指し示す「来世は他人がいい」。7話アバンでは吉乃が霧島に手製のキーホルダーをくれてやる。彼女は霧島にとって真実への鍵だ。
来世は他人がいい 第7話「無関心ならいっそ嫌われたほうがいい 後編」
1.井の中の蛙
霧島と吉乃が2人で歩いているのを見かけ、思わず追いかけてしまった菜緒。大学の見学に訪れていた吉乃から間違って声をかけられた彼女は、相手のあけすけさに呆れるばかり。霧島の女の趣味が変わったのだろうかなどと考えていると、元交際相手の小津が菜緒を脅迫してきて……
小津「お前、あいつに売られたんだよ。まあ今更後悔してもどうにもならないから、よろしく頼むよ?」
溺れる「来世は他人がいい」。7話は霧島の元カノである汐田菜緒が虚実の泥沼に沈んでいく話だ。彼女は芸能人絡みの事件で元カレの小津が利用されていると考えていたが実際は彼は利用する側であり、更には菜緒に言うことをきかせようと(霧島を指定の場所に連れてこさせようと)脅しをかけてくる。ヤクザの孫である霧島との交際、海外留学していた時期のマリファナ使用……これらの脅迫ネタはどうやら事実のようだが、その場にいたなら「やった」ことにできるという小津にはそもそも事実かどうか自体が意味がないのが厄介な点だ。しかも脅されて会いに行った、自分を売ったらしい霧島に言わせれば小津の話すら事実ではなく、彼の真の狙いは霧島よりも菜緒を自分に便利な犬にすることにあるという。たて続けにそんな話を聞かされればもはや何を信じていいか分からなくもなろうというものだが、彼女自身も霧島とかつて交際したのは人脈づくりと一種の暴力装置を得るためだったのだからあまり人のことは言えない。利用するつもりで利用される、底なしの泥沼に菜緒はもう足を踏み入れてしまっている。
菜緒程度の世渡り上手は井の中の蛙に過ぎず、小津や霧島といったよりどす黒くえげつない連中の前ではあまりに無力だ。しかしその一方でこの7話は、この虚実の泥沼を闊歩するもう一人の女性を映してもいる。そう、誰あろう主人公たる吉乃である。
2.真実への鍵
吉乃「えぇ!? ほんとに霧島の知り合い……?」
菜緒「ええ、まあ少しだけ……」
菜緒(そんなあっさり名前出す? 相当バカ?)
菜緒と吉乃。共に霧島と縁を持つ2人だが、そのあり方は対照的だ。表向きは愛想よく、しかし腹の中では利用し合う芸能絡みの世界を生きてきた菜緒が慎重に言葉を選んでいるのに対し、吉乃の言葉はあまりにもあけすけで不用心にすら思えるほど。今回初めて吉乃と会った菜緒は、彼女のことを「見た目は派手だけど中身からっぽっていう感じだったし」と断じている。地図を読むのは苦手と偽る彼女に対し吉乃が本当に方向音痴なのは、両者の世渡りの上手の程度の現れでもあるのだろう。
けれどその一方、吉乃は小細工を否定しない一方で常に1つのものを見据え続けている。縁談を断るつもりであっても霧島のことを知ろうとはして水族館デート(?)に連れて行ったり、菜緒と霧島の発言から2人が交際していたと見抜く彼女が見据え続けているもの――いささか気恥ずかしい表現になるが、それを形容するのに「真実」ほどふさわしい言葉はおそらくない。
吉乃は対峙する相手に真実を求め、同時に相手に対し真実自分であろうとする。水族館でカメラを向いていない霧島を撮影しようと試みるのも好きな食べ物を今更聞いたり教えたりするのも、相手と自分の両方に真実を求めるが故なのだ。だから「あんたって嘘はつかないけど本当のことも言わないのよね」という霧島への評価はかなり致命的なものだったし、霧島もとっさに彼女の手を掴んで真剣に何かを伝えようとしたのだろう。けれど残念ながらその時かかってきた電話によって、菜緒からの電話によって霧島の表情はいつもの笑顔に戻ってしまった。何を考えているのか分からない、真実の見えない顔に戻ってしまった。
霧島「ハメる相手がクズだと罪悪感もわかないだろう?」
小津の企みを見抜いていた霧島は先述のように菜緒に自分の置かれている状況を教え、誘導指示を受けた場所へ案内させようとする。小津は背後にいる何者かに使われ菜緒もまた小津に使われていると霧島は指摘するが、彼女を使っているのは間接的に小津に情報提供したり吉乃と遭遇するよう仕向けた霧島も同様だ。虚実の泥沼には本当に底がない。……だが、全てをてのひらの上で転がしているような霧島のその手から真実はスルリとこぼれ落ちていた。彼は吉乃のスマホのコピー機で彼女の状況を把握しているつもりでいたが、タブレットに送られる連絡は見落とし吉乃が先回りして小津のところへ向かっていることに気付かなかったのだ。「嘘をつかないけど本当のことも言わない」のはスマホのコピー機も同様であり、虚実を使い分けているつもりの霧島は真実一辺倒の吉乃に見事騙されてしまったのだった。
「そんなところで何してるの?」……吉乃からかかってきた電話への霧島の言葉にはいつもの軽やかさがない。軽薄さがない、と言ってもいいだろう。彼は焦っている。出し抜かれたことで吉乃が危地に飛び込もうとしているこの状況に焦っている。そこにこの何を考えているのか分からない、貼り付けたような笑顔で相手の求める言葉を口にする男の真実がある。彼がそうなるのはきっと、吉乃が相手の時だけだ。
この7話冒頭、吉乃は新しく作ったキーホルダーを霧島に贈った。彼女の存在はまさしく鍵だ。深山霧島という謎めいた男の真実への扉を開く鍵なのである。
感想
以上、来世は他人がいいのアニメ8話レビューでした。だんだん事態のあらましが見えてきました。化粧が自分を偽るためでなく戦支度になってるのマジ吉乃という気がします。さてさていったいどうやって居場所を掴みまた何をするつもりなのか。次回は大暴れになりそうですね。
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— 闇鍋はにわ (@livewire891) November 19, 2024
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