虚構遭難継続中――「虚構推理 Season2」14話レビュー&感想

©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理2製作委員会
夢中をさまよう「虚構推理 Season2」。14話では一人の男と雪女の奇妙な事件が描かれる。今回は生還してもなお続く遭難の話だ。
 
 

虚構推理 Season2 第14話「雪女のジレンマ」

11年前、雪山で雪女に命を助けられた過去を持つ室井昌幸。仲間と妻に裏切られ、極度の人間不信に陥った彼は、雪女と出会った山の麓の町に移り住んだ。その町中を散策している時、昌幸の目に飛び込んできたのは偶然にもあの雪女と同じ容姿をした女性で……!?
 

1.迷い込んだのは

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主要人物や世界観の説明を前回済ませ、いよいよ本格的な再開となった虚構推理のアニメ2期。もっとも、今回の話の中心となるのは主人公の琴子ではなく室井昌幸という男だ。時間も実に11年ほど前にさかのぼり、物語は雪山登山中の室井が同行者だった親友に突き落とされる衝撃的な場面から始まる。幸運にも即死を免れた彼はそこで妖怪・雪女と出会ったわけだが、ここで注目したいのは室井の置かれた状況の「嘘くささ」だ。
 

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雪女「これで一晩はしのげるであろう」
 
室井が落下したのは実に数十メートルの距離であり、これは本来なら即死しておかしくない高さだ。予期せぬ突き落としを受けたのだから尚更だろう。しかし彼は右眉こそ失ったものの手も足も折れてはいなかった。おまけにそこで出会った雪女のおかげで凍死もせずに生き延びられたなど、偶然としてはあまりにでき過ぎている――そう、まるで「虚構」じみている。いや、そもそもが雪女は虚構の存在に過ぎないはずだ。
 

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雪女「心にもない世辞を言えば殺してやろうと思ったが、そうそう引っかからんか」
室井「おい、この期に及んで妙な罠を仕掛けるなよ」
雪女「冗談だ」

 

室井が出会った雪女は、性格も語り口も大変に虚構的だ。遭難者が出ると山が騒がしくなったり開発されるからという実利的な理由で彼を助ける分別があり、妖怪のはずなのに事あるごとに小泉八雲の「怪談」における雪女の描写を元に自分の性質を語ったりする。妖怪なのに人間以上に現実的な目線を持ち、創作を元に己を説明する彼女の前で、現実と虚構の区別がどれほど意味を持つだろうか? 二人の会話に何度も冗談が挟まれるのも、彼ら個々の性格以上に場の力とでも呼ぶべきものが大きいのだろう。彼らの間では現実と虚構の違いがあいまいな場が生まれていると言っていいし、室井が足を踏み入れたのはそんな場所なのである。
親友に裏切られた哀れな男はけして、単に即死を免れたのでも伝説上の生き物と出会っただけなのでもない。突き落とされたあの時、彼は現実と虚構の狭間に迷い込んでしまったのだ。
 

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手足こそ折れていないものの体のあちこちを痛めた室井は雪女の作ったかまくらで夜を越し、翌日、空飛ぶ彼女に抱えられて山を降りる。もちろん、このことは他言無用だ。雪女の住む虚構の世界のことを人間に喋ってはいけないし、喋ったとしても信じる人間などいない。虚構を持ち帰ることは許されず、彼はこうして現実に帰還した……はずが、そうはならなかった。
 
 

2.虚構遭難継続中

現実と虚構の違いがあいまいな世界から生還し、現世とも呼ぶべき場所に戻ってきたはずの室井。しかし、その後の彼の運命は数奇なものだった。
 

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室井「つまらない理由ですね。そのくらいのことで高校時代からの友人に殺されかけるなんて信じ難い。いや、友人だと思っていたのは俺だけだったのかな」
 
室井を突き落とした親友は、実は長年恨みを抱いていたなどというわけではなく、恋愛感情のもつれから衝動的に彼を突き落としたに過ぎなかった。高校時代からの親友と思っていた人間にそんな理由で殺されかけたなど、室井にはにわかに信じられるものではなかった。また彼はその後起業したり結婚するなど順風満帆な人生を送っていたが、妻はこっそり愛人を作って自分を殺そうとし、会社は仲間の裏切りで大会社に吸収合併されてしまった。
 

©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理2製作委員会

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友人、妻、仲間。それら全てに裏切られ肉体的にあるいは社会的に殺されそうになった室井の人生は、このことだけでも劇にできそうなほど劇的だ。一人の人間の体験としてはいっそ現実味に欠けてすらいる。そう、現世に戻ってきたはずの彼はしかし、現実と虚構のあいまいな世界を今も遭難しているのである。そんな人間を救うことは、既に彼を裏切ったような現実的な関係性の持ち主にはできない。現実と虚構の間をさまよう室井にとってよるべとなったのは、今も夢だったのか現実だったのか迷うこともあるような存在――すなわち、かつて自分を救ってくれた雪女であった。
 

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雪女「待て待て待て! お主、人に漏らせば殺すと言ったであろう!」
 
かつて出会った山の近くへ引っ越し、人に化けて町へ降りてきていた雪女を偶然見つけた室井は、いきなり禁じられたはずの当時の昔話をする。無論これは冗談、そしてある種の合言葉だ。彼は11年前の虚実定かならぬあのやりとりが恋しくてここまで来たのだから、冗談交じりでなければ意味がない。そして実際、再会した雪女はその期待に答えてくれた。
 

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雪女「美味い! 米にかけるルーとはまた違うのだな」
室井「その服なんで汚れないんだ?」

 

雪女は週に2,3度やってきては、会社を追い出されたとはいえ裕福な室井の用意した料理や酒に舌鼓を打つ。カレーうどんをすする彼女はどうにも雪女らしくなく、しかしそこにあるのは虚実あいまいであるが故の心地よさだ。雪女は室井の顔に生気が戻ってきていると指摘しているが、通い妻のようだが肉体関係があるわけでもない彼女とのやりとりはきっと、重い人間不信に陥った室井にとって何よりのリハビリとなるものなのだろう。ただ、それはいまだ現実と虚構の間をさまよう彼の身の上を保証してくれるものではない。
 

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九郎「アリバイがあるのに有力容疑者なのか?」
琴子「なにしろアリバイの証人がその雪女なので、警察には主張できないんですよ」

 

ある日警察の訪問を受けた室井は、かつて自分を殺そうとし離婚した妻が先日殺されたことを知る。怨恨からすれば、有力な容疑者となるのはもちろん元夫の室井だ。しかも事件が起きたとされる時間は雪女と一緒にいたので本来はアリバイがあるはずだが、人間ではない、つまり人間からすれば虚構の存在に過ぎない彼女はそのことを証言できない。現実と虚構の間に立っているが故に、彼女と室井は己の現実性を証明できない。雪女は劇中、人間と怪異が関わると厄介事を招きやすいと語っているが、これは人間の罰当たりな行為や怪異による危害に限った話ではなかった。
 

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刑事「おや……飼ってるんですか?」
 
この14話は最後、警察が来ているのを知らずにふすまを開けてしまった雪女が、とっさにウサギに化けて警察の目をごまかす場面で終わる。敷居と変化の姿で遮られた彼女と室井のありようには、妖怪=虚構側の存在である雪女と人間=現実側の存在である室井の間の隔たりがよくよく視覚化されていると言える。だが、彼らが既にそこに収まらなくなっているのも事実だ。
 

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11年前、現実と虚構の枠を飛び越えて出会った男と女は今もその狭間を遭難し続けている。彼らを無事保護することこそ、知恵の神にして本作の主人公・岩永琴子の次なるミッションなのだ。
 
 

感想

というわけで虚構推理のアニメ2期2話のレビューでした。室井と雪女のやりとりが単に小粋というだけでなく、現実と虚構の揺らぎとしての効果を持っているのが面白いです。一粒で二度美味しい。そして11年前は格好良く、現代では無邪気さを見せる悠木碧演じる雪女も一粒で二度魅力的。琴子の本格的な出番ともども、次回を楽しみに待ちたいと思います。
 
 

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