許されざる身代わり――「魔法使いの嫁 SEASON2」10話レビュー&感想

正体を顕にしていく「魔法使いの嫁 SEASON2」。10話ではチセのルームメイトであるルーシーの事情が明かされる。現在まで尾を引く事件から見えてくるのは、許し難き"身代わり"だ。
 
 

魔法使いの嫁 SEASON2 第10話「Conscience does make cowards of us all.Ⅱ」

ルーシーが目を覚まし、ひとたびの安堵が訪れたのも束の間。
学院に忍び込んだ2匹の獣人がチセたちに襲いかかる。
その姿に底知れぬ憎悪を表し、叫ぶルーシー。
混沌とした状況で活路を思案するチセ。
その時、彼女の内なる声の主が再び囁き始める——。

公式サイトあらすじより)

 
 

1.身代わりの護符

ニコラス「くそっ! 調達させて良かったぜ、身代わりの護符……!」
 
主人公・チセのルームメイトであるルーシーの魔力が枯渇し倒れ、チセが魔法の世界に足を踏み入れるきっかけを作った男セスと兄妹であることが判明した「魔法使いの嫁 SEASON2」。前回はセスの護衛ニコラスが謎の二人組に殺害されるインパクトの強い場面で終わったが、今回のアバンではなんとニコラスの生存が判明する。腹を貫かれる致命傷を受けながらも彼が生きていたのは、魔術によって負傷を肩代わりしてくれる身代わりの護符なるアイテムを身に着けていたためだった。
 
ニコラス「おかげでこの性悪守銭奴の天使にぼったくられたぜ」
マリエル「あら、随分な言い草。助けたんだから報酬は当然よ」

 

銃弾が偶然ペンダントに当たって……などという例を引かずとも、身代わりは私達にとって重要だ。セスがチセにルーシーが見ようともしない銀行の書類を取ってきてもらったように誰かに自分の"身代わり"に行動をお願いすることもあるし、ニコラスを助けた魔法使いマリエルは事あるごとに報酬を求めるが報酬とは人に何かをしてもらったお返しの"身代わり"にあたる。その場にいない人間とのやりとりを可能にする通信技術の発達なども含め、身代わりなしに私達の社会は成立しないと言っても過言ではあるまい。
 
セス「他人の髪が結えるようになったんですね」
ルーシー「早く出てってほしいからよ」

 

また、身代わりとは優しさの形でもある。この10話では看病に疲れたセスの髪をルーシーが代わって結ってやったり、ルーシーにとってセスは兄というより父親代わりに近いことが語られる。もっとも直接的なのはニコラスを襲った二人組の攻撃からセスが身を挺してルーシーを庇う場面で、彼自身も身代わりの護符を身に着けていたとはいえ己の身よりも妹に怪我がなかったのを安堵するのは優しさ以外の何物でもあるまい。
 
身代わりとは人の模造品であり、私達が生きていく上で必要不可欠な"魔術"である。ただ、だからといって身代わりがいつも素晴らしいものとは限らない。
 
 

2.許されざる身代わり

セス「ルーシー、仕方ないんだ」
ルーシー「どうして……?」

 

身代わりは人を救うだけでなく負の側面も併せ持つ。この一例となるのが今回明かされるセスとルーシーの過去だ。彼らは魔術書の写本を生業にするウェブスター家の子であったが、セスは魔力を扱う適性が全くないため生家から追い出されていた。その際の父親の言葉は、"身代わり"を念頭に入れるとより酷薄なものとなって聞こえてくる。
 
父親「まったく。不出来なお前の代わりに作ったルーシーが優秀だったから良かったものを……」
 
ここで、冒頭かろうじて生き延びたニコラスの言葉を並べてみよう。
 
ニコラス「くそっ! 調達させて良かったぜ、身代わりの護符……!」
 
そう、父親にとってルーシーは家を守るため調達した"身代わりの護符"だったのだ。
 
人は時に誰かを自分の身代わりにして切り捨てる。この行為の残酷さは今回、誰あろう主人公のチセの行為でも描かれる。セスやルーシーと行動を共にしていた彼女はニコラスを襲った二人組から襲撃を受けるが、それを退けるために採ったのは時間と空間の歪んだ「裏道」へ彼らを誘い込むことだった。契約した相手やルートでしか通行を許さない"猟犬"に彼らを襲わせたのだが、本来契約を破ったのは二人組を誘い込んだチセの方ではなかったか。彼女は襲撃者を自分達の身代わりに、あるいは猟犬を自分達の攻撃手段の身代わりにしたのである。
 
チセ「やめて! その人の分の通行料も払う。今回だけでいい、だから見逃してほしい」
 
自分が表立って口にできない望みを黙って叶えてくれる。身代りほど都合のいい存在はないが、それで自分の手が汚れていないと考えるのは大きな誤りだ。二人組の正体は人狼のつがいであり、猟犬の攻撃に際しても互いを深く思い合う様が見られた。以前ブッシュクラフトで水妖ナックラヴィーに襲われた時同様、チセの行いは正当防衛ではあろうが、ナックラヴィーを殺したりつがいの人狼を引き裂いたのは間違いなく彼女である。彼らの分の通行料(=身代わり)も払うからやめてほしいと猟犬に交渉するチセは、自分の行為の残酷さをきちんと引き受けていると言えるだろう。
 
リズベス「はい、承知しました。ではそのように」
 
人は時に誰かを自分の身代わりにし、しかも相応の代価を払わない。ルーシーの父親は自分の存在が兄を追い出す結果になったと傷心していたルーシーに何の気遣いもしなかったし、先の人狼はセスとルーシー以外のウェブスター家の人間を皆殺しにした犯人でもあったが「子供を助けに行かなきゃ」という言葉からは彼らもまた黒幕の身代わりにされいまだ代価を得られていないことが伺える。また今回の終盤では回復したかに見えたルーシー、そして同様の症状に陥った教師のシメオンが「継続して魔力を奪われ続けている」ことが判明するが、つまり彼女達は魔力の供給元として一方的に"身代わり"にされているのだ。この不穏極まりない状況でもっとも怪しいのはチセのクラスメイトの一人フィロメラの祖母・リズベスだが、何者かの指示を受けているラストシーンからすれば彼女もおそらく何者かの身代わりに過ぎないのだろう。見えないほどに、誰かに身代わりを強いるその黒幕の罪は大きくなっていく。
 
マリエル「"カルナマゴスの遺言"……あの本を使って人の魔力を根こそぎ奪い、何かを企んでいるヤツがいる」
 
身代わりは人が生きていくために欠かせない魔術である。しかし、相応の代価を払わず誰かを身代わりにする行為は許されざる大罪なのだ。
 
 

感想

というわけでまほ嫁のアニメ2期10話レビューでした。今回はテーマになるものが割とストレートに示されており、書くのにもさほど迷わず。ネットの炎上で凸る人と遠回しに見ながら恩恵だけ得る人みたいな話でしょうか。
いまだ全貌が見えてこないこの学院篇ですが、残り2話どんな展開が待っているんでしょう。見たいもの知りたいことがたくさんあるなあ……
 
セスが吹き出すのも納得の微笑ましさ。こういうルーシーが見られるの、彼としては本当に嬉しいでしょうね。

 

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