ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第34話「C-MOON その①」
(公式サイトあらすじより)
1.『C-MOON 』は見掛け倒し?
C-MOON 「徐倫カラダト言ッタロウ……始末スルノハ」
プッチ神父を追ってケープ・カナベラルのケネディ宇宙センターへ到着した主人公・徐倫達。彼女達の前に立ちふさがるプッチ神父の新たなスタンド『C-MOON 』は一言で言ってえげつないスタンドだ。重力を操る力を持つこのスタンドは対象に触れることで重心へ向かうはずの重力を反転させ、殴られたものは鉄骨だろうが靴のスパイクだろうが内側から外へ「裏返る」ことになる。知らずに初撃をガードした徐倫は右手の中身が飛び出すという見るだけで気持ち悪くなるようなダメージを受けており、間違っても攻撃されたくないスタンドを挙げれば『C-MOON 』はおそらく上位に入ることだろう。3km四方の重力を垂直から水平に変えて一帯に大混乱を巻き起こしているのと合わせて、最後の敵の新たな能力に相応しいスタンドだ。……だが徐倫達が苦戦しているか?と言えば実のところそれほどではない。
先に述べたように『C-MOON 』の攻撃を受けた徐倫のダメージは深刻なものだ。手の中身が外側に飛び出すなど、普通ならもうまともに手を動かすことができなくなってもおかしくない。かすっただけでこうした状態に陥る、一撃一撃が致命的になりかねないところに『C-MOON 』の怖さはある。だが右手だけでなく蹴りを加えた左足にまで打撃を受けた徐倫を見て絶叫する仲間、エンポリオ少年に対する徐倫の態度は至って落ち着いたものだった。
徐倫は形状の戻る手足とともに、裏返りならもう一度裏返させれば元に戻せることを指摘する。一度裏返った際に筋肉や神経等が千切れているのでは?というのはさておき、ここで重要なのは『C-MOON 』の攻撃が純粋な破壊ではなく裏返しに過ぎない点だろう。能力によって可逆的な現象を起こしているだけであって、スタンド自体が他と一線を画するパワーを持っているわけではないのである。
徐倫(こいつの破壊は、重力を利用した破壊だからパワーがあるように見えるだけだ!)
また戦いの中で、徐倫は『C-MOON 』がどういうスタンドなのかを冷静に分析する。本体であるプッチ神父の姿が見えないため当初はパワーと射程を兼ね備えた自動追跡型のスタンドと考えていたが、パワーは既に分かっているように見せかけに過ぎず、また接近戦を仕掛けてみると自動追跡型特有の大雑把さが無い。正確に急所を狙いこちらの攻撃をミリ単位でかわす動作からすれば相手は遠隔操作型であり、見つかっていないだけでプッチ神父は近くにいる……と。
裏返しへの対処やこの分析から言えるのは、『C-MOON 』はあくまでも既存のスタンドの範疇に収まる存在だということだ。重力操作の派手さに目を奪われることなく対峙すれば、つけ込む弱みも好機も見えてくる。そう、劇中でプッチ神父はこのスタンドを無敵と評しているが、その無敵さを「裏返す」ことができると分かってくる。徐倫は裏返しがけして『C-MOON 』の専売特許ではないと看破したのだと言えるだろう。
2.裏返しの中心
エンポリオ「重力! いままで起こったことから考えると、これも重力だよおねえちゃん!」
裏返しは『C-MOON 』の専売特許ではない。実際この34話は裏返しを操る『C-MOON 』による窮地をいかに裏返すかが鍵になっている。だがこれを単なる逆転に次ぐ逆転のように解釈するのは、本作を凡百のバトル漫画と同列に並べる行為に等しい。そこに陥らないためのヒントは、『C-MOON 』に関するエンポリオの、そして徐倫達の前に現れた際のプッチ神父の語りから拾うことができる。
エンポリオ「地球もリンゴも万物には重力が働いていて、それは全て重心の方向に引っ張られている。それがこの世の法則! だがこいつは重力の方向を狂わせて違う方向にする! だからあの拳で攻撃されたものの形は裏返しになって、全てのものはどこまでか知らないが水平に落ちていく!」
エンポリオは言う。重力とは重心へ向かって引っ張る力だが、『C-MOON 』はその方向を狂わせるのだと。攻撃されたものの形が裏返るのは重心と逆方向へ重力を操作するからなのだと。
プッチ神父「私の肉体が基準だ。私のいるこの足元で重力は逆転する。私に近づけば近づくほどな……」
また、追い詰められた『C-MOON 』を救うべくプッチ神父が姿を見せた際、近くにいた徐倫は重力が90度どころか180度変わって空の方向へ引っ張られてしまった。プッチ神父いわくこの能力は彼の肉体を基準に発現するものであり、自分に近づけば近づくほど重力の逆転は激しくなるのだと言う。
エンポリオの言う「重心」、プッチ神父の言う「基準」。これは概念としては同じものを指している。回転するにせよ逆転するにせよ、重力には中心となるものが必要なのだ。中心の重要性に比べれば、重力そのものがどの方向に向かうかは些細な問題に過ぎない。では、本作における中心とは一体誰を指しているのか? 言うまでもないだろう、本作の中心となる存在――主人公は空条徐倫だ。裏返し(逆転)はよくある話のように敵味方双方が起こしているのではなく、あくまで徐倫を中心に発生しているのである。
3.空条徐倫は裏返らない
重力の中心に、裏返しの中心に結局は徐倫がいる。これはこの34話の裏返しにおける徐倫の存在感を見ても明らかだ。彼女は仲間の一人であるアナスイが奇襲を仕掛けようとして返り討ちに会い落下した際、自分の体を糸に変えるスタンド『ストーン・フリー』によって救うだけでなく『C-MOON 』の首に巻き付けて動きを封じ、危機を好機に裏返している。
また徐倫の拘束に対し『C-MOON 』が裏返し能力で糸をボロボロにして逃れようとした際、アナスイは自身のスタンド『ダイバー・ダウン』の潜行能力で裏返しを引き受け時間稼ぎを行っているが、彼がこんな行動をとったのは愛する徐倫を救うためだ。自分から自分の肉体を傷つける行為はしかし、ここでは徐倫を中心として献身的行動へ裏返っている。
プッチ神父「やはりお前だけは全力で始末しとくべきだった。刑務所で、初めの時点で……」
回転も逆転も、結局は徐倫を中心に起きている。姿を隠していたプッチ神父が徐倫の前に現れるのは、『C-MOON 』を救うため以上にそのことを理解したためだ。どれだけ優れた能力を手にしたとしても、徐倫がいる限りそれは彼女を中心に方向をいじるだけのものに過ぎない。それでは彼の目的である「天国へ行く力」を手にすることはできない。先に引用した台詞でプッチ神父は自分の肉体が基準なのだと語ったが、これは能力の解説のみならず自分こそが「中心」なのだという宣言なのである。そしてそのためには、彼は徐倫を中心から引きずり落とさねばならない。
動きを封じられた徐倫は『C-MOON 』によって心臓が裏返る致命の一打をくらって落ちていき、プッチ神父はまだアナスイとエンポリオが残っているにも関わらず踵を返す。当然だろう、中心である徐倫さえ始末すればそれで全ては終わるのだから。徐倫の中心である心臓を裏返した以上、世界の中心は彼女から自分に移った……はずだった。
エンポリオ「じょ、承太郎さんだ。近くまで来てる……し、信じられない! おねえちゃんは生きている!」
涙を流し絶望にくれていたエンポリオは、ポケットに入れていた携帯電話の着信音で我に返る。携帯電話にメールを送っていたのはなんと徐倫の父、少し前まで生死の境をさまよっていたはずの空条承太郎。そしてメールの内容とは、方法こそ不明だが徐倫の生存を承太郎が感じているというものだった。
空条徐倫が生きている。この事実は今物語に登場している全ての人間を震撼させるものだ。承太郎同様に肉体の共鳴でそれを悟ったプッチ神父は今度こそ彼女を始末せんと走るし、アナスイは徐倫を守るためにプッチ神父の攻撃に向かう。主人公の心臓と共に止まったように思えた世界は、物語は再び回転を始めた。
空条徐倫こそは本作の重心であり、基準であり、すなわち中心だ。そのことは、彼女の心臓を裏返したくらいでは裏返らないのである。
感想
というわけでジョジョ6部のアニメ34話レビューでした。「逆転」だけだとテーマとしては"座りが悪い"な……と考えていたところ、プッチ神父の言葉をヒントに重力の中心に目を向けたことで書く内容がまとまりました。「ダイヤモンドは砕けない」的な。最近では珍しい早さで書けましたが、生活習慣による脳の疲労と寝不足が多少改善されたおかげなら嬉しいな。などと書くと次週ドツボにはまりそうで怖い。
さてさて、徐倫はいかにして助かったのか、そこにどんな意味があるのか? 解題とも言えそうな次回が楽しみです。
<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>
空条徐倫は裏返らない――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」34話レビュー&感想https://t.co/YbLPhZmIk4
— 闇鍋はにわ (@livewire891) March 11, 2023
重力の回転や逆転から見えてくる、徐倫の主人公性について書きました。#jojo_anime#StoneOcean#ジョジョの奇妙な冒険 #ストーンオーシャン