混じり合う白と黒――「来世は他人がいい」10話レビュー&感想

©小西明日翔講談社/来世は他人がいい製作委員会

本気が見える「来世は他人がいい」。10話では吉乃と霧島が新たな関係に踏み出す。それはいわば混ざり合う白と黒である。

 

 

来世は他人がいい 第10話「本音を言えば結婚したい 後編」

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1.虚実と破局

チンピラを片付け、小津を事実上捕えることに成功した吉乃と霧島。小津は自分は犯罪に手を染めていないと言葉巧みに言い逃れようとするが……

 

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小津「てめえ……!」
霧島「なぜ怒るんですか? あなたがいつも女を使ってやってることじゃないですか。俺はあなたと同じことをそのままお母様にしただけですよ」

 

決着の「来世は他人がいい」。10話は吉乃と霧島、霧島の元カノである汐田菜緒、そして菜緒と交際経験のある小津健人の4人が中心となっているが、最初に描かれるのは小津の敗北である。犯罪スレスレ=犯罪にならないギリギリのラインを見極めるのに長けた彼は吉乃と霧島を前にしても言い逃れできるつもりであったが、自分以上に狡猾な霧島や色んな意味で未成年離れした吉乃の前には全く無力。おまけに今後関わらないとしぶしぶ答えればその様子を言質として菜緒に撮影までされてしまった。

 

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菜緒「……わざと殴らせたでしょ」
霧島「あ、分かる?」

 

虚実とは泥沼である。あざといと陰口を叩かれながらも成功を掴んだつもりの菜緒は事実か否かに関わらずスキャンダルを騒ぎにできる=虚実をいいようにできると豪語する小津に今回利用されたが、そんな小津ですら更に上手の相手には手も足も出ないし格下に噛みつかれることだってある。また菜緒は今回の霧島のやり口を軽蔑して絶縁を宣告するが、他人どころか自分の信用すら意に介さないようなやり方を見れば彼の真実がどこにあるのか分からなくなってしまうのも無理もないことだろう。虚実を弄ぶ恋人たちが破局していくのがこの10話なのだ、と言えなくもないが――では、吉乃と霧島はどうだろうか?

 

 

2.混じり合う白と黒

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虚実を弄ぶ恋人たちは破局する。しかし吉乃と霧島はそうではない。少なくとも形の上では今回霧島は吉乃の彼氏になったし、吉乃も自分の言ったことを曲げてまでそれを無かったことにするのは不可能に思える。破局どころかカップルが成立しているわけだが、だからといって彼女たちの間に虚実が無いかと言えばそれは誤りだ。

 

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吉乃「……気づいてたの」

 

今回は吉乃が時には霧島以上に情報を掴んでいた理由が明かされる回でもあるが、言ってみればそれは嘘や卑怯な手口の連続であった。霧島が何をしているのか知るために尾行したり、小津が未成年の自分に飲酒を勧めるように年齢をぼかして接触したり、挙句の果てには霧島にあげたキーホルダーにはGPSが内蔵……尾行に使うのが軽トラだったりするあたりに根っこの部分での嘘のつけなさが現れているとも言えるが、吉乃の仕打ちは責められても文句の言えないところだろう。真実一辺倒と思えた吉乃の行動も、実のところは嘘にまみれていた。

 

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霧島「GPSだろうがなんだろうが、俺に興味持ってくれたんだ」

 

プレゼントとしてあげたキーホルダーが、実は自分の動向を掴むためのGPS。最低の裏切りとも言える吉乃の行為をしかし、霧島は怒らない。尾行やGPSに薄々気づいていながら、そして浮かれていたと自覚しながらも怒らない。なぜか? それはひとえに彼が吉乃に好意を抱いているためだ。好きな相手になら何をされてもいいからという話ではなく、彼は吉乃が自分に興味を持ってくれたのが嬉しかった。「無関心なくらいなら嫌われてる方がよっぽど恋人になれる可能性がある」……そう口にする時の霧島の表情は子どものように朗らかで嘘がない。そう、GPSが仕込まれていると知りながら捨てなかった事実で吉乃がようやく霧島の好意を信用したように、ここには真実があった。嘘を言わずとも本当のことは口にしない、何を考えているか分からない霧島にも真実はあった。この大阪での事件を通してあらわになったのは吉乃の嘘と霧島の真実――互いが互いにもたらした変化のなんたるかであった。

 

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吉乃「……あんた、本当に私のこと好きなのね」

 

吉乃と霧島の関係が示すもの。それは虚実が招くのは泥沼だけとは限らない事実だ。吉乃が嘘をついたのは霧島が言うように彼に一定の関心を抱いたためだし、一方吉乃が自分についてなにか言っていなかったか菜緒に聞く際の霧島の態度は彼女が一瞬当惑するほど子供っぽいもの。互いのことについて動く時、吉乃と霧島の行動には常の彼ららしからぬ色が混ざっていく――まるで2人の着ている白と黒の服がそうであるように、吉乃は嘘つきに、霧島は正直になっていくのだ。だからラスト、吉乃は運で勝負と言いながら確率を利用してじゃんけんに勝とうとして墓穴を掘るし、霧島は逆に何の裏もかかずに確率どおり最多のグーを連発して吉乃に勝ってしまう。形式としては勝負だが、この時2人は自分たちの相性の良さを確認し合っているとすら言ってもいいだろう。

 

©小西明日翔講談社/来世は他人がいい製作委員会

霧島「わーい! 俺吉乃の彼氏だ!」

 

虚実を弄ぶ恋人たちは破局する。しかし、泥沼のようにではなく入れ替わるように混じり合う時、そこにあるのが虚実いずれであるかは実はあまり意味がない。混じり合う白と黒であるからこそ、虚実の中でも吉乃と霧島は破局しないのである。

 

感想

以上、来世は他人がいいのアニメ10話レビューでした。翔真さんごめんなさいという感じの語りですが、出番と構図からは4人の話としてレビューを書くのが一番すっきりするように思いました。吉乃も霧島も二重人格かと言いたくなるくらい対照的な表情があって、それでいて1人の中に溶け込んでいる。その異なる表情を引き出せるのがお互いなのだろうなと思います。さてさて、最後に出てきた秋目の意図はアニメではどれくらい語られるんでしょう。残り2話でどう着地するのか楽しみです。

 

 

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