連鎖する参謀――「アクロトリップ」9話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

つながる「アクロトリップ」。9話では参謀の何たるかが問われる。人と人の関係とは、連鎖する参謀のようなものだ。

 

 

アクロトリップ 第9話「ワナビーイケてる悪」

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1.1人ではままならない予定

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クロマに朝4時に起こしてほしいと頼まれ、地図子は彼と祖父と川の字で寝ることに。どうやらベリーブロッサムの方がその時間しか空いていないらしい。法螺貝で起こし現場へ連れて行くなど「参謀力」で自分は祖父に負けているのではないかと考える地図子だったが……?

 

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クロマ「だめだぁ! 今日戦わないと次から戦ってもらえないかもしれない」

 

謀に参与する「アクロトリップ」。9話は人と人の関係のままならなさが描かれる回だ。冒頭、主人公である地図子は悪の総帥クロマに朝4時に起こしてくれと頼まれるが、これは魔法少女ベリーブロッサムの予定が立て込んでいて引くにひけず空いてる時間を予約したもの。彼にとって悪事を働くのは正義の味方と戦う口実であるから、逆に言えばベリーブロッサムがいなければ悪事の予定もままならないのだ。対するベリーブロッサムの方もこれは同様で、別の日の戦いでクロマが姿を隠せば再登場まで彼女は待ちぼうけを食わねばならない。「お約束」の世界ここに極まれりといった感じだが、大なり小なり似たような経験をした人は多いのではないだろうか。

 

私たち1人1人は別の人間だが、にも関わらずその行動は他人に大きく左右される。ままならないし不便なものだが――それは否定されるべきことだろうか?

 

2.連鎖する参謀

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クロマ「そのまさかだ! 初陣だぞ伊達地図子、いや参謀ダンテよ!」

 

別々の人間の行動がしかし、他人の影響を免れない。その最たるは今回のビッグイベント、地図子の新衣装姿であろう。PVにも登場していたフォッサマグナ参謀ダンテとしての装いが見られるのを私は心待ちにしていたのだが、その経緯は予想とは大きく違ったものだった。地図子がこの服に身を包んだのはいつも一緒にいるクマ怪人に家出されたクロマが捜索に向かう間の代役を務めてもらうため……ベリーブロッサムとの戦いにおける一大作戦で登場といった派手なものではなく、他人の事情の影響そのものだったからだ。

 

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正宗「そっくりなので分かんないんですよね……」

 

自分がベリーブロッサムと直接対決する。認知され会話して攻撃される……ベリーブロッサムの熱烈なファンである地図子は緊張と興奮を抑えられなかったが、戦いの舞台である公園へ向かう途中で彼女は一つの壁にぶつかってしまう。父にしてクロマのファンである正宗からは、変身した彼女はベリーブロッサムと同じ「魔法少女」にしか見えなかったのだ。
自分が魔法少女! ベリーブロッサムを神聖視する地図子にとってこれが一種の冒涜だったのは言うまでもないが、雑なくくりとはいえ正宗が地図子の格好をそう解釈したのも無理もない話ではある。衣装自体は縫製されたものだが彼女は魔力で変身しているし、その手にあるのは業務用ながら魔法のステッキ。悪の組織フォッサマグナの参謀とはいうが、近くに誰もいない状況では確かに彼女は魔法少女の一種にしか見えない。そう、クロマがおらず1人だけでは、他人の影響がない状態では地図子は参謀ダンテたり得なかった。

 

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マシロウ「なんだかわかんねえけど……」
ベリーブロッサム「いつもの調子の悪の総帥だわ!」

 

1人1人は別々の人間にも関わらず、私たちは他人の影響を大きく受ける。しかし逆に言えば、他人の影響を受けない時の私たちは必ずしも最良の状態、望ましい自分であるとは限らない。魔法少女視されたショックで魔力を暴走させてしまった地図子を止めに現れたクロマは実に総帥らしかったし、自分を助けるため消耗して魔力が「シャバシャバ」になってしまった彼を体を張って激励する地図子の姿もまた参謀然としたものだった。そして更に注目すべきは、威厳を取り戻したクロマの攻撃はベリーブロッサムの方にもプラスに働いた点だ。風を巻き起こす新技まで披露した今回の彼女もまた、間違いなく輝いていた――そう、ベリーブロッサムに輝いてほしいという地図子の願いは、彼女自身ではなくクロマを介して叶っていたのだ。

 

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クマ怪人「地図子と一緒にいるようになってから、昔のコイツみたいだと思うことが増えた」

 

私たち1人1人は他人に大きく影響される存在である。そしてその影響はしばしば間接的だ。クマ怪人は地図子と一緒にいるようになってからクロマが以前の彼に戻ってきたように感じているし、ベリーブロッサムは自分が地図子に与えた影響の大きさを知らない。直接触れ合って得るものはもちろん大きいが、私たちが受ける影響はこうした迂遠な形の方が――参謀程度の関わりの方がよほど多いものなのかもしれない。

 

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地図子「ううー! なんでこんな身内の参謀力高いの!?」

 

人のつながりとは間接的なつながりの連鎖である。そういう意味で、私たちはみな誰かの参謀役のようなものなのだ。

 

感想

以上、アクロトリップのアニメ9話レビューでした。「人は1人で生きられない」みたいな話だと思うのですが、それを一言にするのに参謀が使えるかな……ということでこんな記事名になった次第です。PVでの地図子とベリーブロッサムが対峙する場面が妄想だったのは笑いましたが、新衣装の経緯も含めて実にこの作品らしい。残り3話大事に見ていきたい……いやもう3話しかないんですか?

 

 

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