隠れられない女――「来世は他人がいい」9話レビュー&感想

©小西明日翔講談社/来世は他人がいい製作委員会

明らかなる「来世は他人がいい」。9話は夜闇の暗闘が描かれる。しかしそれにも関わらず、染井吉乃は隠れない。

 

 

来世は他人がいい 第9話「本音を言えば結婚したい 中編」

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1.霧島が隠したいもの

時間までに半グレたちを片付けられるか吉乃と賭けをすることにした霧島は、人波を利用し巧みに敵を始末していく。一方、小津が恐れる謎の男・薊の正体は……?

 

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霧島「分かってねえのはお前らだろうが、ガタガタ言ってないでさっさと来いや。こっちは雑魚に割く時間なんかねえんだよ」

 

瞳きらめく「来世は他人がいい」。9話は霧島が大人数相手に大立ち回りを繰り広げる回だ。花火からの帰宅ラッシュと暗がりに紛れて半グレたちを気絶させていく手際の良さには思わず見とれてしまうが、さらに面白いのは残った連中への挑発もしているところだろう。捕えた半グレを脅してかけた電話では一言一言が相手を苛立たせており、にこやかな語り口もあって半グレたちは怒髪天を衝かんばかりの怒りようだ。

 

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霧島が半グレを挑発する理由。それはおそらく、相手の虚を突きやすくするためだけではない。彼が何より恐れているのは吉乃が危険に巻き込まれることであり、今回の冒頭でも目立たないようにしてほしいと彼女に念を押しているほどだ。だから半グレを挑発するのは一番には相手の注意を自分に向ける目的があり、霧島は人目にはつかないようにしつつ敵の注意を引きつける相反する課題をこなしていると言えるだろう。途中で電源供給車に細工して停電を誘うのも、根底にあるのは吉乃を隠したい思いからなのだ。……しかし、残念ながら吉乃はそんなタマではない。

 

2.隠れられない女

霧島は何よりもまず吉乃を隠したくて、だから停電を起こしもすれば闇に紛れもする。しかし吉乃は隠れない。

 

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吉乃「ああ~、もしかしてわざわざ大阪まで入院しに来たんか。懲りん男やなお前も」

 

染井吉乃という女の恐ろしさは、今更言うまでもないがそのクソ度胸の座りっぷりである。目立つつもりがなくとも小津を見かければ尾行に回るし、そのためにスカートを破くのにも躊躇が無い。素人離れした外見やヤクザの組長の孫娘という立場に留まらず、何よりもその魂が人の目を引かずにおられないのだ。だから彼女は尾行した先であっさり半グレに気配に気付かれるし、逃げ出す絶好の機会だったはずの停電の際もまずは木の枝で相手に一撃くらわせようとする。

 

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吉乃には腕力はない。木の枝で殴打しても半グレの意識を奪うには至らず、逆に歯が取れるほどのパンチをもらったりする。けれど一方で彼女は闘志を失わない。相手をまこうとすることはあっても自分から売ったケンカで交番に駆け込むのをよしとはせず、あまつさえレンタルした自転車ごと飛び降りて相手にぶつかりさえする。その戦いぶりは場慣れした霧島の喧嘩と比べてもいささかも引けとることなくエキサイティングでーーすなわち「隠れて」いない。深山霧島というビッグネームであっても吉乃を隠すことはできないのだ。それを象徴するように、事件の黒幕である謎の男・周防薊の目的は霧島ではなく彼女の方にあった。何が狙いで吉乃を探していたのかはいまだ謎のままだが、それがなんであれ彼女は身を隠したりすることはないだろう。

 

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吉乃「小津くん大丈夫? さっきの続きや、飲み直しながらゆっくり話そか」

 

染井吉乃は隠れられない女である。名は体を表すという言葉の通り、いかなる時も桜のごとくその存在は明らかなのだ。

 

感想

以上、来世は他人がいいのアニメ9話レビューでした。よくやるなこの女(ひと)……! ラストの爛々と光る吉乃の目に正直、自分が小津くんなら小便チビってるなと思いました。さてさて、次回の後編で関西での出来事に一区切り着いて、残り2話で今後について広げつつまとめる感じになるんでしょうか。いやーどんどんろくでもないことになっていきそうです。

 

 

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