もう一つの明日――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」22話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
虹の彼方の「バーディーウイング」。22話ではイヴの明日が問われる。しかし、彼女の目指す明日とはいったい何を指すのだろう?
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第22話「オーバー・ザ・レインボー

一彦のレインボー・ショットと、レオのバレット・ショット。2つのショットを持つイヴは、それらをかけ合わせた「レインボー・バレット・バースト」を編み出した。その飛距離はアイシャを上回る。3日目を終えた時点で、イヴは首位と1打差の2位、アイシャは3打差の4位につけた。その勢いのまま逆転優勝かと思われたが、バーストの反動でイヴの体は限界を迎えていた。これ以上、イヴにバーストを打たせてはならない。それを止めるのはイチナの役目だ。
 

1.レオの眼力

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一彦「もし究極のゴルフにたどりつけなかったら、君はどうする?」
レオ「決まってる、次に託すんだよ……そう、託すだけだ。俺のゴルフを継承し、さらなる高みを目指す者に」

 

今回の話は時を遡ること10年前、主人公イヴの師レオと父・一彦の勝負から始まる。レオは友人でもあった一彦にいずれは自分のゴルフを後進に託す可能性を語っているが、ここから覗くのは彼が案外"明日"を見据えたゴルファーであることだろう。あえてプロにならず裏世界の強者とも勝負してゴルフを極めようという彼は無頼なほど求道的な一方、残りの全盛期の短さなどをしっかり考慮する人間でもある。それは愛弟子アイシャとイヴが勝負するヨーロッパ・レディス・オープンでも同様で、3日目終了時点ではイヴの圧勝かと思われた勝負は最終日で接戦にもつれ込むこととなった。イヴが新技「レインボー・バレット・バースト」の反動で体を痛めている一方でレオは最終日にもっとも調子が良くなるようアイシャを調整しており、3日目での差はアイシャの爆発力によって呆気なく埋まってしまったのだ。イヴが不調になると見抜いていたこと、また3日目まではトップだったプロの選手すら最終日に息切れしているのを思えば、レオの眼力がいかにずば抜けているかがよく分かる。
 

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レオ「トップのジャネットもイヴも、最終日はズルズルとスコアを落としていく。ゴルフは瞬間的に強くても意味はない……全選手の中で初日と変わらないパフォーマンスを発揮できるのはアイシャだけ。つまりは優勝だ」
 
明日を見抜く眼力は人の成功・不成功を分ける極めて重要な能力だ。これから値打ちの上がる株の銘柄を見抜ければ大儲けができるし、炎上で引き際を見極められれば事態がひっくり返った時も知らぬ顔ができる。露悪的な言い方をすれば勝ち馬に乗り続ける能力でもあるが、誰だって好き好んで明日という日に惨めな負け方をしたくはないだろう。だが、時計の針が24時間回転して訪れる時間だけが"明日"なのだろうか? 単なる時間の経過に留まらない、希望の象徴もまた"明日"ではなかったか。
 
 

2.レオには見えない明日

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"明日"は単なる時間の経過を指すわけではない。それを私達に教えてくれるのは誰あろうレオの弟子、カノン砲にも例えられるパワーを持つ少女アイシャ・カンバッタだ。
 

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野性味あふれるゴルフを披露してきた彼女はこれまで、「アイアイ」「ギュイーン、ドッカーン!」など簡単な言葉しか口にしてこなかった。今回は貧しくて読み書きもできなかったのをレオに拾われた過去が明かされており、そもそもが語彙に乏しいことが伺える。経験豊富な自分がアイシャのキャディーにつくことで、不足している知識や知恵を補ってやれる……レオにはそういう思惑もあったことだろう。だがこの22話、二人の会話から見えるのはむしろアイシャがレオの想像を超えている事実だ。
 

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レオ「打つ度に飛距離が落ちてる。限界だな」
アイシャ「レオ、違う」
レオ「ん?」
アイシャ「匂い分かる、戦ってる……わたし、同じ」

 

例えば満身創痍のイヴはレオからは限界としか見えなかったが、アイシャが感じたのはむしろ手負いの獣の恐ろしさであり事実イヴは最後まで調子を崩すことはなかった。またイヴが最後のショットを放とうとした際も、その恐ろしさを先に見抜いたのはレオではなくアイシャの方であった。一般的な知識や経験は確かに不足しているが、この大会でアイシャは既にレオの先に――彼が見抜いているものとは違う"明日"にたどり着いている。
 

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レオ「もうやめろ! 一時の勝利など……お前の父親が、一彦が望んでいると思っているのか!」
 
最終ホール、負担の大きさから最終日は封印してきた「レインボー・バレット・バースト」をイヴが再び放とうとした際、レオは敵の立場にも関わらず彼女を止めようとした。二度とゴルフができなくなってもおかしくない自殺行為、"明日"のない行動としか思えなかったからだ。イヴはまだ15歳で肉体的にも未完成だからしっかり地力を積み重ねればいい、一時の勝利に拘泥して輝かしい成功を捨てる必要はないと彼が考えるのは自然なことだろう。だが、イヴは今日ここで燃え尽きるつもりで「レインボー・バレット・バースト」を放とうとしたのではなかった。彼女はアイシャ同様、レオとは違う"明日"を見ていたに過ぎなかったのだ。
 
 

3.もう一つの明日

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イヴ(待ってる奴がいる、戦いたい奴がいる! そこへ最短で向かう、わたしの虹色の弾丸で!)
 
イヴが見る、レオとは違う"明日"とは何か? それは言うまでもない、ライバルである天鷲葵と勝負する"明日"だ。彼女は父親を巡る事情から日本国内で葵との試合を許されない状況にあり、プロになることでその壁を超えようとしていた。
思い返せば、イヴと葵は勝負したくてもそれを許されない状況にばかり置かれてきた。もがいてももがいても二人の間には壁がそびえ立っており、その壁はいわば不可能の象徴だったと言える。そして、人の歴史とは不可能を可能に変える繰り返しであったはずだ。
 

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イチナ「イヴさんは言ったッス。無理だと言って自分を否定するな、『限界』は可能性を放棄する言葉だって……だったら見せてください、証明してください! 限界を超えることを、それが可能だということを!」
 
翼が無いから空を飛べない。100mは10秒未満で走れない。住む世界の違う人間が共に競うことなどできない。家の都合から女性が抜け出すことなどできない。そんな不可能を誰かが可能にする度、人間は新しいステージへ進んできた。今日の不可能が可能になるのもまた"明日"なのだ。
イヴは挑む。相手に先行されたら逆転は難しいという不可能に。ボロボロの体で「レインボー・バレット・バースト」を放って再起不能にならないわけがないという不可能に。何よりも葵と勝負できないという不可能に。彼女が欲しているのは、見ているのは紛れもなく"明日"だ。時計の針が回るだけが明日と思っている人間にはけして見えない、もう一つの明日だ。明日を夢見る者だけが昨日や今日という壁を、偉大な先達を超えることができる。
 

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イヴ「限界を……突破する―――っ!」
 
かつてイヴ同様にレオに指導を受けるも賭けゴルフで右腕を失ったローズ・アレオンは、フルショットの負荷を吸収する義手を失いながらも片腕で勝負を続行した。反動の大きい「レインボー・バレット・バースト」を放ったイヴは、腕ではなくドライバーが負荷を引き受けてくれたことでローズという昨日の向こう側へ行く。続いて打ち出されたのはレオの決め球「バレットショット・エクスプロージョン」すら超える究極のショット、「オーバー・ザ・レインボー」……虹を越えるその球は不可能を可能にする、明日へ向かう象徴とも言える一打であった。
 

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イヴ(弱みは見せない。次の戦いはもう、始まっているから!)
 
かくてヨーロッパ・レディス・オープンはアイシャのバーディーに勝るイーグルを決めたイヴの優勝に終わり、彼女はプロへの切符を手にする。しかし彼女にとってこれは葵と勝負するための通過点に過ぎず、だから彼女はボロボロの状態でも表彰式の最後まで平静を装う。既に始まっている次の勝負のために。"明日"のために。
時計の針が回って訪れるだけが明日ではない。虹の彼方、不可能を可能とした先にもう一つの明日は輝いているのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの22話レビューでした。「レオの想像を超えたところ」というゴールがぼんやり見えつつもそこまでのルートが分からず悩んだのですが、ゴールが明日なんだと浮かんでからはキーボードを叩く度に道筋が見えてきました。イヴがイチナの指示を信じたのも葵と戦う明日のためと言われたからなわけですし。
 

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「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」8話より

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最後、イヴのドライバーが壊れた理由にローズとの勝負が紐付けられそうだと思いついた時はとても嬉しかったです。アイシャとの勝負はイヴをローズの立場に近づけるものでもあったんだな。8話「ファイナル・バレット」をもう一度見返したくなりました。本当、紅蓮の弾丸には心を撃ち抜かれたままです。
 
 

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本作はイヴと葵の作品だから他のゴルファーはどうしても後ろに下がりがち、アイシャもその例に漏れなかったのですが、今回初めての長台詞はレオを慕う気持ちが感じられて彼女のことが一段深く好きになれました。そして絶対負けないと誓った彼女がそれでも「やられる」と確信してしまうあの絶望感よ。レオは今度こそきっちり弟子の面倒を見てあげてほしい。あと、イヴが内心とは言え素直にヴィペールの名前を呼んだのもとても良かった。
 
さてさて、いよいよイヴも葵もプロ入りですがそれでも二人が勝負できるようにはならないようで。残りの話数、どういう展開が待っているんでしょう。

 

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