99%カエル――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」20話レビュー&感想

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
理解の先の「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。20話では正体不明の攻撃に徐倫達が苦しめられる。アナスイの強引にも思える反撃はしかし、ヨーヨーマッへの最高の意趣返しだ。
 
 
懲罰房から脱出する際に徐倫が見つけた異形の生命体、『緑色の子供』。そして、それを飲み込んだ敵スタンドらしき『ヨーヨーマッ』。一見従順な素振りを見せるヨーヨーマッと徐倫たちを乗せたボートは湿地帯を進んでいく。だが、徐倫たちが本当に恐れるべきは看守たちの追手ではなく、ヨーヨーマッの見えないスタンド攻撃だった……
 

1.空条徐倫、完全敗北

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徐倫(自動追跡型のスタンド……なんでも奴隷のように言うことを聞き、召使いのように振る舞い、まるで無害! だがそれがコイツの手だ、なんらかの方法で油断の隙間を狙って、自動的に攻撃してくるスタンド!)

 

宿敵ホワイトスネイク最後の刺客・DアンGのスタンド「ヨーヨーマッ」に「緑色の赤ん坊」を飲み込まれ、仲間がDアンGを暗殺するまでヨーヨーマッを同行させることになった徐倫達。暗殺のため別行動をとるもいつの間にかヨーヨーマッによって顔を溶かされるダメージを負っていたF・F(フー・ファイターズ)は徐倫が敵から目を離さないことを願い、実際攻撃に気付いた徐倫は様々な方法でヨーヨーマッを注視するのだが――結果から言えばこれは失敗に終わった。
 

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ヨーヨーマッの攻撃の正体はなんと、口から垂れるヨダレでものを溶かすというシンプルなもの。だが徐倫はこれに最後まで有効な対策を打ち出せなかった。いつの間にかヨダレで舌に穴を空けられ言葉を発せなくなり、自分を囮にすることでヨーヨーマッが攻撃に蚊を用いている(唾液を含ませた蚊が吸血する際、標的の体に唾液が注入される)のを見抜くも他の手段で引き続き攻撃され、ヨーヨーマッが湿地の水全てに既にヨダレを仕込んでいるのではと想像したがこれは勘違いだった。相手は自分達を乗せた湿地帯専用ボートのプロペラにビニールを擦らせて静電気を起こし、その反発でヨダレの粒を撒き散らすという方法を採っていたが、徐倫はこれを最後まで見抜けなかったのだ。ヨーヨーマッは「こいつは絶対に気付かれねーーッ」とほくそ笑んでいたが、徐倫の洞察力を上回ったのだからその狡猾さは確かに相当なものと言える。仲間であるアナスイのおかげで命拾いしたが、徐倫はこの20話、ヨーヨーマッに完全に敗北しているのだ。
 
 

2.決定的なものを掴めない

頭脳戦が魅力の一つのジョジョシリーズだが、今回徐倫は最後までヨーヨーマッの知略を上回れない。ただ面白いのは、彼女の推測等が全くの的外れでもない点だ。
 

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徐倫(目を離すと自動的に攻撃が始まるんだ、それがこいつの能力!)
 
例えば徐倫はヨーヨーマッの放った蚊を捕えた直後に再び攻撃をくらうが、それは攻撃が蚊を使ったものではなかったことを意味しない。気付かぬ内に彼女の舌に穴を空けたのは確かに蚊による唾液の注入であり、攻撃が一つではないというだけだった。また、湿地帯の水に既にヨダレが仕込んでいたらと想像した徐倫アナスイがヨーヨーマッにボートを加速させようとする(想像通りならヨダレ混じりのしぶきが激しくなる)のに反対するが、これも想像通りではなくとも対策として間違いではない。先に記したようにヨーヨーマッはボートのプロペラを利用してヨダレを撒き散らしており、ボートを加速させれば飛び散りが酷くなったはずなのだ。
徐倫の想像はかなりいい線をいってはいる。ただ何かしら重要な一箇所だけが間違っていて、だから決定打になれない。そして、こうした行き違いは実際は珍しいものではない。
 

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アナスイ徐倫……!? どっちなんだよ、(キス)したいのかしたくないのか?」
 
舌に穴を空けられ言葉を封じられた際、徐倫は舌を見せようとするなどしてアナスイに状況を伝えようとした。だが彼女に恋心を抱いているアナスイはことごとくそれを自分へのアプローチと誤解し、攻撃によるものだとは考えなかった。徐倫が喋れないところまで気付きつつもそれが緊張のせいだと勘違いするアナスイの滑稽な解釈は、いい線をいってはいるが決定的に間違っている。
 

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ボートで湿地帯を見回る看守達に見つかりそうになった際、徐倫達はヨーヨーマッの提案で植物に隠れてやり過ごそうとした。樹液や葉っぱを体につけたそのカモフラージュは完璧で看守達は近くを通っても気付かないほどだったが、彼らがその場を立ち去ろうとエンジンを吹かした際に風圧で迷彩は吹き飛んでしまった。隠れるのに抜群の方法ではあったが、それだけでは十分ではなかった。これらはいずれも、ある程度妥当でありながら肝心な点が違う面で徐倫の読み間違いと変わらないのである。
 

3.99%カエル

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徐倫(ち……違うッ! 蚊じゃない! コイツの攻撃方法は他にある!)
 
アナスイへのメッセージや迷彩の失敗から分かるように、世の中には「だいたい合ってるが肝心なところが違う」場合が珍しくない。人間とチンパンジーの遺伝子の差でよく言われるように、割合にすれば1%程度の違いが残り99%の合致をひっくり返すことがあるのだ。徐倫がヨーヨーマッを打ち倒せなかったのは、彼女の洞察が99%正しくとも「肝心な1%」を掴めなかったからだと言えるだろう。そして逆に言えば、99%を奪われようとこの肝心要の1%さえあれば状況は覆し得る。
 

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アナスイ「『ダイバー・ダウン』……コイツの攻撃方法が何かなんてどうでもいい。コイツが完璧な自動追跡型スタンドというなら、コイツの頭の中にカエルを埋め込んでその脳を追跡センサーに繋いだ。カエルの気持ちになって一生追跡してきな!」
 
戦闘不能に陥った徐倫に代わりヨーヨーマッと対峙したアナスイは、攻撃がどうやって行われているのか探ろうとしない。代わりに彼がしたのは、ヨーヨーマッが徐倫をターゲットとした自動追跡型スタンドであることの確認だ。そしてその確認こそが重要ポイントであった。アナスイはヨーヨーマッの頭の追跡センサーにカエルを埋め込んで繋げ、徐倫ではなくカエルとしての生態を自動追跡するよう改造してしまったのである。
 

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ヨーヨーマッ「お! カブトムシ!」
 
徐倫達に攻撃方法を掴ませず、勝利待ったなしだったはずのヨーヨーマッはしかし、突如として異常をきたした自分の精神に抗えない。本体であるDアンGからの指令は「空条徐倫を始末し緑色の子供を持ち帰ること」であり、つまりそれが彼の目的、肝心の1%だ。けれど追跡センサーをカエルにされてしまったヨーヨーマッは鳥を見れば怯え、カブトムシを見れば舌を伸ばし、ナイスバディのカエルを見かければそちらに夢中になってしまって目的にたどり着けない。矢継ぎ早に目の前に現れる99%の情報に肝心の1%をかき消され、もはやそれが何だったか分からなくなってしまう。敵の攻撃方法を見抜かず人体改造(?)で対処したアナスイのやり方は乱暴にも思えるが、「99%で肝心の1%を押し潰す」ヨーヨーマッへの意趣返しとして最良の反撃であった。
 

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ヨーヨーマッ「のっかりてえ! のっかりてーーッ!」
 
カエルとしての99%に己の存在意義である1%を潰されたヨーヨーマッは哀れだが、実際のところ彼の姿はあまり他人事ではない。情報過多の現代、私達は常に大量の情報を受け取り続けている。好きな番組、新商品、政治、スポーツニュース、エトセトラエトセトラ……常にそれらの「肝心な1%」を掴むことなど不可能だし、そもそも掴んだ1%が肝心なものである保証もどこにもない。自然、専門分野が多少マシな程度で私達の思考は短絡的にならざるを得ない。いや、なまじな知識がむしろ1%を遠ざけすらする。ネットミームを口にして一体感を覚えるその時、私達は本当に対象を見ているのだろうか? 99%に動物的反応を繰り返すだけなら、私達はもはやカエルのケツを追いかけるヨーヨーマッと変わりないのではないか?
 

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プッチ神父「そうだとしたらどっちだね、君の最優先は? 私か? それともDアンGを仕留めることが先かね?」
 
話が脱線したが、かくて1%の敵意を99%の追従ついしょうに潜ませる難敵との戦いは決着し、舞台はDアンGを暗殺しようとするF・Fとそれを阻止せんとするホワイトスネイクの懲罰房棟でのやりとりに移る。ホワイトスネイクは自らの正体が教誨師プッチだと明かすことでF・Fを迷わせようとするが、ここで起きているのもやはり99%と1%の戦いだ。なにせ彼はF・Fにとって自分とDアンGのどちらが「肝心な1%」か迷わせ、その隙に付け入ろうとしているのだから。戦術的な問題に思えるこの問いはしかし、プランクトンから生まれた新生命であるF・Fが何者であるか――己の「肝心な1%」が何かを問うものでもある。
果たしてF・Fはどちらを、あるいはそれ以外の何を1%として掴むのか。彼女の戦いもまた、密やかに正念場を迎えているのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版ジョジョ6部の20話レビューでした。運命を乗りこなしているようで奴隷に過ぎなかったケンゾーもですが、敵役の末路が示唆的で面白いなと思います。ダイバー・ダウンって便利な能力だな……
 

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CD再生だからそのまま音が出るのは納得なような、いやでもやっぱ人体からオーケストラの音が出るのは無茶なような。「人体にDISCを入れて操るプッチ神父なんだからCDでも同じ」という1%、どうなのよ。
 
 

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