魔法の正体――「アクロトリップ」5話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

善良なる「アクロトリップ」。5話では魔法少女ベリーブロッサムにスポットが当たる。彼女の本当の魔法は、ステッキから放たれる力ではない。

 

 

アクロトリップ 第5話「暗雲アンノウン」

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1.影の主役

高校生の乃苺佳寿はある冬の日、雪に埋もれていた不思議な生き物を見つける。その生き物マシロウに頼まれたことで、彼女の魔法少女ベリーブロッサムとしての日々は始まり……

 

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マシロウ「このバーベキューコンロ、今一番流行りの型なんだぜ」
佳寿「マシロウ物知りー!」
クロマ「だいぶ雑に嘘つかれてるじゃないか……」

 

心優しき「アクロトリップ」。5話は主人公の地図子が大好きな魔法少女ベリーブロッサム=乃苺佳寿の人となりが分かる回だ。いつもの地図子の視点からではなく、マスコットのマシロウとの出会いなども描くことで謎に満ちた実態が見えてくるわけだが――端的に言って、その正体はお人好しである。困っている人を見ると放っておけず、喋るネコのような怪しい生き物のマシロウを見ても逃げ出すどころか家に招いて暖を取らせてやる。善意につけこむようなマシロウの口車に乗せられて魔法少女になってしまうくだりに至っては、見ているこちらが不安になってしまうほどだ。これらの描写からは彼女が度の過ぎたほどに「いい子」なのがよく伝わってくる。……ただ、この5話が描いているのはそれだけではない。

 

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警官「なんかイベント? お祭り?」
クロマ「あっはい、なんかそんな感じで……」

 

今回の話で分かるもう1つのもの。それはフォッサマグナ総帥クロマの「悪人になれなさぶり」である。彼は確かに悪の組織の総帥だが、これまでで明らかなようにその悪人ぶりはどちらかと言えば微笑ましいものだ。なにせ働く悪事は店のマットをひっくり返す程度、強さはベリーブロッサムに遠く及ばず市民も脅威とみなさなくなっているほど……今回にしても暗雲の中から現れたいと台風の日の子どものように興奮したり警察に気付かれないどころか心配されて落ち込んだりしており、彼を見て笑う者はいても怖いと思う視聴者はいないだろう。もはや見慣れているくらいかもしれないが、主人公の地図子がツッコミ役や脇役に徹している今回はクロマの「悪人になれなさぶり」がいつも以上に強調されている話でもあるのだ。

 

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今回は善良に善良を重ねたようなベリーブロッサムと、悪になろうとしても愉快さの抜けないクロマの話である。では、そこに起きている化学反応はいったいどんなものだろうか?

 

2.魔法の正体

ベリーブロッサムの善良さととクロマの「悪人になれなさぶり」が起こしているもの。言ってみればそれは、正義と悪の常識を超えた戦いである。

 

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クロマ「限界……」
地図子(いるし……)

 

何を言っているのだと思うかもしれないが、例えば前半の暗雲ごっこの場合、警官はクロマの行為を悪事とは見なさなかった。「悪人になれなかった」のだ。しかし彼が魔力の速度制限から中途半端に出して放置していったワームホールはベリーブロッサムの警戒を呼び、いつになったらクロマは現れるのかと長時間やきもきさせる結果を生んだ。それを聞いた地図子が「申し訳無さ過ぎる」と内心で罪悪感を覚えているように、これは確かに悪事と言ってよい。そう、ベリーブロッサムはこの時クロマを悪人にしてやった・・・・・・・・のだ。

 

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クロマ「やいやいベリーブロッサム! 今まさに大声だして近隣住民に迷惑をかけているぞーー!」
地図子「悪事が雑!」

 

フォッサマグナが悪の組織たり得ているのはなぜか? 逆説的だがそれは「ベリーブロッサムが悪事と認定するから」だ。最初の頃のようにマットをひっくり返すのもベリーブロッサムを呼び出すため公園でメガホンを使って大声を出すのも、それだけなら迷惑ではあるが悪人とまでは言い難い。けれどベリーブロッサムが駆けつければそこには魔法少女と悪の組織の戦いの構図が生まれ、どんなしょうもない理由であろうが正義と悪の対決に変わる。クロマは悪人になることができる。「悪人になりたい」という願いすら魔法のように叶えてやっているのだから、ベリーブロッサムの、乃苺佳寿という少女のお人好しぶりは本当に度が過ぎていると言えるだろう。

 

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佳寿「まさか悪の総帥……との戦いの視聴者投稿を見てくれてる奇特な方!?」
クロマ(違う!)

 

ベリーブロッサムは善良である。彼女は他人が自分を騙そうだとか陥れようとしているだとかは考えもしない。彼女の言う悪人とは列に割り込むとか公園を占拠して子供に譲らない程度の存在であって、例えば言葉巧みに個人情報を入手して犯罪行為から抜け出せなくするといった背筋の凍るような存在はその目に映っていない。本作では魔法少女と警察で住み分けがなされている設定だが、つまり警察沙汰になるような行為はこの魔法少女にとって悪事ではないのだろう。悪党を成敗する構図は保ちつつも、ベリーブロッサムは「悪」なるものを優しく包みこんで無力化している。

 

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佳寿「あ、あなたとても冷たいよ!」
マシロウ(なんだ……こいつは逃げねえのかよ)

 

ベリーブロッサムはどうして些末な悪事しか悪事として見ないのか? おそらくそれは彼女が愚かだからではない。たぶん半分くらいはそうではない。ベリーブロッサムの中にあるのはむしろ、常識外れなほどの世界への信頼だ。彼女は人の善性を心の底から信じている。マシロウにどんなに適当なことを言われても、クロマに傍から見れば意味不明なことをされても、自分の考える優しい悪事以上の悪意を彼女はそこに見出さない。バカというより大バカなのであり、自分を賢いと思っているバカでしかない私達には到底たどり着けない領域に立っているのがベリーブロッサムなのだ。それはある意味、ワームホールが出せるだとか杖から雷がほとばしるよりもずっと魔法らしい魔法ではあるまいか。

 

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ベリーブロッサムは魔法少女である。だが、彼女の本当の魔法はステッキから放たれる力などではない。世界を愛してやまないその心こそ、ベリーブロッサムの魔法の正体なのである。

 

感想

以上、アクロトリップのアニメ5話レビューでした。結論は割とすぐ浮かんだのですが、そこまでを文章にするのに結構手間取ってしまい……なんというか心根が魔法少女なのですね、ベリーブロッサム。ベリーブロッサムのステッキ等を特に説明もなく手袋つけて扱う地図子もそれに誰にツッコまない状況も笑えて仕方がないです。おじいちゃんの「撒く?」のナチュラルぶりといい、キレのいい回でした。さてさて、日常回的な内容の次に待っているのはどんな話なんでしょうか。

 

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