代役の登山道――「ヤマノススメ Next Summit」6話レビュー&感想

©しろ/アース・スター エンターテイメント/『ヤマノススメ Next Summit』製作委員会
そこかしこに山を見る「ヤマノススメ Next Summit」。6話では晩秋と冬の日が描かれる。登山描写がないからといって、山に登っていないとは限らない。
 
 

ヤマノススメ Next Summit 第6話「ひかりのデート大作戦!/みんなでホワイトクリスマス!」

アルバイト先の先輩、ひかりに誘われて名栗湖にやってきたあおいは、カヌーを体験する。ひかりとふたり、水遊びをしたり、お弁当を食べたりと楽しんでいるうちに、あおいはそれがまるでデートのようだと気づく。
 

1.山に登らなくても

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ひかり「名栗湖だよ。山とは違うけど、たまにはこういうところもいいでしょ?」
 
山登りする少女達を描いた「ヤマノススメ」だが、今回の話では主人公のあおいは山に登らない。バイト先の先輩・ひかりに誘われ前半出かけるのは名栗湖だし、後半に至っては友人達とのクリスマスパーティ(と飛び込みのバイト)が描かれるだけだ。しかしだからと言って、この6話に山要素が無いかと言えばそれも間違っている。前半の名栗湖や周囲の自然の美しさは本作が見せてきた山と遜色ないクオリティで描かれているし、後半のクリスマスパーティでも折に触れては山絡みのワードが頻出する。寒い季節ということもあって山登りをしないこの6話は、山の「代役」を立てることで逆にその存在感を高めているとも言えるだろう。そう、劇中の時間では少し離れている今回の前半と後半は、「代役」をキーワードに繋げて見ることができるのだ。
 
 

2.代役の登山道

代役、という言葉はどちらかと言えばあまり良い印象を持たれない言葉だ。本来そこにあるべきものが無いのをごまかすための間に合わせ、偽物……だがこの6話における代役からは、むしろポジティブな側面が強調されて見えてくる。
 

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あおい「ひかりさんなら、もっといい人が見つかると思います」
 
前半、突然ひかりに誘われ一緒に名栗湖に出かけることになったあおいは、その内容がまるでデートのようであることに気がつく。2人が同じ向きで乗るはずのカヌーに敢えて向かい合わせのカップル乗り、ひかりが用意してきたという弁当の具材はなぜかハート型、酒を飲んで軽く酔ったひかりは自分の膝に頭を載せて撫でてほしいなどと言い出す……撫でてもらいながらひかりがこぼしたのは、実は彼女は昨日恋人に振られてしまっていたという事実であった。あおいは知らずしてひかりの恋人の代役を務め慰めていたわけだが、これは失恋した相手本人ではむしろ務まらなかったことだ。
 

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あおい「この服風を通して寒い。登山服ってすごいんだな……」
 
また後半、友人であるひなた達とのクリスマスパーティの準備をしようとしていたあおいは、これまたひかりから急遽バイトのヘルプを頼まれる。店長がぎっくり腰を起こしてしまったためにバイト先の洋菓子店「すすき」は人手不足になってしまい、あおいは店長の分の人手の代役を求められたのだった。こうして見るとこの6話は、山の代役だけでなくあおい自身も何かの代役になることを求められる回だと言える。
 

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ひなた「呼ばれたってことは、必要とされてるってことだよ」
 
クリスマスにひかり一人で店の切り盛りなどできるわけないと気を揉むあおいを、ひなたはこう言って送り出す。「呼ばれたってことは、必要とされてるってことだよ」……そう、代役というのは本物ではないが誰にでも務まるものでもない。代役が求められるのはそのポジションがなくてはならないからだし、信頼なり能力なり相応のものがなければその座に招かれることもない。もちろん単に都合よく使われているだけの場合も多いが、今回の場合代役から見えてくるのはあおいが自分が思っている以上に頼りにされているという事実である。それは今回代役を演じなければ見えてこなかったものだ。
 

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ここな「"甘辛コーデ"ってやつですよ」
ゆうか「楓、もうこの路線で行きなよ」

 

代役を演じることを通して今回、あおい達はいつもと少し違う景色を見る。疑似デートの中であおいが見る、ひかりのいつもと少し違った一面やまだ味わったことのない恋の味。あおいに「代わって」パーティの支度をすることになった友人達の様子から見える普段の調理経験、ここなに対するほのかのボーイフレンドのような関係性、ファッションに興味が乏しいはずの楓の山用ウェアでのオシャレなどなど……本物しか存在の認められない世界ではこれらは敷居が高く、味わうことが難しい。こうしてお試しのように簡単に触れられるのは、代役という気軽さあればこそだ。
 

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あおい「山には登れないけど、冬だって楽しいことはたくさんあるんです」
 
代役は本物ではないがだからこそ触れやすく、時に本物以上に本物を浮き彫りにする。登山道が一つでないように、代役もまた立派なルートの一つだ。山に登る時と同じように、今回見た一つ一つの景色があおいの財産になっていくのである。
 
 

感想

というわけでアニメ版ヤマノススメ4期の6話レビューでした。今回はあっさりめに。山に登る回でなくても、あおいの思考に山が欠かせないものになっているのを感じた回でした。景色に惹かれる部分は前回のトレーニング登山で彼女が意識した山を登る部分に繋がるし、サンタ服の寒さから登山服との比較になるあたりも着慣れてないと発想として出て来ない。山に登らなくてもやっぱり「ヤマノススメ」。
小春の他キャラクターとの顔合わせなども賑やかで、ひかりの失恋にしんみりしたりもしましたが楽しい回でした。
 
 

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