隣の悪――「アクロトリップ」11話レビュー&感想

(C) 佐和田米/集英社・「アクロトリップ」製作委員会

不確かな「アクロトリップ」。11話では第3の存在が正義と悪を揺さぶる。それはいわば隣の悪である。

 

 

アクロトリップ 第11話「ばったりストレンジャー

acrotrip-anime.com

1.揺らぐ正義と悪

土砂降りの雨の日、クロマのトラブルでベリーブロッサムとの戦いに1人先に行くことになってしまった地図子。雨を逃れようと公園の遊具の中に入ると、なんとそこにはベリーブロッサムがいて……!?

 

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クロマ「靴下買いにいったん戻る!」
地図子「た、戦いは!?」
クロマ「すぐ戻るからいい感じにやっといてくれ!」
地図子「ええー……」

 

誰と戦う「アクロトリップ」。11話は雨の中から始まる。悪の組織フォッサマグナ総帥クロマはブーツの中が雨でガポガポなのに耐えきれず一時離脱、戦いの約束をした公園に一人向かった地図子は魔法少女ベリーブロッサムと遊具の下で彼の到着を待つ……相変わらずなんとも言えないユルさ加減だが、面白いのはここでは正義と悪の定義が揺らいでいることだろう。

 

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ベリーブロッサム「どうぞ、コンポタよ」

 

クロマの到着を待つ間、地図子とベリーブロッサムは戦わない。彼やフォッサマグナに姿を変えられた過去を持つマシロウ(風に飛ばされないよう留守番中)がいなければ悪天候の中でまで戦う理由はないし、むしろ相手の体調を気遣ったりそのお礼に食べ物を振る舞うほどだ。地図子が無理やり参謀をやらされているのではとベリーブロッサムが考えるこの状況では、正義と悪の構図はほとんど消えかけているのである。平和な話ではあるが、それはギリギリの戦いで輝くベリーブロッサムを求める地図子の望むところではない。

 

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ベリーブロッサム「もー! なんなのよフォッサマグナってばー!」

 

戦いを続けるため、地図子はフォッサマグナの参謀ダンテとして嘘をつく。先ほどまでの態度は演技、上手く騙せたようでよかった……と。隣に立つ彼女が悪であれば、自然ベリーブロッサムは正義になる。しかしその一方、地図子が去って悪の総帥クロマが現れれば彼女がしたことはコーンポタージュとあんぱんをせしめた程度のさまつな悪事に過ぎない。奇妙な話だが、隣に立つ者が何者かによっても変わるのが正義と悪なのである。

 

2.隣の悪

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大溝社長「やっと見つけたよ。フォッサマグナの落ちこぼれ、裏切り者のマシロウくん?」

 

正義と悪は隣に立つ者によって変わる。これを顕著に示すもう1人の人物は大溝テクニカの社長にしてクロマの上役でもある大溝芭隆だろう。彼は地図子やベリーブロッサムの前に変人社長として姿を現すが、自分がダンテだとバレないか地図子が心配している時はフォッサマグナの総統としての一面を覗かせる。またマシロウは日頃はベリーブロッサムのマスコット的存在として認識されているが、大溝社長の前ではフォッサマグナの裏切り者だと――悪の組織に関わりのあった存在だと暴露されてしまう。

 

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地図子「あんな辛そうな表情で戦ってること、ないよ……」

 

大溝社長が誰かの隣に立つ時、既存の正義と悪の構図には大きな揺さぶりがかけられている。それはベリーブロッサムも例外ではなく、マシロウが突如姿を消したことで彼女は見る影もなく衰弱。いつものようにクロマ達を一蹴するどころか逆にかばわれる羽目になってしまった。これは物理的には魔法少女に変身する仕組みの問題なのだろうが、彼女からすればおそらくそれは大きな理由ではない。自分を魔法少女に、正義の味方にしてくれたマシロウが「(留守番ではなく)隣にいない」ことは彼女にとってアイデンティティの危機なのだ。彼が隣にいてくれなkれば、ベリーブロッサムは正義の味方たり得ない。

 

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地図子「望むところです。……これもお会計を」

 

地図子は行く。大切なベリーブロッサムを守るため、大溝社長を追いかけその「隣」に立つ。ボタン1つで人2頭身に変えてしまえる恐ろしい力を持った悪の総統を前にして一歩も引かないその姿が見せるのは、いつもの姿とはちょっと違った悪の姿だ。正義……と言ってもいいかもしれないが、より正確な表現を地図子は劇中で既に口にしている。そう、ベリーブロッサムにかっこよくいてもらいたいから彼女が目指すもの――「かっこいい悪」こそは今の彼女にふさわしい形容だろう。悪の定義とは何かと考えもした地図子だったが、答えは悩んでいたよりシンプルなところにあった。

 

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誰の隣にいるか、誰が隣にいるかで正義と悪は変わる。隣の悪と共にある時、人は輝きを増すものなのだ。

 

 

感想

以上、アクロトリップの11話レビューでした。正義と悪の定義が揺らぐ話ということかと思うのですが、ベリーブロッサムの「お隣どうぞ」からもうちょっと踏み込めるかなということでこんなレビューに。ベリーブロッサムにテンションの上がる地図子は堪能させつつも続きが気になる回でした。さてさて、来週はとうとう最終回。しっかり噛み締めなければ……

 

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地図子が去り際にポーズ決める場面PVで見たことあるけどこんなだったっけ?と思ったらそちらでは集中線が足されてました。悪過ぎるぞアクロトリップ!

 

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