総帥の条件――「アクロトリップ」6話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

悪を極める「アクロトリップ」。6話ではクロマの夢が揺さぶられる。彼が幼少時に抱いた「悪の総帥」の夢、その必要条件はなんだろう?

 

 

アクロトリップ 第6話「魔法DE無法」

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1.悪の総帥は伊達じゃない

度重なる失態で本部から解任されてしまったクロマに代わり、新たな悪の総帥としてヒューという男がやってきた。これまでと世界観の違う彼のやることは悪辣そのもので……?

 

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クロマ「至らぬ点は重々承知しております。ご、ご期待には必ず……!」

 

原点回帰の「アクロトリップ」。6話はクロマの過去が明かされる回だ。幼い頃1人ぼっちだった彼は悪の組織の実在を知る同級生からその総帥になる夢を聞き、自分を止めに来てくれる=構ってくれる人を求めて自分も悪の総帥になろうと志した。念願叶って今は悪の組織フォッサマグナの総帥になっているわけだが――なんと今回の話で彼は総帥の座を剥奪されてしまう。成果をあげられないことを本部に責められ、奈仁賀市には新たな総帥としてヒューという男が派遣されてきたのだった。

 

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ヒュー「本気でかかってくるがいい!」
クロマ・ベリーブロッサム「ずっる!」

 

ヒューの登場は奈仁賀市に波乱を呼ぶ。ローカルテレビ局をジャックし、魔法少女ベリーブロッサムが戦いに現れれば口上中にも関わらず捕縛。主人公である地図子を人質に取るなどそのやり口はこれまでのクロマとベリーブロッサムの戦いとは明らかに別物だ。トゲトゲした鎧に身を包んだ外見通り「世界観が違う(by地図子)」彼はクロマよりもずっと悪の総帥らしく見えるが――本当にそうだろうか?

 

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クロマ「君の部下には……ならない」

 

そもそもの話、総帥とは本来組織のトップを指す言葉のはずだ。しかし以前から語られていたようにフォッサマグナには本部が存在し、クロマの立場は電話一本で解任される程度のものに過ぎない。もちろん「フィクションの悪の組織の階級なんてメチャクチャなものだから」とメタな解釈で納得することも可能だが、こと本作においてそれを適用するのは早計だろう。なぜならクロマは悪の総帥を目指すと決めた時、最初にその話をした同級生に「君の部下にはならない」と答えている。総帥=人の下風に立たないことが含意されていなければこんな言葉は出てこない。

 

6話において「悪の総帥」はけして伊達ではない。では、それはいったい何を指しているのだろうか?

 

2.総帥の条件

フォッサマグナの総帥はただの中間管理職に過ぎない。けれどクロマの「悪の総帥」は伊達ではない。奇妙な話だが、これが矛盾していないことは今回の彼の行動を見れば分かる。

 

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地図子「クロマ! あんたが行かないって言ったって……う、うわ! なんか張り切ってる」

 

例えば彼はベリーブロッサムの危機を知った時、正義の味方がいなくては悪事も冴えないからと迷わず彼女を救いに行った。フォッサマグナの組織人としては失格だが、身勝手な理由で動くのはむしろ「悪い」人間のすることだろう。

 

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クロマ「もしもし、総統ですか!? ヒューのやつが籠手壊しました!」
ヒュー「ちょ!? お、お、貴様!」
クロマ「ええ本当です! 激闘の末にとかでもなく、地味にしょうもない感じで!」
ヒュー「本部にチクるんじゃなーーーい!」

 

またクロマはヒューに対抗するにあたって直接戦うのではなく、彼が組織に与えられた籠手型の武器を偶然から壊してしまったことを利用しそれを本部に密告した。制裁を受けてかわいい2頭身の姿に変えられてしまったヒューは卑怯だと罵るが、卑怯とは「悪い」人間のする行為なのは言うまでもない。

 

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クロマ「それになったら、誰か止めに来てくれるのか? 向こうからかまいに来てくれるのか?」

 

クロマは確かにフォッサマグナの中間管理職だ。けれど彼は組織に言われるがまま従ってはおらず、抜け道を探す形で主導権は保っている。最たるは目的がフォッサマグナと一致しているわけではない点で、クロマの目的は世界征服などではない。彼の望みは自分にかまってくれる人を得ることで、フォッサマグナはいわばそのために利用しているだけだ。……悪の組織を自分のわがままのために利用するだなんて、そんな「悪い」人間が他にいるだろうか? 彼に比べれば、本部の意向に従って無法を働くだけのヒューなどは取るに足らない小物に過ぎない。この6話は2人が「悪の総帥」としての貫禄を競う回でもあり、その差が明示されたからこそクロマは最後に続投を認められる幸運を得られたと言えるだろう。

 

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クロマ「分かっていないな。できる限り人の力で生きていたい、それが私というものだと!」
地図子「最低だ……」

 

「悪の総帥」には条件がある。偉いこと? 無法を働けること? 違う。ルールの中でも己を捨てることなく、他ならぬ自分のために動けるものこそ悪の総帥なのである。

 

感想

以上、アクロトリップのアニメ6話レビューでした。今回はシンプルにアバンから読んでいった次第です。クロマだけでは上手く動けないところをフォローしてあげて、地図子は地図子でちゃんと参謀の仕事してるな……
ルール破りのルールを描いた2話や地図子が主人公になる4話とも重ねられるし、自然な感じで爪痕が残っていく作品なのが感じられて良かったです。ヒューも世界観が違いながら違い過ぎない塩梅が面白かった。少しずつ内実が見えてくる本作の世界、次回はどんなことが明らかになるんでしょうね。

 

dwa.hatenablog.com

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この場面、地図子がカメラ目線だった時の向きのままになってるのに笑ってしまいました。遊び心という感じ。

 

 

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