ズレてるくらいがちょうどいい――「アクロトリップ」7話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

言行不一致の「アクロトリップ」。7話ではマシロウとクロマの過去が明かされる。人間、ちょっとズレてるくらいがちょうどいい。

 

 

アクロトリップ 第7話「眞嶋くんと玄実くん」

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1.ズレてる二人

幼少時に悪の総帥を志した少年・眞嶋と、彼との出会いがきっかけで悪の総帥を目指すようになった同級生の玄実。二人はズレた関係ながら共に成長し、北信越期待の企業である大溝テクニカに就職した。奇妙な友情はこの先も続くかと思われたが……

 

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

クロマ「野良猫にやられたか……ククク」
マシロウ「あぁ!?」

 

乖離する「アクロトリップ」。7話は魔法少女ベリーブロッサムのマスコット的存在のマシロウ、そして悪の組織フォッサマグナの総帥クロマの過去が明かされる回だ。二人は本名はそれぞれ眞嶋、玄実といい、学生時代から縁のある仲であった。自分こそが一番と自負し幼少時は悪の総帥になろうと夢見ていた眞嶋、眞嶋の話を聞いて成長後も悪の総帥になりたいと願う玄実……誤解から二人が入社した北信越の新興企業・大溝テクニカは実は本当に悪の組織フォッサマグナの本部であり、最終的には眞嶋は今のマスコットじみた姿になって失踪、玄実は総帥クロマとなる。7話は現在と過去のズレを修正する話である、とも言えるだろう。だがその一方、この過去回はズレがもたらす幸せもまた多数描いている。

 

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例えば眞嶋は悪の総帥になろうとしたのはあくまで幼少の頃だけだが、成長してもその実在を信じ成績優秀な玄実への対抗意識から彼と行動を共にすることとなった。玄実にとっても眞嶋は同じ夢を追うライバルであり、誤解=ズレが二人を切磋琢磨させたことは想像に難くない。また二人は試験日に人助けで遅刻するも助けた相手が大溝テクニカの社長・大溝芭隆だった縁から入社が決まるが、これなども入社を第一に考えた行動からのズレが結果的にプラスに働いた例に挙げられるだろう。ズレているから幸せを掴めたのだ。

 

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ズレていることは不幸を呼ぶとは限らない。玄実は眞嶋が抱いている敵意に全く気づかず、また眞嶋の方も玄実に振り回されながらもなんだかんだ息が合っておりズレた二人はいいコンビだった。だが、そんな二人の関係は総帥を1人選ぶための勝負で――現在とのズレを修正する出来事で決定的に変わることとなる。

 

2.ズレてるくらいがちょうどいい

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

眞嶋と玄実の優秀さを評価し、勝負に勝った方にフォッサマグナの総帥を任せることを決めた大溝社長。その競技種目とはビーチフラッグ……という名の旗探しであった。勝負は直前に社長からもらった「不思議な力」を活用して眞嶋は優位に立つも、最終的には玄実に助けられそれによって彼が先にフラッグに触る結果に終わる。負けたとはいえ全力の勝負の結果に眞嶋はどこか満足げですらあったが、彼の心は直後に憤怒に染まった。なんと玄実が勝負を棄権するというのだ。

 

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眞嶋「はぁ!? 勝負に勝って何抜かしてやがんだてめえ! ふざけんな!」

 

玄実は言う。自分は勝つためではなく眞嶋を助けるため旗を取った。立派だがこれは悪の総帥ではない、自分にはまだそんな器量はないから棄権したい……と。
彼の発言は全く正しい。玄実は悪の総帥を目指しているがむしろ人よりずっと純粋で善良で、実態として悪から程遠い人間だ。それを顧みるなら棄権することに間違いはない。ズレはない。けれど一方でそれは、いつしか玄実との競争自体が幸せになっていた眞嶋にとってはただの侮辱だ。全くもってズレきった行動だ。玄実の純粋さ善良さから出たその態度は、ズレていないが故にあまりにも邪悪・・な行為でしかなかったのである。眞嶋は怒りのあまり「不思議な力」が暴走して玄実を傷つけた結果ペナルティでマスコットのような姿に変わり失踪、傷を負った玄実は代わって総帥に就任……これがマシロウが今の姿に変わりクロマの顔に傷跡が残っている理由、互いを傷つけた彼らの受けたペナルティ=罰の理由であった。ズレなかったばかりに、二人は大切な友人を失うこととなったのだ。

 

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佳寿「マシロウ、マシロウ! ……よかった、子猫も無事だよ!」

 

時は流れ、マシロウは今は魔法少女ベリーブロッサムの付き添いをしている。かつての玄実に負けないほど、いやそれ以上に善性だけで生きているかのようなベリーブロッサム=乃苺佳寿の行動はいつだってトンチンカンだ。野良猫に襲われないためのアピールとしてマシロウに謎の紐を飾り付けたりとズレていること甚だしい。だがマシロウは「オレは飼われ猫じゃない」と言いつつもそんな彼女を拒絶せず、トンチンカンなままでいてくれと言う。ズレたままでいてくれと言う。それは魔法少女の付き添いになった彼が復讐以上に人助け(今回劇中でしているのは猫助けだが)をしているように、ズレがかえって幸せをもたらすことを身を以て知っているからなのだろう。ズレないことは時に不幸を呼ぶと、心に古傷が刻まれているからなのだろう。

 

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

人の成長は己の言動と行動を問い直すところに、不一致を顧みるところにある。けれどそれと同時に、私達はいつだって言葉で自分を正確に表せない。言動と行動が一致することはない。でもそれくらいの方が――ちょっとズレているくらいが、本当は一番ちょうどいいのだ。

 

感想

以上、アクロトリップの7話レビューでした。地図子の出番ないの!?と最初はずっこけたのですが、見ていくと私が最近感じることにドンピシャで泣きそうになってしまいました。私達がやることはどこまで行っても偽善で、けれどその善と偽善のズレこそが本当は大切なんじゃないか。「現実」に基づいて簡単に優先順位をつけて開き直って、ズレがなくなったつもりになる方がかえって危ういのじゃないか。そんな風に思うのです。これもきっと、私の考えをちゃんと言い表せてはいないと思うのですが。
いつもと違ったトーンがしかし、かえって本作に合っていると感じられた回でした。次回が、この物語で地図子がこれから見せてくれるものが楽しみです。

 

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会 「アクロトリップ」第1話より

ところでこの人ヒューさんだったの!? 1話で平和そうに寝てたあの人が!?

 

 

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