不在の体、存在する心――「吸血鬼すぐ死ぬ2」4話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
魂の在り処を問う「吸血鬼すぐ死ぬ2」。4話では「不在」が大きな意味を持つ。不在というものは、必ずしも不存在と同じではない。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第4話「お店番と不審者/グッドマザー・グッドバイサマー/続・グッドマザー・グッドバイサマー」

幼い頃のドラルクは仕事で多忙な母・ミラとあまり会えなかった。
そんな在りし日の夢を見たドラルクが目を覚ますと、体が子どもになっていた。
ロナルドが事務所に帰ってきたため、咄嗟にドラルクの弟を名乗ることにする。

公式サイトあらすじより)

 

1.不在がまともさを呼ぶ

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
野球拳大好き「オ異食以……」
 
1話3本立ての中で常にコミカルに、しかし時にしんみりする話も盛り込んで飽きさせない本作。4話は珍しく連続した話となる2・3本目が強い印象を残すが、1本目「お店番と不審者」も存在感ではけして負けていない。吸血鬼・野球拳大好きの魔手がギルドマスターの娘コユキに襲いかかる話であるが、この1本目が面白いのは野球拳大好きが「ツッコまれていない」点だ。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ふざけた名前からも分かるように、野球拳大好きは非常に分かりやすい変態吸血鬼である。野球拳とそれによる女性の脱衣をこよなく愛する、千葉繁ボイスが似合うふざけた奴……催眠術と結界を同時に操る高等技術を無駄使いする様は存在そのものがツッコミ対象と言っていいほどだが、それにも関わらず今回の彼はツッコまれない。なぜかと言えば、事実上漫才の相方を務めるコユキが常に彼の想像を上回っているのが大きい。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
コユキ「オムレツです」
野球拳大好き「ほんげーーー!? オムレツこんな鋭角の部分ないだろ!?」

 

コユキは口数の少ない、一見すると大人しげなキャラクターである。ハンター(吸血鬼退治人)へのリベンジに燃えていた野球拳大好きも、偶然にも彼女が一人でギルドの留守番をしていると知ってほくそ笑んだほどだ。だが実際のところ、コユキはそう甘い相手ではなかった。単純に野球拳を仕掛けようとすればプロレス技で返り討ちに遭い、親しくなって警戒を解こうとすれば「オ異食以(ゲロマズな感想からどうにか4文字拾って捏造した"おいしい")」料理を食べる羽目になり、軌道修正のため料理を手伝おうとすれば亜空間殺法じみた調理に愕然とし……野球拳大好きはコユキの行動の数々にツッコミが追いつかず、故に自分がツッコまれる隙がない。コユキは初めて野球拳大好きを見た時「変な人が来た」と内心語っているが、今回変人なのはむしろ彼女の方だ。ならば自然、変人ぶりで劣る野球拳大好きは相対的にまともにならざるを得ない。

 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
コユキ「まずあんことこのわたをフードプロセッサーで……」
野球拳大好き「ばーーー!? 食べ物で遊ぶんじゃありません!」

 

野球拳大好きは今回、何度もコユキにツッコミを入れる。闖入してきた吸血鬼・熱烈キッスの姿揚げにコユキがかぼすを絞って食べるよう言えば「サンマじゃないんだから!」、あんことこのわたをフードプロセッサーに入れようとすれば「食べ物で遊ぶんじゃありません!」、パフェが手順1と2の間で変貌すれば「なんでパフェがいきなりインフルエンザウイルスみたいなるんだよ!?」……警戒を解くためとの題目はあるが、野球拳大好きの実情はほとんどコユキの保護者だ。彼女が指を切った際に襲いかかった吸血カマドウマを野球拳結界で撃退する場面に至っては、野球拳大好きは事実上吸血鬼退治人の代わりすら務めてしまっている。その有様は「まとも」以外の何物でもない。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
野球拳大好き「じゃんけん強ぉ……っ!」
 
この4話、野球拳大好きは別人になったわけでもないのにツッコミ側に回るほど「まとも」である。料理を褒めたり吸血カマドウマから助けてくれたことで気を許したコユキに目論見通り野球拳を仕掛けることに成功するが、感謝の心に付け入っても彼女を全裸にしたりは(コユキがじゃんけんが異様に強いという理由あってだが)できない。もちろん正規の退治人や他の人間が一緒にいれば彼がこのような役回りをする必要はなかったわけで、今回は父ゴウセツや他の退治人の不在が野球拳大好きのまともさにスポットを当てていると言えるだろう。
 
 

2.不在の体、存在する心

不在であることは時に意外な効用をもたらす。これを1本目に続いて教えてくれるのが2本目「グッドマザー・グッドバイサマー」、そして続く3本目「続・グッドマザー・グッドバイサマー」だ。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ロナルド「お名前は?」
ラルク「ど……ドラツー」
ロナルド「名付け雑過ぎんだろ! 俺が昔飼ってた亀かよ!?」

 

2本目は目を覚ましたらなぜか子供になっていた主人公・吸血鬼ドラルクが自分はドラルクの弟ドラツーだとホラを吹く話だが、話題の中心はむしろドラルクの不在にある。もう一人の主人公であるロナルドはドラツーが何を言ってもドラルクに腹を立てるし、ドラツーはドラツーでロナルドや事務所を訪れていた吸血鬼対策課のヒナイチにドラルクの印象を尋ねたりする。またロナルドとヒナイチは普段はぞんざいに扱っているドラルクへの親しみを語ったりもするが、これはドラルク以外の相手にしか――ドラルク「不在」の時にしか語れない本心であろう。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ミラ「寂しくさせていた分の埋め合わせをさせてくれ」
 
そして2本目の最後ではドラルクが子供になったのは母であるミラが彼の変身能力に介入したためであることが判明し、彼女はドラルクを連れ去ってしまうのだが――こんなことをしたのにも「不在」は大きく関わっていた。ミラはドラルクが幼かった頃は忙しくて家を不在にしがちだったことを気にし、今になってその埋め合わせをしようとドラルクをかつての姿に戻して連れ去ってしまったのだ。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ミラ「送る? 誰に」
ラルク「あれ? 分からない。誰にでしょう……でも見せたいんです、だってきっと、お友達だもん!」

 

3本目、子供に戻されたドラルクは精神も肉体に引きずられ、もはやロナルド達のことを覚えていない。いわばその記憶は不在である。しかし、だからといってドラルクが本当の意味でロナルド達を忘れてしまったわけではなかった。彼は母に連れられあちこちの景色を見る中、携帯ゲーム機を使って撮影した写真をロナルド達に送っていたのだ。ドラルクは具体的に誰に送っているのか己自身でも分かっておらず、しかしそれはきっと自分の友達なのだということだけは確信していた。誰のことなのかが「不在」になったことは、むしろドラルクのロナルド達への感情を素直なものにしたのだと言える。結果、ロナルド達は写真を頼りに二人に追いつき、ドラルクも元の姿を取り戻すことができた。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ラルク「こんなことする必要なんてなかったんだ。あなたが弁護士として働く姿は幼い私にとって、十分に誇らしい宝物だった。あなたは昔から不器用で家を開けがちで、やることが極端な……私の大切なお母様だ」
ミラ「ドラルク……」

 

元の姿に戻ったドラルクは、母が自分を子供にして一緒にいようとしたことに一通りの怒りをぶつける。何の話もなく突然こんなことをされたのだから、腹を立てるのは当然だ。しかし一方で彼は、こんなことをせずともあなたは自分の母親であるとも語る。ミラは自分が仕事で家を留守にばかりしていたことを後悔していたが、父ドラウスが新聞などで教えてくれた母の活躍は幼少のドラルクにとってとても誇らしい宝物だった。「不在」であったことがむしろ、母の存在をドラルクに強く刻み込んでいたのだ。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
人には体は一つしかなく、いたい場所や必要とされる場所全てにいられるわけではない。どこかに存在する時、私達は別のどこかでは不在になっている。だが、この不在は欠落しか意味しないとは限らない。昔からある建築物は過去そこにいた人の存在を想像させるし、何気ない仕草が両親祖父母に似ていることを指摘された経験は少なからぬ人が持っているはずだ。こうした時、不在であることはけしてハンデにはなっていない。むしろ、なまじ目に見えている時より存在感が勝っているほどだ。ミラがドラルクの言葉に安心できたのも、自分がドラルクの近くにはいてやれずとも心の中には存在できていたと知れたからなのだろう。
不在は不存在と同じではない。時には、不在からすら存在を感じるのが私達人間なのである。
 
 

感想

というわけで吸死アニメ2期4話のレビューでした。2,3本目でぼんやり浮かんだイメージだけだと1本目との兼ね合いがなかなか説明できず手間取りました。千葉繁さんのツッコミが冴える、冴える! どうして普通は1回限りの使い捨てになりそうなキャラがこんなに作品に溶け込めるのか。ドラルクに怒られて困惑する時のミラ役田中敦子さんの演技もなかなかレアだったし、笑えて感動もできて良い回だったと思います。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
今回もヒナイチがかわいい。少年ドラルクとセットでお姉さん側になるヒナイチというのもアリだな……
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>