その意味を読み替えて――「負けヒロインが多すぎる!」11話レビュー&感想

©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

塗り直す「負けヒロインが多すぎる!」。11話では小鞠の物語に1つの決着がつく。私達はいつだってすれ違って、それでも――

 

 

負けヒロインが多すぎる! 第11話「結果責任についての話をしようか」

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1.同じものを目にしても

文芸部の新部長になった小鞠は部長会に向けて練習を重ねるが、少しずつ良くなってはいるもののそのレベルはおよそ発表に耐えない。活動報告だけでも代わるという提案も是としない彼女を、温水と杏菜は練習として動植物公園へ連れて行くが……

 

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温水「小鞠って俺や八奈見さん相手なら普通に話せるだろ? なんで練習だと上手く喋れないんだ」
小鞠「だ、だって、たくさん知らない人いるって想像するだけでい、意識遠くなる……」

 

責任の「負けヒロインが多すぎる!」。11話は新しい文芸部が始まる回だ。3年生の玉木と古都の引退に伴い次の部長には小鞠が指名されたが、冒頭の描写で分かるようにそれはあまり上手く行っているとは言い難い。喋るのが苦手な彼女は人前では原稿を読むのさえ怪しく、近日控えている部長会で活動報告ができるレベルには到底至っていなかったからだ。主人公にして副部長の温水に代理出席を提案されるも小鞠は聞き入れず、彼と部員の杏菜が提案した動植物公園での練習でも改善こそしているものの安心とは言えない出来であった。

 

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小鞠「な、なんで、無理とかそんなことばかり言うの……」

 

拙さを見かねた温水は、助け舟のつもりで活動報告の代理発表を申し出る。彼が言うように活動報告などは原稿を読むに過ぎず、苦手なのに人に頼らないのをただの意固地と考えるのは無理からぬことだろう。だが、小鞠の目に浮かぶ涙を見て温水は自分の見方が誤っていたことを知る。彼女は部長をやりたかったわけではなく、失恋した玉木「部長」のことを思い出にできそうだったのに自分が部長と呼ばれて混乱していて、それでも自分が部長をやるしかないと思い詰めていて――小鞠にとっての部長会での発表は、少なくとも温水が考えるようなささいなことではなかったのだ。

 

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温水「なんで今の食生活で痩せるの? 病院行ったほうがよくない?」
杏菜「普段の食事に気を使ってるんだって。おかわりはしない、大盛りを頼まない……」

 

同じものを目にしていても、人が見ているものはそれぞれ同じではない。例えば杏菜は傍目には四六時中何かを食べているようだが実際には食生活に気を使っているらしく、その体重はむしろ夏から2キロ減っていることが今回明かされたりする*1。彼女が温水に助言するように自分の気持ち=ものの見方を伝えるだけではだめで、相手の気持ちと言葉も引き出してあげないと話し合いは成立しないのだ。

 

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温水「すいません、遅れました。文芸部部長の温水和彦です」

 

迎えた部長会の日、小鞠がやはり原稿を上手く読めず生徒会から発表を飛ばされてしまったのを見かね、温水は本当は自分が部長だが遅刻してしまったと申し出て収拾をつけようとする。当初のように今の小鞠では無理だと思ったからではなく、他の出席者は2,3日もすれば忘れるであろうこの出来事が小鞠にとって辛い記憶として残り続けるのが嫌だからそうした点で温水は一歩前進しているとは言えるだろう。けれどそれは代わりに温水が泥をかぶるだけの話で、当の小鞠にしてもやはり望むところではない。彼女は温水にペットボトルを投げつけ、逃げるように教室から走り去ってしまった。

 

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杏菜「自分の気持ちを伝えるだけじゃだめなんだよ。相手の気持ちと言葉も引き出してあげなくちゃ」

 

温水はいまだ、杏菜から受けたアドバイスを実践できていない。彼がそれをやってみせるのは部長会の終了後、いなくなった小鞠を追いかけてからだ。

 

2.その意味を読み替えて

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姿を消した小鞠は、旧校舎の階段に1人座っていた。どうにか彼女を見つけた温水に「余計なお世話だ!」と罵声を浴びせながらもそれすら詰まってしまった小鞠は、代わりにトークアプリで温水にメッセージを送り始める。折り返し階段の構図ともども一見向き合うのを避けているようなこのメッセージに温水ははしかし、かえって小鞠らしさを感じていた。思いを伝えると決めたその文字はまっすぐで、むしろ正面から温水を見据えてすらいたからだ。そしてそこに現れていたのは、彼女が部長にこだわるのは自分がまた1人になっても耐えられるようにならなければと思い詰めていたこと――友達がおらず入部時も実質1人だけの1年生だった小鞠が、温水達がまたいなくなってしまうのではと不安になるからこそ優しくされるのを拒絶していた事実であった。

 

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温水(俺は馬鹿だ。小鞠は俺と同じ側の人間だと思っていた)

 

温水は知る。自分と小鞠は同じではないのだと。1人が平気な自分と1人を恐れる小鞠はまるで違う人間で、小鞠の気持ちに少しばかり寄り添ったつもりになっていたのはうぬぼれに過ぎなかったと。どれだけ相手の気持ちを考えてもやはり、「同じものを目にしていても、人が見ているものはそれぞれ同じではない」のだ。けれど、それは私達が誰かと一緒にいられないことを意味しない。

 

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杏菜「温水くん、これは言い訳できないでしょ」
温水「えぇ? これからも文芸部にいるつもりだし、辞めないからって意味だけど……」

 

温水の送ったメッセージ――涙で隠れて私達には見えない――を見て小鞠は驚き、その意味を問う。まるで愛の告白のようなそうではないようなあやふやなやりとりは駆けつけた文芸部員の檸檬によって友情として収まるが、彼女と杏菜は誤って部のグループトークで展開されていたそのやりとりを再確認してこれまた驚く。温水が送ったメッセージとはなんと「俺、ずっと一緒にいるから」であり、傍目にはやはり愛の告白としか見えないものだったからだ。けれど温水にはそんなつもりは毛頭ない。彼はあくまで自分はこれからも文芸部にいるし辞めないからという意味で書いただけだ。ここにもやはり「同じものを目にしていても、人が見ているものはそれぞれ同じではない」はあって、しかしそれは温水達を引き裂いてはいない……小鞠を1人にはしていない。

 

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私達はいつだって本当のことを見たり口にすることはできない。「ずっと一緒」「ずっと友達」と言っても友人関係が永続することは少なく、大抵の場合いつかは疎遠になっていく。1話で温水が触れたように、学生カップルだって多くの場合はすぐに別れてしまう。極言するなら形あるものは全てかりそめだ。けれど逆に言うなら、私達は形あるものをいかようにだって読み替えることができる。玉木と古都が小鞠を次の部長に選んだのは彼女に居場所を残したかったからであって、ならば居場所さえあれば小鞠が部長である必要はない。温水が部長になっても、彼らの決定を読み替えても何の問題もありはしない。

 

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小鞠を救うための方便で言った温水の部長宣言はいつの間にか既成事実になり、自分でいいのかと自信なさげに問う彼に小鞠は笑ってこう返す。「言ったからには責任取れ、逃げられないからな」……と。これまたまるで愛の告白への返答のようだけれど、それは様式がそうであるというだけの話だ。あくまでかりそめ・・・・の姿であって、そこにある思いは恋や友情の一言では表しきれない。見方を変えるなら、その意味はいくらでも読み替えられるし読み替わっていくことだろう。それは続く言葉で小鞠が温水にかける「新部長」という呼びかけが、字義より遥かに複雑な感慨を伴って私達の耳に響くことからも明らかだ。

 

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同じものを目にしていても、人が見ているものはそれぞれ同じではない。けれどだからこそ、私達は形あるそれの意味を――自分や相手の気持ちを読み替えていけるのである。

 

感想

以上、マケインのアニメ11話レビューでした。冒頭の「温水はもともとこの程度の男だ」と終盤の「残念ながら新部長はそういう男だ」が照応しているのを頼りに見ていくなら、これは読み替えの話なのではないかな、と。正義や平等なんかもいわばかりそめで、けれど……とも思います。そして杏菜編のラストである4話と重ねることで更に色々読み替えていける内容だったように感じました。その意味でも最終回っぽかったですが、次回は原作者である雨森たきびさん原案のオリジナルエピソードだそうで。区切りを見届けたいと思います。

 

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*1:あれでどうしてカロリーの収支が合うのか本当に謎だ……