まっすぐを問い直せ――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」33話レビュー&感想

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
進むに進めぬ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。33話ではいよいよプッチ神父との決戦が始まる。重力を巡る新たな戦いは、まっすぐさを問い直す戦いである。
 
 
ウェザー・リポートスタンド能力を封じ込めたDISCを託された徐倫は、プッチ神父を追ってケープ・カナベラルへとたどり着く。スペース・シャトルの打ち上げ施設があるこのエリアは、地球上でも「引力」が弱い場所。新月まであと2日――『天国の時』を待つプッチ神父の身体には異変が起こりはじめていた……
 

1.信じられぬ直進

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「天国へ行く力」を我が物にせんと企むプッチ神父を止めるべく、刑務所を脱獄して彼を追い続けてきた主人公・空条徐倫。これまでの戦いでプッチ神父の盟友DIOの息子達はみな撃破したし、目的地であるケープ・カナベラル、ケネディ宇宙センターもあと僅かというところまで迫っている。後はプッチ神父を倒せば全てが終わる――状況は、徐倫達の乗った車が進むなだらかで雄大な道のようにシンプルと言えるだろう。だがそれにも関わらず、徐倫の心は揺れ惑っている。
 

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徐倫(父さん、教えて……! あたしが車に乗らなければ、ウェザーは死ななかったかもしれない……)
 
徐倫は直前の戦いにおける、仲間の一人ウェザーの死に心を引きずられていた。ウェザーは死闘の末にプッチ神父を追い詰めていたが、徐倫の乗った車が突っ込んだために逆に殺害されてしまったのだ。
プッチ神父はこの皮肉な結果は天の啓示であり、徐倫達は自分を天国に押し上げる存在に過ぎないのだと言う。もう一人の仲間であるアナスイはウェザーが自分に救済されていたと言ってはくれたが、それはプッチ神父の残した言葉全てを否定できてはいない。徐倫が敵を利する戦いをしてしまっている可能性は依然残っており、ならば彼女はプッチ神父を止めるための道を「まっすぐ」進めていないことになる。ただの偶然だと切って捨てるには、仲間の死は重過ぎる出来事だ。車はまっすぐケープ・カナベラルに進んでいるが、本当に直進できているか信じられなくなっているのが今の徐倫なのである。
 

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アナスイ「手を広げて見せろって言ってんだ――ッッ! 君は、君はまさか! まさか――!」
 
合理性などに裏打ちされた、まっすぐに見える道が目的地に繋がっているとは限らない。これは今回、徐倫を追って脱獄したアナスイのアプローチからも言える。彼は徐倫と再会したら好意を打ち明けようと指輪まで用意していたが、自分によりかかって徐倫が寝ているという絶好のシチュエーションすらあったにも関わらず失敗した。寝起きに刑務所時代嫌な思い出のあるワニを見かけた徐倫は、自分の手の中にあった指輪をそれが何かも知る前にワニに投げつけてしまったのだ。刑務所で苦労して調達した指輪を投げられたアナスイが泣き喚かんばかりにショックを受けるのは無理もないが、一般的な恋愛の形は彼にとってまっすぐな道ではなかったということなのだろう。こうしたまっすぐに見えるねじれとでも呼ぶべきものは、ケープ・カナベラルに近づくにつれ甚だしくなっていく。
 
 

2.現出する不安

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プッチ神父が「天国へ行く力」を得る方法。それは盟友DIOの「緑色の赤ん坊」と一体化した彼が北緯28度24分西経80度36分の場所へ行き、新月の時を迎えることだと言う。この座標は赤道付近、ケープ・カナベラルのケネディ宇宙センターとなっており、科学の結晶とも言えるそれは宗教的概念である天国とは相容れないようにも思える場所だ。これは偶然なのか? 否。
 

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ナレーター「ロケットを打ち上げる場所としては、赤道に近い方が良いとされています。地球の自転の遠心力があるため、両極地方よりは引力が弱くなっているためです」
 
宇宙センターのナレーターは、プッチ神父を始めとした来訪者になぜこの場所が宇宙センターになったかを解説する。ロケットを地球の外に飛ばすには引力が障害となるが、赤道付近は地球の回転の遠心力が強くその分だけ引力が軽くなる。また地球の引力は同じ緯度でも一定ではなく、海面が50mも盛り上がるほど引力の弱いこのケープ・カナベラルは宇宙センターとして最適なのだ……と。
これは単なるウンチクではない。DIOプッチ神父は度々「人と人との間には引力がある」と語っているからだ。引力は万有のものであるから、それがもっとも小さなケープ・カナベラルは人と人との間の引力から逃れるにも最適な場所である。ロケットを地球の外に打ち上げるのと天国へ行くことは原理としては同じであり、ならばプッチ神父がこの世のことわりを逸脱する新たな力をここで発現させるのは必然と言えるだろう。新たな力は一人の観光客を不可思議な現象で死に至らしめ、やがて徐倫達のところまでその影響を広げていく。
 

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エルメェス「あ、あたし達、このままだと落っこちるぞ! 下じゃあない、後ろに!」
 
徐倫達は乗っていた車が突然失速し困惑していたが、やがてこれが単なる故障ではないと気が付き愕然とした。見れば前方を走っていた車が自分達の方に飛来し、己の体も後方に引っ張られているのだ。驚くべきことに、自分達は垂直にではなく水平に落下・・している。
 

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エンポリオ「落ちるだって!? 水平に落ちるなんて考えられない! 地面があるから重力なんじゃあないのか!?」
 
車を運転していた少年エンポリオが愕然とするように、これは驚天動地の出来事だ。地面のない水平方向に落下するなどというのは全く物理法則を無視した話であり、言い換えれば道理が「まっすぐ」機能していない。意図したわけではもちろんないが、プッチ神父の新たなスタンドは徐倫の漠然とした不安を具体的な状況として現出させたのである。
 
 

3.まっすぐを問い直せ

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アナスイ「神父がこの先にいるのに、神父へは向かわずこのまま後退するって言うのか!? それ以上は無理だ! 徐倫、お前の体がもたない!」
 
かくて徐倫が抱えていた不安は、実際的な問題として彼女達を襲う危機となった。一行は車からはなんとか脱出するも、落下物に妨害され仲間の一人エルメェスとはぐれてしまう。糸を出すスタンド「ストーン・フリー」で自分の体が崩れかけるまで彼女を探そうとする徐倫は不安の通り、仲間を助けるためにまっすぐ進もうとしてかえって道を見失っている。しかしこの具体化した状況は、危機であると同時に好機だ。目に見える形になったのなら、徐倫はそれに対処することで観念的な部分にまで解決の糸口を見出すことができる。
 

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アナスイ「やるんだな、徐倫?」
徐倫「もちろん。心は決まっているわ」

 

プッチ神父の新たなスタンドが引力に影響するのなら、新月による引力の影響がまだない現状はおそらく前兆に過ぎずもっと危険な事態が訪れること。彼はウェザーから深手を負っており、倒しに行くなら早い方がいいこと。エンポリオアナスイの言葉を受け、徐倫は再び歩み出す。落下方向の変化で垂直になったガードレールを「まっすぐ」昇っていく。そう、まっすぐ進む方向は前とは限らない。まっすぐに見える道がそうでないことは、まっすぐな道が存在しないことを意味しない。奇妙な冒険の名を冠する本作がむしろ正道を行く物語であるように、まっすぐさは問い直された先でこそ見つかるものだ。
 

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???「始末シニキタ……2日マテナイナラ……!」
 
昇るという奇妙な形で、しかし常道同様にケネディ宇宙センターのチケット売り場を訪れた徐倫達はそこでプッチ神父の新たなスタンドの攻撃を受ける。打撃を受けた徐倫の右手がめくれて裏返るグロテスクな光景からも見えるように、重力を操るこの敵との戦いは激しいものになるだろう。だが、徐倫の不安に対する答えもまたその先にしか無い。この決戦はきっと、「まっすぐさ」を問い直しより純化する戦いとなっていくのだ。
 
 

感想

というわけでジョジョ6部アニメ3話のレビューでした。重力や方向性の話、というとっかかりからどう進めたものか悩みましたが、自動車の進行方向を仮説に重ねることでだんだんレビューのテーマが見えてきました。徐倫が自分によりかかって眠る姿以上に、目的に向かって遠くを見る仕草に惹きつけられるあたりにアナスイの恋心の「まっすぐさ」が見えるのもいいなあ。
さてさて、壮絶なこの戦いの映像化はどんな感じになるのか。おっかなびっくり次週を待ちたいと思います。
 
 

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