虚構の巨人――「虚構推理 Season2」22話レビュー&感想

©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理2製作委員会
人形だらけの「虚構推理 Season2」。22話では莉音達が琴子の求めた答えにたどり着くが、本題はむしろその先にある。この事件、なぜこうも長いお膳立てが必要だったのだろうか?
 
 

虚構推理 Season2 第22話「招かれざる判定役」

殺された澄の人生を思い返す音無莉音と亮馬。澄は父親の音無伝次郎の方針に従って生きてきた。人生を捧げてグループを発展させてきたが、その成功法則は続かず崩壊寸前まで迫ってしまった。そんな時、澄の殺人事件が起きてグループは助かった。莉音はその経過から事件の真相がわかったかもしれないと言い……!?
 

1.澄の実像

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「23年前、妻である澄を殺害したのは自分である。その方法を推理し優秀な答えを出した者に相続の優先権を与える」……巨大ホテルグループの会長・音無剛一の奇妙な課題の判定役を依頼された琴子、そして剛一の子や孫達。前回の話では剛一の3人の子供全員が澄の殺害を企てていた過去が明らかになった。婿養子の剛一はかつて、創業者の娘にして社長であった澄の強引さで音無グループも子供達も崩壊するのを懸念し、澄さえいなくなればという一心で妖狐に殺害を依頼したわけだが心境は子供達も同じだったのだ。夫にも子供達にも死を望まれる悲しき独裁者……澄にそんなイメージを抱いた人も多いかもしれない。だが今回明らかになるのはむしろ、澄の意外な実像だ。
 

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亮馬「音無グループを大きくしたのは母さんだが、そうするように命じたのは伝次郎氏だ」
 
課題に出席した娘の莉音から電話を受けた剛一の長男・亮馬は、母の死後彼女も実は犠牲者だったと気付いたことを打ち明ける。澄は確かにグループを大きく成長させたが、それはあくまで既に澄の父・音無伝次郎の指示だったというのだ。彼は生前にグループ拡大のための方針や計画を澄に遺しており、それは必要な子供の数や子供達にグループをどう継がせるかまで含めた具体的なものだった。23年前の時点ではこの計画がグループにも子供達にもやがて破綻をもたらすことに澄もおそらく気付いていたが、これまで計画通りにやって成功してきたが故にそこから逸脱できなかったのだろうと亮馬は推測する。
 

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巨人のような独裁者と思えた存在が、より上位の存在の操り人形でしかない。この構図はしかし実のところ、本章で既に描かれている。そう、この課題における岩永琴子の立場とはまさに独裁者にして操り人形なのである。
 
 

2.澄と琴子

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琴子「妙な課題を出せば、妙なことも起こるものです」
 
前回の話を見ても分かるように、剛一の課題における琴子は独裁的である。判定役を務める彼女には絶対的な権限があり、だから望む方向に話を誘導するためにあえて剛一の子を愚弄するような発言をしたり、母の殺害を企てていたという一世一代の告白を些末なことと切って捨てたりする。対等の立場ならとてもできないことだ。だが、琴子は別に自ら望んでこんなことをしているわけではない。巨大グループ企業の会長である剛一の頼みを断れず、やむなく彼の望みに沿うよう振る舞っているに過ぎない。殺人という特異な手段による成功体験を戒めたいという剛一がその実、琴子という特異な存在に今回も頼っており自身は成功体験を内面化していると気付いているにも関わらずだ。かつて澄は伝次郎の計画のほころびに気付きながらも逆らえなかったが、琴子もまた剛一の課題のほころびに気付きながらも逆らえない点で同じ状況に置かれていると言える。だから琴子は、かつて澄が子供達にしたように課題の参加者達を意のままに操るのだ。澄の次男晋、長女薫子の夫・耕也は前回澄の殺害計画を告白したがこれは琴子の揺さぶりの結果だし、莉音は今回課題の答えに気付くがそれも琴子に誘導された結果に過ぎない。
 

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莉音「音無グループを守り、おばあさまも恐怖を感じずに済む唯一の手段でした」
 
莉音がたどり着いた、剛一はいかにして澄を殺害したかへの答え。それはなんと、澄は他殺ではなく自ら命を絶ったというものだった。彼女は伝次郎の計画通りにやってはグループが破綻する形で指示に背くことに恐怖し、しかし彼の計画通りにやらなければその時点で指示に背いてしまう二律背反に襲われていた。そこを剛一に子供達が澄の殺害を計画していると吹き込まれ、追い込まれた彼女は他殺を装って己をグループから除去することで矛盾を解消しようとしたと結論付けたのである。これはもちろん琴子の用意した虚構の答えに過ぎないが、亮馬の話通りなら澄が二律背反の状況に置かれていたのは事実だろう。それは琴子も同様だ。ならば当然、虚構であろうと澄が出した答えには一定のヒントが示されている。いや、それをでっち上げた琴子の意思表明がされていると見るべきだろう。従属と反逆は、どちらか片方しかできないとは限らない。
 
 

3.虚構の巨人

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剛一「この回答は是である」
 
莉音が出した答えは、剛一を満足させるものだった。いや、期待以上ですらあった。彼としては自分が妻を殺したことを合理的に納得してもらえれば良かったのだが、この課題は様々な副産物を生んでいる。答えを出した莉音は琴子の操り人形になった自分を自覚しているが故にこれを成功体験として認識していないし、長年に渡って兄を嫌っていた(ふりをしていた)晋はこれを機に和解を考えようとしている。更には自分が妖狐に依頼しなければ子供達が澄を殺していたことすら明らかになった。これは並のミステリーならそのままエンドロールが流れそうな、全てが丸く収まった大団円と言っていい。ああ良かった・・・・、全ては計画通り・・・・……
 
剛一の胸に去来するこの思いには二重の意味がある。一つは琴子が懸念していた通り、妖狐に依頼して人を殺してもらった行為への肯定。そしてもう一つは、自分の考えた通りに皆が動いてくれたという計画への肯定だ。すなわち、後者の感情は極めて伝次郎的な代物なのである。
 
 

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剛一「この病と痛みこそ、私が澄さんを殺した代償だ」
 
伝次郎の計画は遠大なものであり、自身の死後も孫の代まで影響を及ぼした一方でけして完璧でなかった。もちろん剛一のそれは伝次郎のように強権的ではないが、孫の莉音の代まで影響を及ぼしている点では変わらない。剛一という巨人に家族もグループも救われた、まるでドラマのように何もかもが丸く収まってしまった「成功体験」は、剛一が自身でも気付かない内に耽溺しているそれと同様に莉音達を蝕んでいくことだろう。実際、この課題を通して莉音や晋達の中で剛一は子の殺人計画を察知したりそれを告白させようとした考えの深い人間として認識される結果になっている*1。これは本来剛一の望むところではない。剛一を伝次郎と同じ特異な存在に――怪異の如き虚構の巨人にしてはならない。
 
 

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琴子「では、真犯人を指摘するとしましょう」
 
澄が自ら命を絶ったなら、他殺ではなく事故死に見せかけなかったのはおかしい。自ら誘導して出させた莉音の答えの決定的瑕疵を指摘し、琴子は事件の真相を明かそうとする。なぜこのタイミングなのか? いや、このタイミングでなければならないのだ。剛一が伝次郎にもっとも近づいた今がその恐ろしさを知らしめる最良の機会であり、この反逆のために琴子は剛一へ従属したように見せてきた。彼女がこれから語る言葉は、操り人形のまま一生を終えた澄の無念を本当の意味で晴らすことにもなるだろう。
音無澄は夫からも烈女と呼ばれる化け物じみた女性であったが、本当の化け物は違うところにいる。虚構の巨人をおびき出すところに、この長いお膳立ての意味はあったのだ。
 
 

感想

というわけで虚構推理のアニメ2期10話レビューでした。澄と琴子、伝次郎と剛一の類似からどうレビューをまとめるかにちょっと悩みました。これでもう終りでいいのでは?と思ってしまうような場面からの冷水なので、おひいさまは本当に可憐にして苛烈だ。さてさて、結末で章全体としてどんなものが見えてくるのか。次回をドキドキしながら待ちたいと思います。

 

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*1:訂正してはいるが、それで彼らの剛一を見る目が変わったりはしないだろう