残像との戦い――「吸血鬼すぐ死ぬ2」3話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
まぶたに残る「吸血鬼すぐ死ぬ2」。3話はフクマと新登場のサンズのデュエルの戦いで幕を開ける。アバンの通り今回は"戦い"の話だ。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第3話「Lovecall of Sanzu/がんばれサギョウくん/帰ってきたメチャクチャマン」

オータム書店の編集者サンズは、ロナルドウォー戦記の大ファン。
担当交代をかけて何度もフクマに決闘を申し込むが一度も勝てず、直接交渉しようと事務所を訪れる。
しかし憧れのロナルドを前に、緊張のあまり暴走してしまう。

公式サイトあらすじより)

 

1.3つの残像

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三魅美「やだあ! マジお兄さん達イケてるぅ!」

 

豊富な登場人物に思わぬ出番や設定がなされているのも魅力の本作。今回も吸血鬼対策課では影の薄いサギョウやかつて吸血鬼・辻斬りナギリに襲われたケイ・カンタロウと言った意外な人物にスポットが当てられている。ただ、スポットライトが当たらなければ目立たないのかといえばそれも間違いだ。3本目「帰ってきたメチャクチャマン」では月光院三魅美という新キャラクターも登場しているが、その容姿は彼女の姉である吸血鬼・月光院希美を自然と連想させる。三魅美が映ったその瞬間、私達は吸血女帝たる希美のパワフルさを思い出せずにいられない。直接目にせずとも、人は類似したものからある種の残像を見ることがある。
 

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サギョウ(駄目だそんなイカレポンチな半田先輩みたいな真似は! あれと同類になるのだけは……)

 

「残像」……そう、これはこの3話の3本全てに共通する要素だ。1本目「Lovecall of Sanzu」はオータム書店の編集者・サンズが先輩であるフクマの不在を狙って主人公ロナルドの担当編集になろうとする話だが劇中では何度もフクマの名前が出るし、2本目「がんばれサギョウくん」ではサギョウが有能だが面倒な先輩である半田に取り残されて尊厳の危機に陥る。3本目にしても、カンタロウが抱いているのはかつて自分を襲ったナギリへの過剰なまでに強大なイメージだ。話の内容は多岐にわたるが、彼らはみな残像を見ているのである。
 
 

2.残像との戦い

今回の話では多くのキャラクターが残像を見ている。そして厄介かつ面白いのは、この残像が実像と同じとは限らないということだ。
 

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サンズ「ノーザンライトスープレックスーーっ!」
 
例えば1本目のサンズの目的は既に述べたように大ファンであるロナルドの担当編集になることなのだが、彼女の勤めるオータム書店は武闘派編集者の集まりでありサンズも当初はフクマとデュエルして勝つことでその座を奪おうとしていた。つまり彼女の体には武闘派編集者としての残像が染み付いてしまっているのであり、そのためかロナルドに色仕掛けをしようとした時も咄嗟に出たのは色仕掛けでなくプロレス技の方であった。
 

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サギョウ「ひぃーーーっ!?」
ロナルド「今日という今日は絶対許さん半田~~~っ!」

 

また2本目ではサギョウが半田の指示で彼と一緒にロナルドの事務所に忍び込むも、工作中にロナルドが帰ってきたのを知り半田は一目散に逃げてしまった。だが事務所が大嫌いなセロリで嫌がらせされているのを見たロナルドは半田が隠れているに違いないと般若の仮面を被るほどの憤怒に燃え、実際に隠れていたサギョウは出るに出られなくなってしまう。半田の残像にロナルドもサギョウも振り回されているのである。
 

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カンタロウ「これは貴重な目撃者! こっちの方でありますか!?」
 
3本目になると残像と実像の乖離は極めつけと言えるほど激しく、ナギリは自分に対し全盛期からすらかけ離れたイメージ(残像)を抱き目の前にいるのが当人と気付かぬカンタロウに散々に振り回されることになる。脳内で積み重ねたシミュレーションから辻斬りナギリは相席居酒屋に入ったに違いないだとか、大きな建物に入ったと聞けばナイトプールで潜入捜査をしようとナギリに全力で遊ぶふりをさせようとしたり、深夜のディスコで一緒に扇子を振りまくったり……かつてと違い不死身でなくなってしまったナギリはカンタロウの持つ超大型対吸血鬼用パイルバンカー怖さに自分がナギリだと言い出すこともできず、翌日もうなされるほどストレスを溜め込むことになってしまう。カンタロウによるナギリの実像と著しく異なる残像のせいで、ナギリ自身もまた残像に苦しめられることとなった。
 

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サギョウ「いや、お前のせいだろ!」
 
残像は実像から生じるが、だからといって実像を正確に保存しているとは限らない。しょせんは虚像に過ぎないし、なんなら曲げた方が私達実体にとってプラスに見える場合も少なくない。サンズがデュエルで勝てないフクマから搦め手でロナルドの担当編集の座を奪おうとしたり、半田がロナルドへの嫌がらせを潜入任務とかこつけたりナギリが自分の所在について嘘をつくことなどはこの例に挙げられるだろう。
しかし一方で、私達は曲がったり歪んだりものであっても残像から逃れられないものだ。サンズはロナルドに思いを伝えようとすれはするほど空回りして誤解を招くし、半田は最後にサギョウが変人に思われないようフォローをするが元はと言えば彼が原因なのは変わらないから殴り飛ばされる。ナギリにしてもカンタロウにあちこち振り回される様子は悲惨なほどに滑稽だが、カンタロウにこんなイメージを植え付けたのは元はと言えば自分なのだ。かわいかったり妥当だったり悲惨だったりと印象に違いはあるが、これらはいずれも自業自得の側面が否定できない。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ナギリ「うーん、うーん……」
カンタロウ「辻田さん! 辻田さん!」
三魅美「イケてるぅ~~~!」

 

残像とは、実体から離れてひとりでに歩き出すある種のモンスターである。今回の話のようなケースには至らなくとも、自分のしたことがあらぬ方向に物事を運んでしまった経験は多くの人が覚えがあるのではないだろうか。生きることはすなわち、己の残像と戦い続けることなのだ。
 
 

感想

というわけで吸死のアニメ2期3話レビューでした。本当キャラの魅力が尽きない作品ですね。ナギリに襲われた警官が再登場して逆に振り回す側になるとか、吸血野菜がこんなキャラ立ちするとか誰が予想したろうか。サンズのおポンチ奇行(ロナルドのこのネーミングセンスよ)も楽しいかわいい。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ナギリにとってジョンとの思い出が忘れられない心の支えになっているのが伺えたのも良かったです。さて、次回は予告もまたちょっと変わった感じでしたがいったいどんな話なのか……?
 
 

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