君が主人公になった日――「アクロトリップ」4話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

踏み出す「アクロトリップ」。4話では遂に地図子がフォッサマグナの一員になる。だが、彼女が悪の組織の参謀になったというのは正しくない。

 

 

アクロトリップ 第4話「ずぶぬれレイニーデイ」

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1.地図子が辞めたもの

フォッサマグナがこの町から撤退する。ニュースに驚いた地図子が床下を覗くと、地下にあったはずの拠点は既に消失しクロマも姿を消していた。平和な日常が戻ってきたと喜ぶ地図子だったが、戦う相手のいなくなったベリーブロッサムがただのボランティアガールと化しているのを見てしまい……

 

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救世の「アクロトリップ」。4話は地図子がフォッサマグナに加入する回だ。1話の勧誘から3話かけてここまで来たわけだが、彼女が「悪の組織の参謀になった」というのは実は正確ではない。なぜか? そのためにはまず、地図子の置かれた立ち位置を再確認する必要がある。

 

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そもそも伊達地図子とは何者か? 魔法少女ベリーブロッサムの大ファン、フォッサマグナ総帥クロマから勧誘を受ける幹部候補……色々な角度から見ることはできるが、一つ確かなのは彼女が「観客」に過ぎないことだろう。これまでの話でクロマやベリーブロッサムと関わりができたとはいえ、地図子自身が魔法少女と悪の組織の戦いの参加者になったわけではない。家の地下にフォッサマグナの基地があろうが騙されて魔力契約をしようが、その実態はオーロラビジョンで流されるニュースを観ているだけだった頃と変わりはしないのだ。今回序盤、地図子はそれを思い知らされることとなる。

 

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地図子「ええ!? ちょ、マジで!?」

 

前回、場の雰囲気に飲まれて参謀ダンテを名乗ってしまった地図子は今日こそクロマとの関わりを断ち切ろうとするが、そんな彼女の目に飛び込んだのはなんとフォッサマグナがこの町から撤退するという突然の報道であった。もちろん地図子は初耳であったし、床下から通じていたはずの拠点もいつの間にかもぬけの殻。今までの関わりからすれば少しつれない気もするが、文句を言えた筋合いではない。しょせん彼女はフォッサマグナの一員でもなんでもないのだから、これまでの濃密さがおかしかったくらいなのだ。

 

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クロマが突然消えてしまったことに一抹の寂しさを覚えつつも、変わらない日常が戻ってきたと喜んでいた地図子。しかしここには大きな問題があった。悪の組織がなければベリーブロッサムがこの町にいる意義もない……不安からいつものオーロラビジョンまで駆けつけた彼女が目にしたのは、戦う相手がいないからゴミ拾いのボランティアをしている、理想からあまりにかけ離れたベリーブロッサムの視聴者投稿映像であった。

 

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地図子「あんたが何言おうと関係ない、これは私の意思だから! 彼女を彼女たらしめるため、私の光を取り戻すためなら私はどこまでも深い影になれる」

 

別れを告げに現れたクロマに激怒し、地図子は言う。自分は魔法少女が好きなのだ、魔法で悪を倒してこそベリーブロッサムなのだ、と。けれどそれは今のままでは叶わない。無力な観客のままでは叶わない。だから地図子はフォッサマグナの参謀になることを宣言する。誰に言われたのでもない自分の意思で、観客を辞めることを彼女は決心したのである。

 

2.君が主人公になった日

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ベリーブロッサムという光を取り戻すため、フォッサマグナ参謀になることを決心した地図子。彼女が立てた作戦に基づくクロマの戦い方は、確かにひと味違うものであった。登場はトリッキー、ワームホールから伸ばした巨大な手にはウニが内包されていて倒しても飛び散るし、それを避けて動いた先には部下のクマ怪人達が潜んでいる……正面突破一辺倒だった今までとは大きく異なる戦法にベリーブロッサムは戸惑う。しかし一方、戦う彼女の顔には不思議と笑みが浮かんでいた。ゴミ拾いしかすることのない日々では埋められない何かが満たされる感覚にベリーブロッサムは生き生きとして――そして、そんな彼女を見て大号泣している地図子が次の指示をできない内に戦いは決着した。

 

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クロマ「人のためでも組織のためでもなく、己の利のために働くお前こそ悪の組織には相応しいと言える。よろしく」

 

結果だけ見れば、海辺で行われたこの戦いは相変わらずグダグダである。クロマは波で口上を全部は言えず地図子は事実上途中で指示を放棄、ベリーブロッサムも戦いが楽しくて暴走気味……だが、これは失敗ではない。クロマが指摘するように、地図子はベリーブロッサムに勝ちたいわけではないからだ。彼女の目的は魔法で悪を倒すベリーブロッサムを取り戻すことで、戦いはそのための手段に過ぎない。見ようによってはとんでもなくワガママな地図子の振る舞いをクロマは悪の組織に相応しいとむしろ歓迎するが、面白いのはそこにいわゆる「闇落ち」のような邪悪さがかけらもないところだろう。地図子が感じるこそばゆさが、そして雨上がりの夕焼けが示すように、この時世界は祝福にあふれている。初めてこの町へ来た時は何に対しても興味の持てなかった彼女が、いまや道理を蹴飛ばせるくらいに何かを大好きになれたのだ。自分というものを大事に――自分の人生を生きられるようになったのだ。これがめでたくないわけはないし、そういう自我は自分しか幸せにしないとは限らない。今回明かされた1話の戦いの実態からはベリーブロッサムもクロマも力や役割に振り回されていたことが分かるが、地図子の参戦はそんな彼らの間に見事な調和をもたらしている。それはある意味、魔法少女も悪の組織もなれなかった唯一無二のヒーローに地図子がなれた証であろう。

 

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この4話、地図子が悪の組織フォッサマグナの参謀になったというのは間違ってはいないが正確ではない。彼女は今回、本作の――そして自分の人生の主人公ヒーローになったのだ。

 

感想

以上、アクロトリップのアニメ4話レビューでした。遅くなりましてすみません、どう書いたらいいか緒が掴めずうんうん唸っておりました。書く前の確認も含めて結局10回見たよ! 10回見れちゃうくらい面白いから困るんだよ! ほんとなんなんでしょうかこの作品。サンダーボルトブルームに打たれるのは地図子が観客でなくなった証……彼女の祖父が密かにマッチョだったのも驚かされ笑かされました。さてさて、次回は不穏そうな副題ですがどうなるんでしょうか。

 

 

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