ルール破りのルール――「アクロトリップ」2話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

悪い大人の「アクロトリップ」。2話では地図子が順調に悪の組織に近づいていく。ルールを破るにはルールが必要だ。

 

 

アクロトリップ 第2話「ゴートゥー悪の道」

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1.ルールに縛られた者達

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大好きな魔法少女ベリーブロッサムと敵対する、悪の組織フォッサマグナの総統クロマから参謀にと勧誘を受けた地図子。きっぱり返事ができないままコンビニに行けばクロマがバイトしており、更にそこに強盗が押しかけてきて……?

 

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地図子(しょ、昇天してる場合ちゃう。この目に焼き付けなきゃ! ベリーブロッサムの華麗な魔法を……)
ベリーブロッサム「はあああーーーっ!」
地図子(えー………)

 

契約の「アクロトリップ」。2話は本作における魔法少女と悪の組織の立場が明らかになってくる話だ。このN県奈仁賀市では魔法少女ベリーブロッサムの戦う姿がテレビで放送されたり悪の組織フォッサマグナの総帥クロマがコンビニでバイトしているなど日常に溶け込んでいるが、かといって彼女達はどこでもその力を振るっているわけではない。刃物を持ったコンビニ強盗の前にクロマは手も足も出ないし、捕まった彼や地図子を助けに現れたベリーブロッサムは魔法を使わずラリアットで事態を解決する有り様。なんともコミカルだが、ここにはちゃんと事情があった。魔法による悪事は魔法少女、一般の刑事事件は警察が対応する住み分けが自然になされており、ベリーブロッサムは今回魔法を使うわけにはいかなかったのだ。

 

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ベリーブロッサム「警察と確執あるからね。鉢合わせする前に失礼しまーす」

 

超常たる魔法=ルールの外の力を手にしたものはルールを無視できるわけではなく、また別のルールに囚われるだけ。コンビニでの一幕からはそんな世知辛さが見えてくる。だが、それを言うならそもそもベリーブロッサムが強盗の前に姿を現すこと自体がルール破りではないか。劇中でも喋る猫(?)のマシロウからそのことを注意されたベリーブロッサムは、コンビニで「ベリーブロッサムがいてくれたらなんとかしてくれるはず」と口にした地図子を思い出しながらこう口にする。「だって、正義の味方でいたかったの」……と。その言葉の意味は後半、別の形で示されることとなる。

 

2.ルール破りのルール

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地図子「ここうちの町内だよね? 市から許可とか降りないでしょ」
クロマ「こちとら悪の組織だぞ。基地のすべては魔法による産物だから公共とは切り離された存在なのだ。魔力さえ有していれば不自由はない」

 

コンビニ強盗事件後のある日、学校から帰宅した地図子は驚きの光景を目にする。そこではなんと、クロマが祖父と楽しく茶飲み話をしていたのだ。なんとしても悪の組織へ勧誘したい彼によってフォッサマグナの基地へ招かれた地図子は、ふとしたことからクロマともども物置に閉じ込められるピンチに陥るのだが……面白いのは、ここでクロマが様々なルール破りを見せていることだろう。
フォッサマグナの基地へ地図子を連れて行ったのは物理法則を無視したワープ、魔力による産物だから市の建設許可=公共からは切り離された広大な基地など、地図子が訪れる空間はルール破りに満ちている。物置のドアに何かが引っかかって開かないと言われた当初、地図子が心配しなかったのもこうしたルール破りを見れば当然の反応と言える。だが、前節で示されたようにルール破りはルール無用と同じではない。

 

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クロマ「私の魔力不足で出られないなら、新たに契約すればいいのだ。サインを頼むぞ伊達地図子!」

 

クロマいわく魔力は月初め更新であり、先程の招待で定量を使い切ってしまったため今月はもうワープはできない。地図子は呆然とするが、ここで彼女達がぶつかっているのはやはり「別のルール」である。ワープは壁を無視できるが魔力量の問題は無視できないから、自由に移動できるようでも結局はやりくりに頭を悩ませなければならない。魔法が使えるからと言ってルール無用ではないのだ。もうすぐベリーブロッサムの特番の時間なのにこのままでは帰れない、録画予約もできていないと焦る地図子にクロマが提示したのは、なんと彼女が新たに魔力契約をするという打開策であった。

 

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地図子(悪に堕ちたわけじゃない、これは組織に入らずともベリーブロッサムを観るため……!)

 

魔力契約をする、というと魔法陣を描いて儀式を行うようなイメージがあるが、本作における魔力契約はそんなオカルト的な代物ではない。「はじめての魔力契約サポートガイド」なる申込用紙に名前を書けばOKという仕組みはまるでガスや電気の契約のようで、むしろ機械的ですらあるほどだ。そう、「料金は本部の経費で落ちる」「私が二重契約するわけにはいかない」といったクロマの言い草からも言えるが、この魔力契約は極めてルールに則っている。既存のルールの外にある力にも関わらず、それ自体はむしろルールに従うことで供給されているのである。……そもそもで言えば、契約に基づいて使用可能になるガスや電気も我々にとって本来魔法も同然のものではなかったか?

 

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地図子「今ワープしたよね?」
クロマ「したかも?」
地図子「息するように嘘ついたな!?」

 

前節で示されたのはルール外の者も別のルールから逃れられない世知辛さであったが、本当はそれは順番が逆だ。ルールは別のルールによってこそ破られる。物置の扉は結局祖父によって開けられ、基地が地図子の家の地下にあると判明するがこれは祖父の許可を得てのことであったし、またクロマは実は魔力切れなど起こしていなかった=地図子を騙していたのだが、もともと彼は自分が悪い大人だと断ってはいた。地図子は納得できないとクロマを追いかけ回すが、それでも彼が再びワープを使ってくれたおかげで特番には間に合ったから怒り切れないのが本音であろう。なんでもありに見えても彼らの間では最低限のルールは守られていて、だからちょっとしたルール破りも結局は水に流され許されていく。

 

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ベリーブロッサム「仕方ないじゃないマシロウ。だって……正義の味方でいたかったの」

 

犯罪者相手だろうと一般人とやりあってはいけないのに変身してしまったり、悪の組織に入るつもりはないのに魔力契約をしてしまったり、人は時にルール破りをしてしまう。けれどそれはルールの存在自体を無視したわけではない。

ルールを無視するのではなく、別のルールを見つけた時に道は開ける。それがルール破りの「ルール」なのだ。

 

感想

以上、アクロトリップのアニメ2話レビューでした。今回は結論自体は割とすんなり浮かび、途中をなぞっていく中で地下基地やワープなんかもルールを巡る話の証拠になるなと当てはめていった次第です。観る側でしかない地図子がベリーブロッサムとフォッサマグナの戦いに割って入るルール破りのためには悪の組織に入らないと、というのもそれに則った状況かなと。
地図子が言うようにクロマ、ポンコツだけど人を悪の道に誘うのが妙に上手だな。強盗役が杉田智和だとは本編見ている間は気付かなかったので、後で知って驚きました。

 

派手なピザやステーキのようなごちそうを食べるというより、なんてことない朝食を食べていて「お、この卵焼きよくできてるな」とふと気がつく感覚。そんなアニメという気がします。次回もますます楽しみ。

 

 

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