悪のある暮らし――「アクロトリップ」8話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

共同生活の「アクロトリップ」。8話では地図子とクロマたちの日々が描かれる。悪とのひとつ屋根の下ライフは豊かな暮らしである。

 

 

アクロトリップ 第8話「いちゃもん悶々」

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1.悪とのひとつ屋根の下ライフとは

学校から三者面談のお知らせが来たものの、折悪しく祖父が不在の地図子にはクロマが同席することに。面談の相手の先生はなんと、離婚した地図子の父親で……!?

 

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波乱万丈「アクロトリップ」。8話は色々なことが起きる回だ。主人公の地図子の離婚した父が担任教師であることや心亜という少女の登場、ベリーブロッサムとの握手会など盛りだくさん。「悪とのひとつ屋根の下ライフも不本意ながら板についてきた今日このごろ」と地図子が言うように、悪の組織フォッサマグナ総統・クロマがいる日常が描かれているのだが――果たして「悪との一つ屋根の下ライフ」とはクロマのことだけを指しているのだろうか?

 

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クロマ「伊達地図子よ、まあまあ似てるな?」
地図子「うん……似てた」

 

例えば冒頭登場する地図子の担任教師・余湖正宗は当初すさまじい威圧感から彼女やクロマを近づけないところがあった。しかし話してみれば彼はなんとクロマの大ファンであり、娘に勝るとも劣らない熱中ぶりは彼が父だと最近知って困惑していた地図子から恐怖を取り除くことには成功した。教師らしからぬ隙の多い言動、いらんこと言いを始めとした「悪」がわずかながら距離を縮めたのである。

 

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心亜「わたくし心亜と申しますの。以後お見知りおきを」

 

また今回は心亜という少女も姿を現す(一応1話でもモールで映ってはいたが)が、彼女は魔力契約のカードや地図子の祖父をお土産の菓子を盗むなど手癖の「悪」さを見せている。けれどそんなふうに暴れるのは忙しい父に構ってもらえない寂しさからでもあるようで、そうなら彼女の「悪」は心のはけ口になっているとも言える。

 

「悪」はクロマの存在だけを指すとは限らない。様々な人間の中にひとつ屋根の下・・・・・・・のように悪が同居しているのがこの8話なのだ。

 

2.悪のある暮らし

悪はクロマのことだけを指すとは限らない。けれどその一方、クロマの存在はけして薄くはない。その顕著な例は心亜だろう。

 

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心亜「お、お礼なんて言いませんわよ」
クロマ「はて? 当然だろう、私は悪事を働いただけだ」

 

先述したように、心亜は当初人の物を盗んだりフォッサマグナ基地を乗っ取ろうとするなどクロマ以上に悪事を働く勢いであった。しかし魔力契約のカードを行使するなら容赦しないと怖い顔を見せたり、後日大切なぬいぐるみを取り返してくれた際も悪事を働いただけと語り恩に着せない彼を見る心亜の目は少しずつ変わっていく。クロマがベリーブロッサムにやられる姿を見れば悪態をつくが、側近の月にご満悦と言われた時の彼女の笑顔は今までとは違った充実を感じさせるものだ。ファンとしては先輩にあたる正宗のようにクロマを見て滂沱したりはしないが、照れ隠し程度の「悪」ならかわいいものだろう。今回クロマは、心亜に適度な悪の分量を教えてやったようなものとも見ることができる。

 

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正宗「悪の総帥と正義の味方……少し自分に重ねてあなたを応援していたんですよ」

 

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心亜「ふん、なんというていたらくですの」
月「ご満悦ですね、心亜様」

 

クロマは悪の総帥だ。悪を統べる者――導く者だ。ならば彼が見せつけるべきは悪の強さより悪の何たるかであり、正宗や心亜はベリーブロッサムにやられてばかりの彼から多くを学んでいる。これは地図子相手でも同様で、クロマは握手会が盛り上がらなくてベリーブロッサムが落ち込むのは嫌だという彼女の気持ちを否定しない。エゴだとしても誰かを大切に思える気持ちを否定しない。そこにあるのは本作の世界を象徴するような不思議な温かさだ。握手できなかった悲しみにも寄り添う彼は、屋根がない河川敷でも間違いなく地図子とひとつ屋根の下にいる。

 

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クロマ「落ち込むな。私がしてやろうか、握手?」
地図子「いらんもん!……帰る」

 

悪のある暮らしは豊かだ。ひとつまみのそれは、私たちが生きるための潤いや潤滑油のようなものなのである。

 

感想

以上、アクロトリップのアニメ8話レビューでした。すいません数年ぶりに風邪をひきました。新型コロナではないとのことなので静養します……体調もあってどうしたら30分を貫くものを見つけられるのか悩みましたが、アバンの地図子の言葉やラストシーンに漂うなんとも言えない優しさを合わせるとこのあたりかなあ、と。登場人物が多い回ですがどのキャラも演技が面白くて(レビュー本文で触れた正宗や心亜はもちろんのこと、心亜がぬいぐるみをなくしたのを地図子達に伝える時の月の口ぶりに笑ってしまいました)、これはスタッフ側のディレクションが上手いということなんでしょうかね。


ここ3話クロマが主役を食ってるような状態ですが、次回の副題からするとPV2のアレがついに登場するんでしょうか。地図子の活躍に期待したいです。

 

 

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