約束が君を自由にする――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」17話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
再び羽ばたく「バーディーウイング」。17話はイヴがナフレスに強制送還される急展開を迎える。己のルーツを知るイヴの旅は、彼女を自由にする旅だ。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第17話「失った記憶を取り戻した少女は、故郷に戻って新たな真実を知る」

世良の決定によって、イヴは強制的にナフレスに送り返された。記憶を取り戻し、自分が何者なのか知りたくなったイヴは、ヴィペールとコンタクトをとり、母・エリノアについての情報を得る。エリノアの父は、ミハエル・バートン。ミハエルはヨーロッパ最大のゴルフ・ブランド「アリオス」の創設者にして、ナフレス最大の勢力を誇るマフィアのボスだった。バートン家の墓参りに行ったイヴは、アラン・ハーヴェイと名乗る老紳士と出会う。イヴがそこで知ることになる、両親の過去とは…?
 

1.一番欲しい自由だけがない

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世良(許して一彦さん、咎は必ず受けるから……)
 
主人公であるイヴと葵の複雑な出生が明らかになった「バーディーウイング」だが、今回は葵の母・世良の指示でイヴが故国ナフレスに強制送還される急展開から始まる。日本に来る前の彼女はマフィアとも因縁があったことを世良が危ぶみ、葵から遠ざけようとしたのだ。素直に帰るはずはなく、力づくで強引に……と思いきや、イヴは一度は逃げ出そうとするも最終的には大人しく自分から飛行機に乗っていった。なぜかと言えば、彼女を空港に連れてきた世良の部下・矩継にこう宣告されたためだ。
 

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矩継「日本で君がゴルフの試合に出場することはできない。マフィアと関わりを持つ者を葵様の近くにいさせるわけにはいかない」
矩継「葵様は次の試合でプロになられる、君とは住む世界が変わる。もう君が葵様と戦うことは二度と無い」

 

スラム街育ちで荒事に慣れっこのイヴのこと、この場から逃げ出すのは容易だったはずだ。実際、彼女は矩継の足を払ってその手から離れることはできている。しかし日本に残ったとて、どちらが上か決着を付ける約束をした葵とゴルフの試合ができないのでは意味がない。そこにイヴの望む自由が無いと知ったからこそ、イヴは言うことを聞いてナフレスへと帰っていったのだろう。
自由とは一意的なものではなく、身体的に自由であっても精神や活動が不自由な状況が珍しくない。この呪縛を、イヴは故国でも思い知らされることになる。
 
 

2.逃れられぬ呪縛

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ニコラスの部下「その実体はマフィアだ」
ヴィペール「しかもナフレス最大の勢力を誇ってる」

 

ナフレスへ帰国したイヴがしたのは、かつてマフィアの魔手から逃れるため共闘したヴィペール(正確にはその恋人)にある人について調べてもらうことだった。その人物の名はエリノア・バートン……思い人の穂鷹一彦と結ばれることなく、なぜか1人で娘を産み育てていたイヴの亡き母。葵と臨んだダブルス選手権で失っていた記憶を取り戻したイヴは母の事情を知ろうとしたのだが、エリノアの素性は驚くべきものだった。彼女はなんとヨーロッパ最大のゴルフブランド「アリオス」の創設者にして裏ではナフレス最大のマフィア、ミハエル・バートンの娘だったのである。
 

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イヴ「またマフィアか……」
 
母の素性を初めて知ったイヴは、喜ぶよりもうんざりした顔でそう言う。無理もないだろう、彼女は葵とゴルフをするため必死でアンダーグラウンドの世界から足を洗ったのに、そもそもにして自分の出自がマフィア絡みだったのだ。日本で葵とのゴルフが封じられたのもマフィアと関わりのあった過去のせい……エリノアの出自は、自分はどこまで行ってもマフィアから自由になれないのだとイヴに突きつけられたに等しかった。
 

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故国に無理やり戻され、母の素性を調べ、イヴは自分を囚えて離さないマフィアの呪縛を知った。しかしこのことは、イヴに思わぬ転機ももたらすことになる。
 
 

3.呪縛と自由

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アラン「お、お嬢様……エリノアお嬢様……!? いや、そんなはずが……」
 
記憶を取り戻し母の墓参りに訪れたイヴは、そこで思わぬ人物と出会う。彼女を思わずエリノアと見間違えたその老紳士の名はアラン・ハーヴェイ、バートン家に長年仕える執事であった。
 

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アラン「エリノアお嬢様はミスター・ホダカがバートン家に取り込まれることを危惧されたのでしょう。ある日、黙って屋敷から飛び出してしまったのです」
 
母はなぜ父と結ばれず1人で自分を産んだのか? 素性の調査だけでは分からなかった事情を、イヴと話を突き合わせたり推測を交えながらもアランは詳しく教えてくれた。マフィアの家系だが真っ当に育てられたエリノアはおそらく、趣味のゴルフをきっかけに父・一彦と出会ったのであろうこと。バートン家には黒い噂が絶えなかった上に新興ゴルフブランド「アテナ」と競合状態にもあり、アテナと専属契約を結ぶ一彦が自分と結ばれれば危険に巻き込まれる恐れがあったこと。エリノアはイヴをバートン家の呪縛から解き放ちたいと考えていたのではないかということ……
 

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イヴ「そのおかげでわたしの人生無茶苦茶になったけど、でもまあ、確かにわたしは自由よ。そこだけはママに感謝しないとね」
 
アランから聞かされた母の話は、イヴの気持ちを明るくさせるものだった。彼女は海難事故で両親に加えて記憶まで失い散々な目に遭ってきたが、母がおそらく願ったようにマフィアの世界に両足まで浸かる生活は送らずに済んできた。呪縛はあっても、同時に確かに自由があった。だから彼女は、アランに提案されても祖父ミハエルに自分が孫だと明かして生計を立ててもらうような真似はしない。それでは折角の自由が消えてしまう――呪縛の中にかすかな自由があったことを知ったイヴは、更に大きな自由を掴みとりに行く。
 
 

4.約束が君を自由にする

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ミハエル「ほっ! これは面白いことを言う」
 
イヴがアランと出会った翌日、アリオスの専属プロゴルファーであるシェリス・ケイとゴルフをしていたミハエルは突然の闖入を受ける。なんとアランからこの話を聞いたイヴが、シェリスに勝負を挑んできたのだ。『賭けるものは自分の全て、勝ったら自分が最短でプロになるサポートをしてほしい』という申し出に興味をいだいたミハエルは勝負を承諾するが、これは一見すると前日にイヴがアランの提案を断ったのと矛盾している。バートン家の一員に戻れば自由が失われると言いながら、そのサポートを受けようと動くのは辻褄が合わない。だが、本当にそうだろうか?
 

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イヴ「そっか、喧嘩の途中だったっけ……」
 
アランから「独り言」として明日のミハエルとシェリスの話を聞いた晩、イヴは日本で葵とのゴルフを禁じられたことを思い出していた。それを「喧嘩」と受け取り、買ってやろうと決めたのを思い出していた。マフィアと関わりを持ったが故に自分に課せられた呪縛であるが、しかしイヴにはそれより前から自分を離さない呪縛がある。いや、約束がある。葵と勝負し、どちらが上か決着をつけようという約束がだ。それを果たすためにイヴは、自分の素性は明かさないまま、しかしマフィアのボスとプロゴルファーのゲームに乱入するなどという破天荒な――つまり"自由"な――行動に出たのだった。
 

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イヴ(あの時の……虹の弾丸を!)
 
「自由」というと私達は、何にも囚われない状態を想像しがちだ。例えば自分の国が行った(あるいは行っている)差別や加害について語らなかったり、中間の立場に立ったり客観性を重視することがそこでは最善とされる。けれどこうした自由は自分の絶対座標を知らない迷子のようなものでもあって、自分が何かに囚われていることすら気付けない不自由さと背中合わせだ。自分達の出生について知らず、ただゴルフを楽しんでいたダブルス選手権の時期のイヴや葵はまさにそういう状態にあった。
 

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葵(わたし達すれ違ってばかりだけど、でも信じてる。イヴは絶対にわたしの前に現れる、わたしとゴルフをしてくれる! 今はそれだけを信じる!)
 
逆説的だが、人は自分が不自由だと感じた時にもっとも自由を認識できる。今のイヴにとって最大の不自由は葵とのゴルフに課せられた禁制であり、ならその不自由と喧嘩するためなら彼女はどんな無茶なことも、すなわちどんな自由なこともできる。その先のゴールには葵との約束という不自由があるわけだから、不自由から別の不自由を自ら目指す時こそ私達は自由になれるものなのだろう。これは葵にしても同様で、彼女は家系である天鷲グループの敷いたレールに従って次は全日本女子オープンを制してプロになるよう求められているが、イヴと約束を念願とする彼女の心はそれに囚われていない。不自由を強いられながらも、その心には自由がある。
 

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イチナ「行くッス! 学校辞めてでも、イヴさんについていくッスーーっ!」
 
不自由を知ったイヴ達はしかし、だからこそこれからますます自由になっていく。EDの後、日本でイヴの専属キャディーを希望していた雷凰女子学園のイチナが受けた電話は、ヨーロッパランキング8位のシェリスに圧勝してミハエルのサポートを取り付けたイヴからのナフレス行きの要請であった。随分と無茶な要請だがイチナはイヴの専属キャディーという不自由のためなら退学であっても(学校からの自由であっても)厭わないし、イヴとイチナの限定された組み合わせから生まれる自由なゴルフもまた確かに存在している。ダブルス選手権ではキャディーはほとんど試合に関われなかったが、雷凰や日本から解き放たれたことでいよいよ二人のゴルフは本領を発揮していくことだろう。
自由は自由だけでは成り立たない。約束という不自由こそ、イヴと葵をもっとも自由にする原動力なのである。
 
 

感想

というわけでバディゴルの17話レビューでした。自由って単純じゃない、というのを最近はいっそう感じます。私達は自分では自由な立場で物事を見ているつもりで、実際は己を縛る鎖を見ることすらできなくなっているのではないか。自分を透明な存在にして、一人の人間であることすら手放し始めているのではないか。ネットミームを叫んで一体感を味わうより、好きも嫌いも拙くとも自分の言葉で語る方がずっと大切なのだと思います。あとヴィペールさん再登場おめでとう、幸せそうで何よりです。
 
私というメロディーが
君と重なってもっと
華やかになっていく
君がいるから新しい私が目覚めていくの
負けず嫌いの
似たもの同士2人のハーモニー
ーー「君がいるから」(門脇更紗)

 

さて、再び分かたれたイヴと葵の道はいかにしてもう一度交わるのか。門脇更紗の歌うEDの歌詞がひときわ味わい深く感じられる回でした。

 

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