1人では見られない景色――「負けヒロインが多すぎる!」10話レビュー&感想

©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

夕暮れの「負けヒロインが多すぎる!」。10話ではいよいよツワブキ祭の幕が上がる。その景色は1人で見ることは叶わない。

 

負けヒロインが多すぎる! 第10話「さようならには早すぎる」

1.誰かがいるから

紆余曲折ありながらも展示の準備を終え、ツワブキ祭当日を迎えた文芸部。様々な出し物が盛り上がる中、温水は小鞠と校内を回ることとなり……

 

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小鞠「せ、先輩。なんでここに……」
古都「寝不足の小鞠ちゃんを1人で行かせるわけにはいかないわ」

 

日が沈む「負けヒロインが多すぎる!」。10話は文化祭であるツワブキ祭当日、登校しようとした小鞠を先輩である古都が軽トラックで迎えに来る場面から始まる。古都がとっておきのBLドラマCDを大音量で流したりシートベルトの装着がいかにもな隠喩になっているのが笑いを誘うが、その他に個人的に印象に残ったのは古都が小鞠を迎えに来た理由だった。「寝不足の小鞠を1人で行かせるわけにはいかない」というのがその理由だが、この10話は1人では行けない場所に行く者達が多く見られるからだ。

 

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天愛星「それはそうと会長、いつ仮装なさるんですかにゃん?」
ひばり「? そんな予定は無いが」
天愛星「にゃ!?」

 

例えばOP開けでは生徒会副会長の馬剃天愛星(ばそり てぃあら)が同じく生徒会書紀の志喜屋に猫耳に合わせて語尾に「にゃん」とつけるよう言いくるめられるが、天愛星がそれを受け入れたのは会長である放虎原ひばり(ほうこばる ひばり)の発案だと聞かされたためだ。志喜屋1人でなく、憧れの会長の存在もあったから(実際はこれは志喜屋の嘘だったが)天愛星は恥ずかしくて仕方のないことも受け入れたのである。

 

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小鞠「あの、その……ありがと。私の書いたの、こんな素敵な展示にしてくれて」

 

また、ツワブキ祭の開始直前、展示スペースの前に集合した小鞠は主人公である温水に文芸部の展示を進めてくれたことへの感謝を口にする。温水はレイアウトや印刷は他の人間がやってくれたのだと自分の功績を否定するが、彼がいなければ皆も動かなかったのは前回示された通りだ。この文芸部の展示は小鞠1人でも、温水1人でもできはしなかった。

 

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千早「私腐女子の友達がいないのでとても興味そそられます! ぜひ今度BLについてご指南お願いしますね!」

 

1人で見られる景色には限りがある。文芸部以外に目を向けても陸上部(と文芸部兼部)の焼塩檸檬は自分に寄せられる好意に全く気付かず相手を1人相撲に終わらせてしまうし、小鞠の展示原稿に感銘を受けた同級生の千早などは逆に彼女を手がかりにBLの世界を扉を開こうとしている。同じく文芸部員にして友人である八奈見杏菜が温水にとってそうであるように、他人の存在は私達に新たな視点を与えてくれるものなのだろう。そしてその主軸はもちろん、文芸部次期部長である小鞠と現部長の玉木、そして古都の三角関係にある。

 

2.1人では見られない景色

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玉木「おー、温水! 待ってたぞ」

 

小鞠、玉木、古都。3人は三角関係にあった。3年生の玉木と古都は相思相愛の幼馴染だが玉木は自分が古都にフラれたと勘違いしており、小鞠は友達のいない自分を受け入れてくれた2人に感謝しつつ玉木に恋心を抱いている……それが物語開始時点での3人だったが、後に玉木は古都と交際を開始したのは既に描かれた通り。結果だけ見れば小鞠は恋に敗れ何も手にできなかったと言えるが、3人の関係はもう少しだけ複雑である。

 

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古都「こう見えて私、余裕ぶったクソ女なの」

 

ツワブキ祭が終わった後、古都は温水にある罪悪感を打ち明ける。それは、小鞠の恋心を知っていたが彼女が動くことはないだろうと考えていたこと。女として彼女を「ナメていた」ことだった。しかし実際には小鞠は合宿の時に玉木に告白したし、それは玉木と古都が互いへの誤解を知るアシストにすらなった。動くわけがないと思っていた小鞠が動いたから、古都は幸せを手にすることができたのだ。すれ違っていた2人に新しい景色を見せる他人が小鞠であったと見ることもできるが、それが彼女にとって残酷なものの見方――景色であるのは言うまでもない。だから古都は温水と話をしているこの時間、玉木と小鞠に2人きりの時間を作ってやる。杏菜が展示スペースの番を交代する際、温水と小鞠に部室に行かず2人で文化祭を回るよう促したのと同じように。

 

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小鞠「私、月之木先輩もいた3人の時間が好きだった。でも、合宿の時それを全部壊してもいいくらいに思った。だからきれいな思い出だけ残すのはなんか、違うかなって。そ、それでも部長は、私の嫌なところも全部ひっくるめて受け止めてくれて」

 

失恋したといっても、小鞠の中にはいまだ玉木への好意がある。気持ちはスイッチを入り切りするようには切り替えられないし、その方法も1つではない。時間によって記憶が薄くなっていくことでしか解決できない部分も、吐き出して新しい記憶を、思い出を作らなければ辛い部分もどちらもある。小鞠が玉木と話したことの1つは、もし古都がいなかったら自分を好きになっていたか聞くこと……自分の中の汚い気持ちも打ち明けることであった。2人だけの間で画面に描かれることすらなく終わったそのやりとりは、温水達もいる前でしたそれとは正反対のもう1つの告白でもあったのかもしれない。玉木は恋愛の相手としてこそ小鞠を選ばなかったが、そんな彼女の思いを受け止めはしたのだった。

 

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小鞠「私、部長のこと、好きになってよかった」

 

眩しい夕日を見ながら、涙がこぼれそうなのをこらえて小鞠は言う。部長のことを好きになってよかった、と。それは失恋を割り切ってしまっていたら口にできない言葉だ。今も残る恋心が辛いからこそ、彼女はそう思える自分であろうとする。強がりだとしてもその時、小鞠が見ているのはもう1つの景色だ。彼女自身の中にももう1人の自分があって、それが小鞠知花という”一人”の人間を支えてくれる。まだ消えない胸の痛みを、少しだけやわらげてくれる。

 

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人には1人では見られない景色がある。他人の中の自分、自分の中の他人……兄弟姉妹のようなその反射の中に、目に見えるのとは違う景色が覗いているのだ。

 

感想

以上マケイン10話レビューでした。外出している間に何回か視聴はしましたが、考えをまとめるのには結局随分時間がかかってしまいました。難しい。草介と華恋の劇は黙ってみてるのに杏菜と他男子の劇にはダメ出ししてるあたり、温水の自意識が出てる感じで面白かったです。観終わってから気付きましたが、今週は檸檬仮面でしか登場してないな……

 

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首のほくろに注目!

 

 

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