一つになる「ラブライブ!スーパースター!!」。3期8話は簡単なようで難しい。「結ヶ丘 VS 結ヶ丘」とはLiella!とトマカノーテのことではない。
ラブライブ!スーパースター!! 3期第8話「結ヶ丘 VS 結ヶ丘」
1.現実よりも難しいフィクション
Liella!とトマカノーテ、どちらがラブライブ!に出場するか文化祭ライブで対決することを選択したかのんたち。しかし結ヶ丘の生徒はどちらかを選ぶのに大きな抵抗を示し、学園祭ライブは1つの曲を両グループで歌い分けることとなった。新曲づくりは下級生たちに任せられたものの、夏美と冬毬の姉妹はギクシャクしてしまって……?
意思を示す「ラブライブ!スーパースター!!」。3期8話「結ヶ丘 VS 結ヶ丘」はついにLiella!とトマカノーテが1つになるが、展開への驚きには乏しい回だ。2つのスクールアイドルグループの切磋琢磨が描かれてきた3期ではあるが、両者がいずれ一緒になるのはOPや1話でかのんが示したビジョンからも明らかだった。心情面でも前回の時点で両グループのメンバーは一緒の11人になりたいと考えるようになっており、1校に1つのラブライブ!出場枠を巡っての今回の文化祭ライブ対決も儀礼的な色合いが否めない。おそらく、少なからぬ人は今回の話を茶番と受け止めたのではないだろうか?……ただ、実は8話時点でのかのんたちは1つの大きな壁にぶつかっている。解決なしには1つのグループになれない、重要な問題を彼女たちは抱えている。
マルガレーテ「わたしたちは、勝つ」
千砂都「……負けないよ」
Liella!とトマカノーテがぶつかっている大きな問題、それはどちらも「勝てない」し「負けられない」ことだ。フィクション(物語)において勝敗とは実力以上にそれを構成するドラマによって決まるもので、それがなければ視聴者は結果に納得することができない。例えば、本作同様に花田十輝が脚本を務めたアニメ「響け!ユーフォニアム3」を見た人なら吹奏楽部のオーディションにおける勝敗に大きなドラマがあったのは記憶に新しいところだろう。作風が大きく異なるとはいえ、Liella!とトマカノーテに果たして相手を上回るだけの理由があっただろうか? 無い。そう、三角関係のようで片方を選ぶよう布石が打たれている恋愛漫画のようなこともなく、両者の背負ったドラマには全く差がない。大黒柱だったかのん抜きでの新しい自分たちを模索し続けたLiella!、そしてバラバラの状態から1つのチームになっていくトマカノーテのドラマは全く伯仲しており、どちらにも勝利や敗北に値する理由が存在しないのである*1。
かのん「わたしたちは、勝ったら『11人でラブライブ!に出たい』って言うつもりだった!」
千砂都「あっ、一緒だ!」
すみれ「わたしたちもよ!」
かのん「ほんと!?」
ラストで明かされるように両グループは自分たちが勝ったら11人でラブライブ!に出ようと考えていたのだが、逆に言えば勝たなければ一緒にはなれない。勝てる理由がないのなら、願いが一緒であってもこれは達成不能な条件設定だ。ありえないことを起こせるフィクションは現実よりも楽だと思われがちだが、フィクションだからこそかえって強大な困難にぶつかっているのが3期8話の実情なのである。これをひっくり返すには、フィクションらしくもう一つのありえない存在を物語にぶつけなければならない。Liella!ともトマカノーテとも違う結ヶ丘を、3つ目の「結ヶ丘」を呼び出さなければ事態は打開できない。
2.3つ目の結ヶ丘
Liella!もトマカノーテも勝てない、負けられない八方塞がりを覆すには、それとは違う3つ目の「結ヶ丘」がいる。「何をバカなこと言ってるんだ、結ヶ丘のスクールアイドルグループは2つだけだろ?」と思われた方もいるだろうが、ここで少し考えてみてほしい。「結ヶ丘」が指すのはLiella!だけだろうか? トマカノーテだけだろうか? 否、そうではあるまい。「結ヶ丘」とは言うまでもなく結ヶ丘女子高等学校のことであり、スクールアイドルはあくまでラブライブ!における代表でしかない。この学校に籍を置いている人間は全員がかのん達と同じ存在のはずだ。……そう、「結ヶ丘」、すなわち3つ目の「結ヶ丘」である。
ヤエ「みんなに署名してもらったんだ。わたしたち、やっぱり11人のLiella!が見たい! 学校のみんなも気持ちは同じだった、だから『Liella!は敵』はもうおしまい!」
Liella!とトマカノーテ以外の「結ヶ丘」、在校生という3つ目の「結ヶ丘」。スポットライトこそ浴びないが、その存在が果たした役割は大きい。文化祭ライブで両グループが1つの曲を分けて歌う形式になったのは在校生が別の曲での勝負に抵抗を示したためだし、そのための新曲作りは別グループに分かれた鬼塚姉妹のしこりを取り除いたり2年生と1年生が協力するきっかけにもなった。在校生たちが課題を示すことでかのんたちは今回いっそうの成長を遂げているのだ。そして、何より大きいのは在校生たちが署名で一つの意思を示したことだろう。
在校生たちはかのんたちに言われたままどちらのライブが優れているか選ぶのではなく、署名によってそれとは違う結論を下した。「どちらか片方ではなく、11人になって一緒にラブライブ!に出てほしい」、そう主張した。上海で11人が行ったライブを見た彼女たちは、けしてどちらがいいか選べなかったわけではない。また一緒に歌ってほしいと第3の道を積極的に選択し、勝敗そのものを無効化してしまったのだ。そう、勝利に値する理由を持たず目的地にたどり着けなくなっていたかのんたちは、3つ目の「結ヶ丘」に条件設定を破壊されたおかげでようやく11人になれたのだった。
繰り返しになるが、この3期8話の副題は「結ヶ丘 VS 結ヶ丘」である。これは一見Liella!とトマカノーテの対決を示しているようだが、勝ちたい思いも11人になりたい気持ちも同じ両グループは実際は既に1つの「結ヶ丘」になっている。そんな彼女たちと今回本当に競い合ったのは11人以外の生徒たちだ。11人に熱狂し、彼女たちに11人であってほしいと願った結ヶ丘の生徒たちだ。そこにこそ今回の切磋琢磨は潜んでいる。
結ヶ丘女子高等学校スクールアイドルLiella!とそれ以外の生徒たち、3つ目の結ヶ丘の対決こそは「結ヶ丘 VS 結ヶ丘」の正体だったのである。
感想
以上、スパスタ3期8話のレビューでした。この予定調和な展開にいったいどんな「流れ」があるのか? 初見時は首を傾げながらもどこか腕がなるような気分もありまして。対決してるのはLiella!とトマカノーテとは限らない、と考えるとシンプルな答えを自分なりに出すことができました。この結論を生徒たちが出すために上海での一足早い11人でのライブがあったんですね、あれを見た後で片方だった時の方がいいとなる人はそりゃ少ないだろうなと思います。これも「自分たちだけでは自分たちでいられない」の一つの形か。
さてさて、次回は再びマルガレーテが中心になるんでしょうか。11人体制で彼女はどんな表情を見せるようになっていくんでしょうね。
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3つ目の結ヶ丘――「ラブライブ!スーパースター!!」3期8話レビュー&感想https://t.co/p0zOozc1wp
— 闇鍋はにわ (@livewire891) November 24, 2024
ブログ更新。「結ヶ丘 VS 結ヶ丘」はLiella!とトマカノーテの事ではない、という話。茶番回だと思ったそこのあなたにおすすめだ!#lovelive #Liella#ラブライブスーパースター#スパスタ#スパスタ3期
*1:仮に両グループが異なる曲を歌って対決した場合、負けたグループの曲の方が良かったと感じる視聴者が相当数発生していたことだろう