口で食いつくこと一つだけ*1でそこを利用すれば攻略のヒントも見えてくる。F・Fはあえて腕を差し出し食らいつかせて反撃の銃弾を撃ち込む荒業を披露するが、これはダメージと引き換えに上下左右どこからの攻撃も"一致"させるところに真価があると言えるだろう。ただ、一致を使いこなすのは彼女達の専売特許ではない。
 
 

2.一致と混同

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スポーツ・マックス「か……乾くッ!」
 
エルメェスの姉グロリア・コステロを殺害するもその証拠を消して微罪で収監されるに留まり、彼女から多大な恨みを買った男スポーツ・マックス。小鳥やワニの死体(剥製)から見えないゾンビを作り出して攻撃させるスタンド「リンプ・ビズキット」は恐るべきものであったが、この14話ではその脅威は更に力を増す。エルメェスによって刑務所内のパイプに閉じ込められた彼は、溺死の際に偶然にも自分自身の見えないゾンビを作り出してしまったのである。
 

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スポーツ・マックス「ちぇっ、賄賂払ってんのに挨拶もしやがらねえ」
 
スポーツ・マックスのゾンビは当初、自分が周囲から姿も声も認識されないゾンビになったことに気付かない。刑務官が賄賂に見向きもしないのは単なる無愛想、女囚が突然触られたと怒るのは自分ではなく近くの男囚が原因……自分が見えないゾンビになってしまったなどとはそもそも想像の埒外の出来事であるから無理もないが、彼は己の認識と一致する部分を都合よく解釈してしまう。
一致とは複数のものを一つにまとめる有力な手段であるが、使い道を誤れば異なるものを同じと錯覚させる"混同"にもなる。一つにするのではなく逆に増やしてしまう。ネットの言い合いでよく行われる混ぜっ返しなどはこうした性質の悪用例の一つに挙げられるだろう。そう、混同は攻撃のための手段として悪辣かつ高い威力を持っている。
 

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エルメェス徐倫、そいつはスポーツ・マックスじゃない! ヤツは殺した女の死骸を囮で動かしていたんだ!」
 
体からあふれてきたドブ水で自分の死を認識したスポーツ・マックスエルメェス達へ襲いかかるが、そこで用いられるのはやはりもっぱら"混同"だ。つい人間相手の意識で攻撃してしまった徐倫を骨折の手応えで動けないと誤認させたり、直前に殺した女のゾンビを自分と思い込ませたり、更には刑務所内墓地から多数の見えないゾンビを生み出し追い込んでいるつもりの彼女達を逆に追い詰めたり……一致の多さゆえに生じる混同に、エルメェス達はスポーツ・マックスを見分けることができず追い詰められていく。
 
 

3.無二は一致の先

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混同に対抗するにはどうすればいいか? 一つの方法として挙げられるのはより高次の視点からの一致の発見だ。エルメェスは復讐が重要なのは自分もスポーツ・マックスも一致するはずだと考え、トドメの一撃を仕掛けてくる際の反撃に賭けてゾンビの群れに自ら身を晒した。しかしキッスのシールで頭部を二つに増やして致命傷を避けながら放った一撃が空を切ることから分かるように、この方法は決定打とはならない。一致の発見は同時に差異を際立たせるものでもあり、そちらに目を向ければ途端に一致は意味を失ってしまうからだ。スポーツ・マックスエルメェスの読み通り最後に彼女を襲う一方でこれまでの戦いから頭部を二つに増やすことを予見し、ゾンビの特性を利用して自分の頭部を胴体から切り離しておくことで反撃を無効にしていた*2
 

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スポーツ・マックス「やるだろうとよ、思ってたぜ。オレをパイプに閉じ込めやがった時のようにものを二つにするシールを使ってくるだろう……とはよォ」
 
一致の発見はどこまで行っても知恵比べや化かし合いの域を出ることはなく、そこに本当の勝利はない。本当に、いや本質的に勝ちたいなら重要なのはむしろ一致しない部分だ。どれだけ似ていようがどうしても交わらない一点にこそ、人や概念の核となるものは秘められている。私達はこうした一致しないものを、無二のものを、復讐者となった点では同様のはずのスポーツ・マックスエルメェスの違いから見ることができる。
 

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スポーツ・マックス「いいか? これからてめえの脳みそをすすり食ってよぉ~、その開いた頭蓋骨にてめえの腹の中のクソを代わりに詰め込んでやったとしてもオレの気分は晴れることはねえ!」
 
劇中、スポーツ・マックスエルメェスを殺したい気持ちでいっぱいである一方、例え彼女を殺し亡骸を辱めようとも自分が救われないことを語っている。彼にとって、復讐とは晴れない気分の八つ当たりに過ぎない。ゾンビとなったこの男は異様な乾きを感じるようになっているが、それは本当は精神に由来するものであって血をすすろうが収まることはない。
 

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エルメェス「『復讐』とは! 自分の運命への決着をつけるためにある!」
 
一方、エルメェスは復讐とは自分の運命に決着をつけるためにあると言う。彼女にとって復讐とは、自分の後悔や憤りに区切りを入れるための手段だ。もちろんスポーツ・マックスを殺しても死んだ者が生き返るような実利は無いし、法に拠らない点で道徳的とも言えない。けれどこれは八つ当たりではなく、彼女が再び前に進むための唯一の、替えの効かない方法なのだ。他の何とも一致することなき無二の手段であり、復讐と形容できるのは同じでもスポーツ・マックスのそれとは全く異なるものであった。
 

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前回のレビューで書いたように、スポーツ・マックスは見えないゾンビを生み出すことで死体を二つに増やす、ある意味でキッスの能力を二つに増やしたようなスタンドの使い手だ。スタンド使いになる以前から自分の暴力性を隠滅し、「見えないゾンビ」にして罪を逃れてきた男だ。だがエルメェスが彼との決定的な違いを提示したことで、スポーツ・マックスはもはや「二つ目」ではいられなくなった。彼が自分に貼り付け悪用していた「シール」も遂に剥がされる時が来た。
 

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エルメェス「これも! これも! これも! これも! これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもグロリアの分だ!」
 
スポーツ・マックスに食いちぎられた頭部の一部がシールの剥離によって彼の体を突き破って戻る――たった一人の自分が戻ってくる――のを目印に痛撃をくらわせたエルメェスは、そこから何発も何発も拳を叩き込む。そしてその全てが「グロリアの分」だと言う。
彼女が復讐するのは自分が痛めつけられた恨みからか? 違う。徐倫やF・Fが傷つけられた恨みからか? 違う。ギャングとして多くの人間を足蹴にしてきた相手への怒りからか? 違う。彼女が背負っているのはただ一つ、愛しい人が味わった非道への悲憤だけだ。同時に、そのたった一つの思いこそは誰かに大切な人の人生を狂わされた者達が"一致"して抱いてきたものでもあろう。グロリアのための拳だからこそ、キッスの拳はあらゆるものを代弁してスポーツ・マックスを打ち倒す資格(ライセンス)を備えていた。
 

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徐倫(あのDISCを読んで分かった、あたしが今ここでなすべきことが!)
 
誰と交わることもない無二の思いこそ、誰の心にも一致する共通の思いとしての資格を持ち得る。再び13話冒頭の時間に戻ったラスト、徐倫は危険極まりない厳正懲罰隔離房に自ら収監されに行く。スポーツ・マックスの記憶DISCを読みホワイトスネイクの野望の一端を知ったためだが、これは入手した情報の重大さ以上に今回のエルメェスの姿に背中を押された部分が大きかったのだろう。スポーツ・マックス戦が13話冒頭の厳正懲罰隔離房収監から時系列を戻して描かれたことを考えれば、徐倫が読んだ「あのDISC」とは比喩的には13・14話で起きたこと全ての記憶だったとも言える。エルメェスの戦いを見たからこそ、彼女は自分が今ここでなすべきことを見つけることができたのだ。
 

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今回の戦いを通してエルメェスは、二つに分かれていた、いや引き裂かれていた自分を一つに戻すことに成功した。そして、その生き様は徐倫や私達の心の中でまた増えていくものなのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版ジョジョ6部の14話レビューでした。「唯一性と代替性」をクローズアップしたレビューは私の場合単に作品の理解度が低いだけということが多いので躊躇いもあったのですが、キッスの性質や時系列、一つに戻る性質なんかからこれならなんとか……と書き進めました。同じでないものを同じだと言い張って話を破綻させるテクニック、あるいは素朴な思い込みを昨今はあちこちで見かけることもあり響くところの多い話だったと思います。
エルメェスの言っているのが、復讐という手段自体ではなくその奥にあるものの肯定なんだと今になってようやく理解できました。次回も楽しみです。
 
 

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*1:徐倫に尻尾と思しき一撃を食らわせているが、これは彼女の攻撃への対抗であって第一に選択する行動ではない

*2:これはスポーツ・マックスもまた「これまでの戦いとの一致」「自分とゾンビの一致」を活用した結果だとも言える