幸福の理由とその終わり――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」15話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
変転の「バーディーウィング」。15話では意味深な副題が目を引くが直接言及されることはない。「ただゴルフができるということがこれほどまでに幸福な理由」とはいったいなんだろう?
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第15話「ただゴルフができるということがこれほどまでに幸福な理由」

意識を失った葵は病院で精密検査を受けたが、どこにも異常は見つからなかった。葵は2日後の「ダブルス選手権」決勝に向けて養生することに。そんな中、亜室が訪ねてくる。「1つだけ魔法をかけてあげようと思ってね」亜室はそう言うと、3つのショットを完璧にトレースしてみせた。1つ目は全盛期の世良、2つ目は一彦のショット。しかし葵には、最後の3つ目が分からない。そのスイングは葵自身の中にある、と亜室は語る。葵が受け取ったものとは…?
 

1.ゴルフの成立に必要なもの

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姫川「なぜ……なぜそのショットをあなたが……!?」
 
「ただゴルフができるということがこれほどまでに幸福な理由」……これが15話の副題である。1期目の終盤から長めの副題が増えた本作であるが今回は特に長く、またおちゃらけたイメージもないタイトルは目を引く。この副題は何か考えるために、私はまずこのレビューを読んでくれている方に尋ねてみたい。「あなたはこの15話、ゴルフの試合にどれくらい集中できましたか?」……と。おそらく、それどころではなかったという人が大半ではないだろうか。なにせ主人公の一人である葵が体調不良に襲われたと思いきや所属する雷凰女子学園ゴルフ部の監督・亜室のフォームを見て開眼し急成長。おまけにもう一人の主人公イヴは葵の父・天鷲一彦のみが撃てるはずのレインボーショットなる技を繰り出し、それをきっかけに自分が一彦の娘だと思い出す衝撃の展開がこの15話には詰め込まれている。ダブルス選手権の決勝という、イヴと葵のペアゴルフの集大成のはずの試合は彼女達の圧倒的優勢によって完全に後景に下がってしまっているのである。
 

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イヴ(神がかり過ぎでしょ。これが本当の葵……アオイ・アマワシのゴルフ! たまんない、今すぐ戦いたい!)
葵(イヴがティーショットで飛距離を稼いでくれるからこんなにも狙える。わたし達、すっごくマッチしてる!)

 

本作においてゴルフは、クラブを振ってボールを叩けば成立するスポーツではない。イヴはかつて賭けゴルフで圧勝を繰り返していた時期、自分はプロでもゴルファーでもなく棒っ切れで球を叩いているだけだと語っていた。葵という好敵手に出会えたから彼女は純然たるゴルフの世界へ飛び込めたのであり、すなわち対等以上の相手がいなければ試合をしていようとゴルフではないのだ。決勝の相手である灘南体育女子学園ゴルフ部の姫川みずほ・及川楓のペアが日本最強の女子高生ゴルファーであろうと、イヴと葵との間に圧倒的な差があるならゴルフにならないのは変わりない。そのことは雷凰のキャディーであるイチナと雨音が苦心して考えた戦い方が全く無用のものとなり、イヴと葵にしてもプレー中の関心は互いの凄さにのみ向けられ姫川と及川は一顧だにしていないことからも言える。
厳密に見ればこのダブルス選手権、イヴと葵は4人ではなく2人で・・・・・・・・・ゴルフをしていた。冒頭の葵の回想で彼女の父一彦は「ゴルフは自分と向き合う球技」だと語っていたが、ペアでゴルフをする今回、イヴと葵は自分「達」と向き合っていたのだろう。
 

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楓「て……手がつけられない!」
 
これまで恐るべき強敵、立ちふさがる壁として描写されてきた姫川・及川ペアとの試合は、始まってみれば二人にほぼ何の見せ場もない一方的な展開となった。勝負がまだ完全に決まったわけではないが逆転はほぼ不可能と言ってよく、このダブルス選手権でイヴと葵は自分達が「ただゴルフができる」相手がごく限られていると証明してみせている。そしてこの「ただゴルフができる」というのは、実力だけで成立するわけではない。
 
 

2.幸福の理由とその終わり

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リリィ「イヴったら、もうプロになっちゃえばいいのに!」
 
この15話では少々懐かしいキャラが再登場する。イヴが物語開始当初共に過ごしていたリリィ、そしてクラインの2人だ。ナフレスという架空の国から2人はイヴの試合を見ていたが、イヴはプロになればいいのにというリリィの言葉にクラインは賛同しない。彼女はマフィアから恨みを買っているから、プロの表舞台に上がるわけにはいかない……と。
 

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クライン「忘れたの? イヴは恨みを買ったマフィアに狙われてるのよ」
 
イヴが日本に来てから既に7話、加えて連続2クールではないことからどうしても記憶が遠ざかってしまうが、先に触れたように元々はイヴは賭けゴルフで生計を立てるアンダーグラウンドのゴルファーだった。ヴィペールやローズといった裏社会のゴルファーと命がけの勝負をし手にした金で国籍などを偽造したから現在があり、しかも現在も見の危険が去ったわけではない。彼女が葵とペアを組むまでの道が、けして平坦ではなかったことをリリィとクラインの会話は思い出させる。
 

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私達はイヴと葵とのペア描写にすっかり慣れてしまっていたが、二人が「ただゴルフができる」のはとても特別なことだ。序盤の彼女達はほとんどロミオとジュリエットを思わせる引き裂かれぶりで、同じ学校でペアを組むなどとても想像できる状況ではなかった。ならばもはや当たり前のように感じられていても、この状況はけして永続的ではない。関係性にわずかな変化があるだけで、2人が「ただゴルフができる」環境は壊れてしまう。
 

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一彦「よく見ててね。迷いのないスイングには……その軌道に虹がかかる!」
 
原因不明の体調不良に負けず好打を放った葵の球を受け継いだイヴは、勝利のために必殺の「確信のオレンジ・バレット」を撃ち見事イーグルを叩き出す。だが精神と肉体のバランスを崩すこの技の反動で痛むイヴの脳裏に蘇ったのは、失っていた母と父の記憶――エリノア・バートン、そして穂鷹(天鷲)一彦の記憶――であった。天才・姫川みずほをしても打てなかったレインボーショットをイヴが放った事実は、その記憶が誤りではないことを一彦を知る誰の目にも明らかにしている。
 

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イヴ「ほんと心配した。入院でもされたハンバーガー食べられないとこだったわ」
葵「あー! 心配するとこそこ!?」

 

イヴが一彦の娘であるとはどういった事情があるのか? 開眼した葵のフォームは父である一彦ではなく彼がライバル視した亜室にそっくりだったが、これは単に指導によるものなのか? 今回の終盤ではイヴにゴルフを叩き込んだレオ・ミラフォーデンの弟子と思しき少女アイシャも登場し、事態はますます混沌としていく。親世代の因縁が紐解かれることでイヴと葵は今後その清算に追われ、彼女達が「ただゴルフができる」これまでの環境は失われていくことだろう。今回の序盤、準決勝の後でイヴと葵(とそのキャディーであるイチナと雨音)が楽しくハンバーガーを食べていたあの光景はもう見られない。ダブルス選手権の終わりは、夢の時間の終わりでもあった。
 

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イヴ「わたしの本当の名前が分かった。イヴァンジェリン・バートン……ママの名前はエリノア・バートン」
葵「え?」
イヴ「パパの名前はカズヒコ・ホダカ……!」

 

イヴが日本に来てからこれまでの7話は、彼女と葵にとってあまりにも幸福なひとときだった。「ただゴルフができるということがこれほどまでに幸福な理由」とは、それが薄氷の上の楽園に過ぎなかったからなのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの15話レビューでした。優勝にも関わらずラストシーンになんとも言えない悲しさがあって、リリィとクラインのやりとりから結んでいくとこんなレビューになった次第です。
 

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本題からも目を離せませんが、今回は姫川みずほと及川楓の扱いに切れ味を感じずにいられません。特に必殺技を決勝で遂に見せるのではなく、必殺技を持ってないことをアイデンティティにされてしまう姫川への容赦のなさ! 楓の活躍ももっと見てみたかったなあ。次回は文字通り波乱の展開になりそうで、怖くて楽しみです。
 

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雨音・イチナ「来たーーー! イーグルーーッ!」
 
何このかわいい雨音さん。
 

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