孤独と共有――「魔法使いの嫁 SEASON2」5話レビュー&感想

秘密の「魔法使いの嫁 SEASON2」。5話ではカレッジの同級生達の事情が描かれる。そこでは誰も彼もが特別で、しかしけして一人ではない。
 
 

魔法使いの嫁 SEASON2 第4話「The cowl does not make the monk.」

魔術師達との関わりの中で、チセは学院を飛び交う噂話を耳にする。
学び舎の礎を築いた魔術大家<七つの盾>。そしてルームメイトに纏わる<書紡ぎ蜘蛛(ウェブスター)の悲劇>。
学院に渦巻く因果が次第に姿を現し始める。
そんな最中、同級生のゾーイの余所余所しさを憂いたチセは会話を試みるが…

公式サイトあらすじより)

 

1.覗く正体

チセ(口は悪そうだけど、気にしてくれてる……?)
 
魔術師の学院たるカレッジが舞台となり多くの人物が登場する「魔法使いの嫁 SEASON2」。今回は学生達にスポットが当たるが、特に目立つ一人は主人公チセのルームメイトであるルーシー・ウェブスターだ。無愛想で誰とも距離を置く彼女は3話でチセが同じクラスの学生と食事を共にした際も別席にいたほどだが、この5話ではようやくその性格が見えてくる。
 
ルーシー「防音て聞いたけど声は聞こえるのよね。落ち着いた? 大丈夫? チセは? 噛まれてない? 蛇は平気なの?」
チセ&ゾーイ「だ、大丈夫です……」
リアン「なんだ、やればできるじゃないか」
アイザック「実家の姉ちゃんがあんな感じだよ」

 

今回は寮の部屋でのルーシーとチセのやりとりから始まるが、そこで見えるのはきつい口調と裏腹のチセへの助言ぶりだ。チセの遠慮がちな態度を咎めたり、初めての薬学の授業に戸惑う彼女のクローゼットから白衣を出してやったり……あまつさえ同じく同級生のゾーン・アイビーがなぜかチセを無視した際は、わざわざ追いかけてその態度に怒りすらする。劇中で「実家の姉ちゃん」そっくりだと言われる場面もあるが、つっけんどんさで隠していても世話焼きなのが彼女の正体なのだろう。
 
正体というのは隠していてもそこかしこから覗くもの。このことはスポットライトが当たるもう一人の同級生、先のゾーン・アイビーからも言える。チセを避ける態度に怒ったルーシーにヘッドホンを取り上げられた彼は突如として髪が蛇に変化し、実は人間ではないことを露呈してしまう。実は彼はギリシャ神話にも名を残す異種族ゴルゴーンと人間のハーフであり、五感の敏感な彼はヘッドホンもといイヤーマフなどを使って身体の変化を抑えて自分の正体を隠していたのだった。
 
ゾーイの父「誰にでも秘密はあるんだし、秘密があっても仲良くできる。友達がきっとできるさ」
 
私達は皆、隠しておきたい正体や秘密の一つや二つは持っている。なぜかと言えば、それが他人とぴったり重なることは無いのを自分が一番分かっているからだ。ルーシーはどうやら「ウェブスターの悲劇」なる出来事に見舞われた一族の生き残りらしいし、ゾーイにしても人間はおろかマイノリティであるゴルゴーンの中ですらはぐれ者の扱いを受けて育っている。弾かれると分かっているなら距離を置きたい、あるいはその要素を隠しておきたいと考えるのは人情というものだろう。だが一方で、ゾーイのカレッジ行きを決めた彼の父は息子にこんなことも言っている。「誰にでも秘密はあるんだし、秘密があっても仲良くできる。友達がきっとできるさ」……と。ゾーイは自分の秘密を徹底的に隠し通そうとしていたが、それは少しだけ違うのだと彼は今回の経験を通して知ることになる。
 
 

2.孤独と共有

ゾーイ「ほんとはちょっとしんどかったんだ。うん、バレてちょうどよかったかも……」
 
正体がバレたゾーイはカレッジ内の個人庭園(誰が何を話しているか見えないよう庭木と魔術で遮られたスペース)に逃げるが、追いかけてきたチセ達に秘密を口外しないと言われて安堵する。同級生の一人リアン・スクリム=ジョーは必要なら契約書も交わそうとまで言うが遠慮したのは、秘密がバレたことにどこかホッとしていたためだった。
 
ゾーイ「なんだよ、卵から生まれたら駄目かよ!?」
アイザック「いやまあ卵の方が生産性……安定性があるよね」

 

自分が生まれた経緯やハーフ故に安定しない身体といった秘密を明かす際のゾーイは、遠慮がちだったそれまでと打って変わって等身大の少年だ。卵から生まれたことに驚かれて「なんだよ、卵から生まれたら駄目かよ!」と返すコミカルなやりとりもあるが、これは皆に責めるように問われていればとてもできなかった反応だろう。またゾーイがチセを避けていたのは彼女に人とは思えぬ"匂い"を感じていたためだったが、これもそのことを明かした結果チセが受けたドラゴンの呪いのものであることを知り、彼はようやくチセへの警戒を解くことができた。
 
私達は秘密や正体を明かすのを恐れる一方、誰にも語れなければそれはそれで苦しみを覚えるもので、だから仲間内で共有する疑似的な開示を行う。そこでは全ての人には明かせないことも語れるし、同時にそれを通して外部にどこまで・どのように開示あるいは秘匿するかの練習ができるためだ。そしてこの場で重要なのは秘密や正体の共有そのものだから、それが打ち明ける相手とぴったり重なる必要もなく、秘密でありさえすればそれは同じものになる。秘密の共有とは開示の人工的な再現でありつまり魔術的な代物だが、その不可思議な効用もまた魔術的な力を持っているのだ。ゾーイの秘密が結局チセ、ルーシー、リアン、居合わせたアイザックのみならずそれを盗み聞きしていたフィロメラも加えて契約の魔術を結んで守られることになるのは、秘密の共有の魔術的性質を端的に示している。そして、こうした正体を巡る話はけしてゴルゴーンやドラゴンの呪い、悲劇的な過去など特別なケースに限らない。
 
ヴァイオレット「逃げ道なんて、いくらでも作っておいていいじゃない」
 
今回のラストは、チセに「ウェブスターの悲劇」について漏らしてしまったクラスメートのジャスミン・セント=ジョージが彼女と同じく魔術師の名門「七つの盾」の出身であるリアンに苦言を呈され、双子のヴァイオレットに励まされて光射す外へ連れ出される場面で終わる。リアンは名門スクリム=ジョーの家を出るつもりでいるが、ジャスミンに自覚を促す姿から見える正体はむしろ誰よりも名門的な精神の持ち主であることだ。そして共に名門の血に苦しんでいるらしい内心からすれば、彼らもまた秘密を共有しているに等しい関係にあるのだろう。彼らの仲は必ずしも良好とは言えずその心はぴったり合ってはいないが、故に両者の差異は彼らの葛藤を刺激し合っている。ジャスミンと双子にして性別が逆、一方でどちらも性自認が逆と思われる点で重なるヴァイオレットの間柄にしてもこれは同様で、だからヴァイオレットは最後にジャスミンに逃げ道を提示してやることができる。よく似ていて、少し違うところにこそ魔術は宿る。
 
人は自分の秘密や正体から一人で逃げることはできない。活かすにせよ変えるにせよ、そこには孤独を共有できる魔術的な他者が必要なのだ。
 
 

感想

というわけでまほよめのアニメ2期5話レビューでした。1話で連想したように「同級生は自分の魔術的まがい物」という内容でレビューが書けそう……思いつつそれでは説明できる描写が少なく、秘密や正体とその共有というクッションを考えるのに頭を悩ませました。レビュー中では書けませんでしたが、フィロメラにとっても命令と似ているようで違うチセからのお願いを受けたのは大きいのだろうと思います。
私達は誰もがみな色々抱えているし、同時にその悩みはどこか似たようなものなのでしょうね。学院の生徒達の顔が浮かび上がって見えてきたように感じた回でした。
 

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