覚めない夢現――「吸血鬼すぐ死ぬ2」9話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
うたかたの「吸血鬼すぐ死ぬ2」。9話では眠ったままの武々夫がロナルドの事務所へ運び込まれる。今回は夢と現を巡るお話だ。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第9話「夢の国BBOLAND/お父さんと不審者/ハロー・ハワユー・いまおヒマ?」

下等吸血鬼の夢吸いにより、昏睡状態になってしまった武々夫を助けるため、
ロナルドとドラルク、ジョンは武々夫の夢の世界に入り、中から起こすことにする。
だが現実とはかけ離れた夢の世界にロナルドたちは困惑する。

公式サイトあらすじより)

 

1.非現実的に思える写実的な夢

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吸血鬼退治がともすると行方不明になりがちな「吸血鬼すぐ死ぬ」だが、2期9話の1本目「夢の国BBOLAND」は下等吸血鬼に襲われた少年を主人公ロナルドとドラルクが助ける退治人らしい筋立ての話だ。とはいえそこは本作、シリアス中心とは行かない。
 

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ラルク「逆に男はまったくよく見てないのが分かる」
ロナルド「ショットが消しゴムみたいだもん」

 

ロナルド達は夢吸いという下等吸血鬼に眠らされた近所の少年・武々夫を起こそうと彼の夢の中に入り込むが、夢吸いが見せる武々夫の理想の夢はかなりいい加減な代物だ。周囲の景色は子供の絵のようにディテールが甘く、男性陣は消しゴムか何かのようにその姿は大雑把。対して女性陣はピンナップか何かのように高精細(というか過剰)と、欲望だだ漏れの有様にロナルド達は呆れてしまう。夢と言えば大変に夢らしい景色と言えるだろう。ただ、これは非現実的なのかと言えばそれは誤りだ。
 

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夢ロナルド「武々夫さんはかっこいいな」
ロナルド「うわふざけんなマジで!」

 

私達の意識はいい加減なもので、見たものを見た通りには認識しない。毎日通る道でも存在に気付きもしないものがあることは珍しくないし、特別な好感を持つ相手はほとんど輝いているようにすら見えることがある。意識次第で目に映っているものが見えなかったり、逆に映っていないものが見えたりするのだ。すなわち、ロナルド達が入り込む夢の中は武々夫から見た世界がどういうものかを示す点でほとんど写実的・・・とすら言えるのである。
 

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武々夫「いでよ我が最強の女戦士! 艶やかなる亜麻色の髪の艶めく巨乳の! かわいく優しいボインのおっぱいのエロい……」
ラルク「……店長」
武々夫「うわああああああ!」

 

また、夢の中はなんでもありと思われがちだがこれは物理法則に限った話で、見るのが人間である以上そこには人間の意識の制約がある。夢の内容が当人の感じるストレスや精神状態に大きく左右されるのはよく知られたところだろう。故に夢から覚めるのを拒絶した武々夫は自分のイメージしたドラゴンや女戦士でロナルド達を苦しめるも、「美女の体の父親」というイメージをドラルクに植え付けられたばかりに夢を悪夢に書き換えられて敗れてしまう。夢の中というのも案外、現実同様に不自由なものなのだ。
 
 

2.まさかのドリームタッグ

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夢と現実の距離感。そうした点に目を向けた時、2本目「お父さんと不審者」は1本目と逆に夢が現実に顕現する話だ。こちらは吸血鬼野球拳大好きと吸血鬼退治人ギルドのマスター・ゴウセツが中心となる内容だが、種族や職業からは両者は基本的に対立関係にある。ましてこの2人の場合、野球拳大好きはその愛娘コユキに野球拳を仕掛けたことがあるから尚更だ。ゴウセツに捕まった野球拳大好きはコユキが現れると聞いて慌て、自分が彼女に野球拳を仕掛けた過去を知られる前に逃げ出そうとしている。2人が共に戦う、などとネタバレをされても多くの人はまさかと思うだろう。
 

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野球拳大好き「待てや、俺にも手伝わせろ。パクリ野郎どもぶっ飛ばしてやる!」
 
だが、このありえないはずの共闘は今回実現する。2人のところにやってこようとしたコユキが吸血鬼脱衣麻雀クラブに囲まれたためだ。なんだかんだで懐かれているコユキが自分のパクリのような相手に襲われる状況は野球拳大好きにとっても看過できるものはなく、結界と催眠術を同時に操る高等吸血鬼と引退してなお強力な退治人のドリームタッグ――「夢」のようなコンビがここに誕生する。吸血鬼脱衣麻雀クラブは彼らの圧倒的強さになすすべもなかった。
 

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世の中は夢のように思えることが実現する時がある。だがそれは逆も同様だ。事情を察したコユキが過去に野球拳を仕掛けられたことを黙ってくれたにも関わらず、その秘密は偶然通りかかった野球拳大好きの弟に勘違いからそれをバラされてしまう。かくてドリームタッグは夢のような理由で霧散し、野球拳大好きはゴウセツから制裁を受けることとなった。
 
 

3.覚めない夢現

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御真祖様「遊ぼ? じーっ……」
ロナルド(これ暇って言ったら大変なことになるやつだろ、知ってるもんこういうおばけネットとかで見るもん!)

 

夢は時に現実に姿を現す。2本目が示唆したこのテーマを、3本目「ハロー・ハワユー・いまおヒマ?」はコミカルさと不思議なほろ苦さで教えてくれる。この話はドラルクの祖父にして御真祖様と呼ばれる吸血鬼が新横浜を再訪する話だが、彼の前にドラルクやロナルド達は大慌てだ。なにせ彼は「人形サイクロン」だの「無限の気力と体力を持つ小5のスーパーマン」などと呼ばれる自由人で、暇か聞かれて肯定したり提案した遊びに興味を示そうなら地の果てまで引きずられていくことになる。普通の人間がそんなことをしないのは気力や体力による現実的制限があるからで、御真祖様はいわば四六時中夢の中にいる存在だとも言える。ロナルドやギルドの退治人達と遊ぼうと色々なちょっかいをかける様は「笑ってはいけない」状態でなんともコミカルだ。
しかし彼は本当にただただ自由な、普通の人間には理解不能な存在なのか? 否。ドラルクの父ドラウスは御真祖様が去った後、彼が今日こんなにも人間と遊びたがったのは昔の人間の友人を思い出したためではないかと推測している。
 

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ドラウス「お父様があんなに人間にちょっかいかけたがるとは……思い出しているのかもしれないな。亡くした、人間の友人を」
 
ロナルドや私達にとって御真祖様が「夢の中」にいるのは平常運転だ。そこに理由など考えない。けれどそれが、吸血鬼より遥かに寿命の短い人間と遊んだ夢のような日々を取り戻したいためであるなら、その夢には現実という基底が存在したことになる。1本目に話が戻るようだが、夢は夢だけで生まれたわけではなかった。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ

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私達はしばしば、夢と現実を明確に区別できるものだと考えがちだ。しかし夢物語と思われていたことを実現した人はいるし、逆に過去からずっと続く現実だと思われていたものが案外歴史がなかったり呆気なく破綻することも少なくない。リアリズムだとか現実を直視しようなどといったことがよく言われるけれど、結局私達は夢から離れて生きることはできないのだろう。
 
今回の冒頭、武々夫の父であるヴァミマの店長は彼が目を覚まさないことを心配してロナルドの事務所へやってきた。けれど、物理的に目を覚ましているからといって夢から覚めているとは限らない。人間は夢を見ているようで現実と繋がり、起きていながらも夢を見る、夢現から覚めることのない生き物なのである。
 
 

感想

というわけで吸死のアニメ2期9話でした。ひたすらハイテンションなのに、最後でさらっと寂しさを混ぜて来るのがズルいですね。友人といた時の御真祖様、どんな感じだったんでしょう。あと、夢吸いの夢は自分の理想の世界はどんなのなのかとか自分に世界はどう見えているのかとかちょっと体験してみたい気もします。千葉繁さんの声がまたたくさん聞けて耳が幸せな回でした。

 

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