カメラに映らない戦い――「アクロトリップ」3話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

暗闘の「アクロトリップ」。3話ではベリーブロッサムのマスコット、マシロウが本格登場する。その戦いは、けしてカメラに映らない。

 

 

アクロトリップ 第3話「推しにもしもし」

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1.マシロウと地図子

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公園を占拠するぞと悪事の予告をチラシ配りしたクロマだったが、犯行予告時刻はあいにくの悪天候。地図子が1人公園に行くとベリーブロッサムが強風の中クロマを待とうとしていたが、飛んできたポリバケツで気を失ってしまい介抱されることに……!?

 

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マシロウ「見てくれてんのか嬉しいなあ! あれ俺! 撮ってんの!」

 

瞳越しの「アクロトリップ」。3話はマシロウにスポットの当たる回だ。1話から登場していた喋る猫(?)、我々視聴者からは魔法少女ベリーブロッサムのマスコット的存在と認識されているがローカルニュースの視聴者投稿映像には映ってこなかった謎の存在……その正体の一端がこの3話では明かされることとなる。なんと視聴者投稿の映像はマシロウが撮ったもので、彼がベリーブロッサムの大ファンである主人公・地図子にすら存在を認識されなかったのは撮影者であるが故の必然だったのだ。マスコットとしては意外な属性だが、マシロウの特徴の一つは隠密性が極めて高い点にあると言えるだろう。

 

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マシロウ「ありがとよう、見知らぬ嬢ちゃん」

 

裏で支えるという自身の言葉通り、マシロウは今回ベリーブロッサムを影で――隠密裏に守っている。悪天候でもクロマの悪事を見過ごせない、と公園で待とうとして事故で気を失ったベリーブロッサムを地図子が救う際に仲介役を務め、状況を説明しつつも魔法少女の正体が乃苺佳寿という女の子であることは隠そうとする。撮影者たる彼は、カメラが回っていない時もそこに映すべきでないものを選別しているのだ。ただ、実のところこれは彼の専売特許ではない。「隠す」のにやっきになっているのは地図子も同様だからだ。

 

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クロマ「おかえ……」
地図子「りゃぁぁぁ!」

 

地図子は悪の組織フォッサマグナの総帥クロマから参謀になってほしいと勧誘を受けており、また前回明かされたようにフォッサマグナの拠点は地図子の家と繋がっているからクロマは当たり前のように地図子のところへやってくる。しかし地図子としては大好きなベリーブロッサムにそんな事情を知られるわけにはいかないから、彼女を介抱する際もクロマのことを隠そうと必死だ。玄関で1人オセロに興じる彼に遭遇すれば光の如き速さで別室に隔離し、物音で不審がられれば必死に話をそらそうとする。魔法少女と悪の組織で立場は違えど、マシロウと地図子はよく似た立場に置かれているのである。

 

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情緒不安定ながらもベリーブロッサムの大ファンぶりを見せる地図子に、マシロウはこう言う。「プロデュース力とかすげえありそうだし、一緒になんかやれたら楽しいかもな」……と。それは半分はリップサービスだったかもしれないが、後半思わぬ形で実現することとなる。

 

2.カメラに映らない戦い

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ベリーブロッサムを介抱してもらった翌日、マシロウは再び地図子の家を訪れる。昨日は突然クロマが乱入してきたため逃げるように退去することになり、彼が地図子の家に現れたことを不審がったためだ。地図子とクロマの方でも妙に話が噛み合った結果、マシロウを人(?)質として捕まえてしまうのだが、そのてん末はかなりグダグダしたものとなった。

 

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クロマ「いいかよく聞け! お前のにゃかま……!」
ベリーブロッサム「にゃかま?」

 

クロマはマシロウを人質にとってベリーブロッサムと戦おうとするが、そもそも悪事を地図子に問うて誘拐と答えられたのが発端なので深い考えがあったわけではない。地図子の祖父に言わせれば一種の遊びでしかないし、ベリーブロッサムに連絡するつもりでマシロウの携帯電話に発信してしまったり、声が上ずって自分が誰なのかベリーブロッサムに伝わらなかったり、最終的には話している途中で舌を噛んでダウンしてしまったりと首尾も散々である。ベリーブロッサムは結局、マシロウが誘拐されたことに気付きすらしない。なんともしょうもない展開だが、重要なのはこの気付かれなかったという点だ。声しか聞けないベリーブロッサムからすれば、受話器の向こうでは何の問題も起きていない。言い換えるなら誘拐事件はカメラに映っていない・・・・・・・・・・

 

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ベリーブロッサム「あー、やっと出てくれた! もう、何かあったんじゃないかって心配で心配で……マシロウ、聞いてる?」
地図子(……かっわいい……!)

 

舌を噛んで倒れたクロマから後事を託された地図子は、聞き間違いから生まれた参謀の名前・ダンテを名乗りマシロウの挑発にも負けず電話に出る。だがこれは彼女にとって凄まじい激闘であった。なにせ地図子はベリーブロッサムの大ファン、その声が耳に届くだけで歓びで胸いっぱいになってしまって会話することすら難しい。受話器越しの一音一音、パンの咀嚼音すら彼女にとっては致命の一撃に等しいのだ。なんとか調子を整えた言葉は誘拐による脅迫どころか迷子センター同然になってしまい地図子は落胆で気を失ってしまうが、最後まで話せただけで彼女としてはよくやった方だろう。

 

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マシロウを捕えるもそれをベリーブロッサムに伝えることすらできないままクロマと地図子は気を失い、もう帰っていい状況だろうと地図子の祖父に促されてマシロウは帰途につく。あまりにも平和、あまりにもグダグダなてん末だが、表面上は穏やかに終わったこのやりとりが彼女にとっていかに苦しい戦いだったのかをマシロウは知っている。カメラに映らないこの戦いで、結果的には一緒にプロデュースしたも同然の狂言的誘拐で地図子がどれだけ頑張ったかを知っている。だから彼は状況がよく飲み込めないながらも彼女に敬意を表することができる。

 

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マシロウ(ダンテ……か。おめーの頑張り、見届けてやったよ。厄介なやつがまた一人、敵になったのかもしんねえな)

 

今回の地図子の戦いを知る者は少ない。けれど戦っている姿を知られていないのは視聴者投稿の映像が流されるローカルニュースの視聴率が裏番組に負けているベリーブロッサムも、それを裏から支えているマシロウも同様だ。一流は一流を知るのと同様に、カメラに映らない者もまたカメラに映らない者を知るのである。

 

感想

以上、アクロトリップのアニメ3話レビューでした。普段以上にレビューに手こずり、方向性が決まるまで8回見ることとなりました。回復したかと思ったのですがだいぶ頭が回っていないので、やはりもっと寝ないと……分からんまま見返しても楽しいのがこの作品のすごいところですが。

伊藤美来演じる地図子のベリーブロッサムへのリアクションがよくあるハイテンションの狂態ではなく、それでいてたまらん気持ちになっているのは伝わるのがとても好きです。リアクション全般含め、声を聞いてて飽きない。それを引き出す水瀬いのりのベリーブロッサムのかわいらしい声ももちろん素敵。次回がますます楽しみです。

 

 

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