無言の語り――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」19話レビュー&感想

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
無言と雄弁の「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。19話ではDIOの骨が奇妙な事態を引き起こす。意思を伝えるのは言葉だけとは限らない。
 
 

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第19話「「緑色」の誕生」

ケンゾーを退け、『骨』をもって逃げた小男を追う徐倫たち。小男を見つけ『骨』を奪い取ろうとするも、辺りには囚人たちが倒れており、その体からは『植物』が生えていた。そして、そばに近づこうとする徐倫の顔にも……。一方、隠れてその様子をうかがっていたDアンGは、『植物』の原因は『骨』に関係しているのではないかと考えていた……
 

1.言葉少なな回

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F・F「これは……他の囚人達が! ぜ、全員既に!」
 
前回、宿敵ホワイトスネイクが送った刺客・ウエストウッドとケンゾーに辛くも勝利を収めた徐倫達。強敵との死闘が描かれたこれまでと打って変わって、今回は明確な戦いが起きない不思議な回だ。厳正懲罰隔離房棟へやってきた目的であるDIOの骨は囚人の植物化現象を起こすが徐倫達を直接攻撃したりはせず、最後の刺客DアンGのスタンド「ヨーヨーマッ」にしてもなぜか徐倫達の忠実な召使いのように振る舞うから、自然今回はスタンドで殴り合うような事態にはならない。が、だからと言って19話が緊張感のない息抜き回になっているわけではない。
 

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F・F「か……感染しているぞ! 徐倫ッ!」
 
今回徐倫達は追いかけていた男、骨を拾った小男の囚人を遂に見つけるが、そこで待っていたのは小男のスタンド能力との戦い……などではなかった。小男は骨によって植物化しており、更にはケンゾーに倒されていた他の囚人もいつの間にか同様になっていたのだ。更にはこの植物化は骨に触った徐倫の身にも起きており、刺客を倒せば後は探索するだけと思われていた骨の回収は一大難事と化してしまう。
 

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F・F(し……しまった! まさかあんな攻撃方法で!)
 
またヨーヨーマッは先に触れたようになぜか忠実な召使いのように振る舞い、また攻撃されてもまともにダメージを受けないしぶとさを持つため徐倫達は直接戦闘を諦め同行させることを選択するが、本体暗殺のため別行動をとった仲間F・F(フー・ファイターズ)は直後に顔が溶けるダメージを受けていたことが判明する。人畜無害にも思えるヨーヨーマッがどうやって攻撃したのかは、なまじパワーのある攻撃を仕掛けてくるスタンドよりも不気味だ。
 

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ヨーヨーマッ「こちら湿地帯専用ボートでございます旦那様。風圧推進機がついていて風の力でボートを進ませるのです」
 
ジョジョ」の魅力の一つは敵味方双方の知略を尽くした戦いにあるが、この19話に敵はいない。あるいは見えない。人間の肋骨の数だとか湿地帯専用ボートだとかウンチクも披露されないわけではないが戦いに直結しているわけではなく、いつもより言葉少なな回だと言えるだろう。しかし、言葉の多少は語りの多少と直結しているわけでない。
 

ちなみにこちらは、湿地帯のボートについて検索したら出てきたエアーボートの動画(G.D.st刑務所と同じフロリダ州だ)。
 
 

2.無言の語り

言葉の多少は語りの多少と一致しない。これは実のところ、今回の冒頭から描かれている知見である。
 

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研究員「JOLYNE……徐倫? い、いや、のわけないよな」
 
徐倫の父・空条承太郎ホワイトスネイクに仮死状態にされるも徐倫の奮闘によって肉体的には蘇生に成功、しかし記憶を奪われたままのため相変わらず危機的状況にあった。英単語の学習はできても自分や肉親について認識できない彼は、人として余りに言葉少なな状態にある。……だが、ふとした拍子に彼の腕についた傷は徐倫の名前を刻んでおり、しかも時を同じくしてそれは徐倫の腕にも現れていた。
 

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徐倫(なぜか説明できないけど分かる。これは、あたしの父さんからの……)
 
遠く離れた場所にいる人間が時を同じくして傷を受け、しかも同じつづりを示している。常識的に考えれば単なる偶然に過ぎないし、少なくとも私達現代人はこれを必然として科学的に証明できない。証明する言葉を持たない。しかし徐倫はこの傷に、いまだ生死の境を彷徨う父からの語り・・を受け取る。幼い頃自分が高熱を出した際にも帰らず薄情者と憎んでいた父が、スタンド使いの戦いに巻き込まないようあえて妻子を遠ざけていたのだと気付きすらする*1。一切喋ることなくただ名前だけを記した承太郎のメッセージが、徐倫の胸には万の語りとして響いたのである。
 

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DアンG「痛でええよォオオオオオオオオオ」
 
人間は言語を始めとした表現を操る動物であり、それによって広範な意思疎通を可能としてきた。しかし表現は嘘を含み誤解を招くものでもあり、それだけで全てを理解しようとすると途端に私達の視界は狭められてしまう。例えばヨーヨーマッの本体であるDアンGは「戦士風の男」と称される風体と落ち着いた物腰からいかにも屈強といった空気をまとっていたが、徐倫の仲間の一人アナスイの罠にかけられ左腕をズタズタにされた彼が見せたのは泣き叫んで痛がる情けない姿であった*2。また言動からは忠実な召使いにしか見えないヨーヨーマッがその実、なんらかのタイミングを見計らって攻撃を仕掛けてくる油断できない相手なのは先のF・Fが受けているダメージでも示されている通り。徐倫も私達も、表現されているものに重きを置き過ぎればかえってその落とし穴に落ちてしまうものなのだ。
 

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アナスイ「どっちみちなんとかするさ……必ず」
 
人と人のコミュニケーションに言語を始めとした表現は欠かせないが、私達は同時にその限界を認識しなければならない。今回アナスイ徐倫の気を引くため小細工を仕掛けた時には失敗する一方、植物化し始めた彼女に恐れることなく接した姿で意図せず強い印象を残すことに成功していたが、これなどはなまじな表現に頼らない方が意思の疎通に繋がる一例に挙げられるだろう。
 

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F・F(ちゃんと見張っている内はヤツは完璧な召使いになり、不気味だが役に立つだろう。だがもし隙を見せたら……!)
 
厳正懲罰隔離房棟を脱出し、ヨーヨーマッと共にボートに乗った徐倫達を遠くから見送るF・Fは、知らぬ内に負ったダメージに動揺しながら警告する。「そいつから目を離してはいけない」と。これはもちろん注意を促しているのだが、それだけではヨーヨーマッを打ち破ることはできない。なにせちゃんと見張っている間は忠実な召使いとして振る舞うが、隙を見せた瞬間なんらかの方法で襲ってくるのがこの敵スタンドなのだ。単に見張るだけでは小康状態を保つのが精々であり、いずれはその密やかな攻撃に命を奪われてしまう。
 

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F・F(徐倫アナスイ! そいつから目を離してはいけない……!)
 
F・Fの言う通り、ヨーヨーマッに対して必要なのは目を離さないことだ。隙を見せないためにではなく、その本性を見抜くために注視することだ。いかに巧妙に言動を飾ろうとも、きっとどこかにその敵意は覗いている。
暗躍する難敵への勝利の道筋は、口車に乗せられず表現に惑わされなかったその先にある。言葉と理屈以外にも意思を伝える術は無数にあり、そこには無限の語りが潜んでいるのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版ストーンオーシャンの19話レビューでした。何を書いたものかな?と迷いましたが、毎度アバンを頼りにまとめたところこんな形に。DIOの骨による植物化に対してDアンGが「何かを生まれさせようとしているかのよう」な意思を感じているのも無言の語りに入るでしょうか。ウエストウッド戦&ケンゾー戦から緩急のついた作りになっているのだと感じました。
ヨーヨーマッ役の山口勝平さんはジョジョアニメで演じるのは3役目(3部のフォーエバー、4部の重ちー)となりますが、次回もどんな風に演じるのか楽しみに待ちたいと思います。竹内良太さん演じるDアンGも、見た目とあの泣き顔のギャップが連載時を思い出す最高さでした。
 
 

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*1:せっかくスタンド能力を持たずに生まれた=スタンド使い同士ひかれ合わずに住むように生まれた徐倫に、それでも何かあった時のためにと"矢"の破片を入れたペンダントを渡しておかなければならなかった承太郎の心中たるや!

*2:そういうダメージを受けても平然としている本作の他のキャラの方が本来はどうかしているのだが