装いの「来世は他人がいい」。11話冒頭では吉乃が祖父の蓮二から化粧について指摘される。今回は化粧とすっぴんの話である。
来世は他人がいい 第11話「成長したら飼えない獣」
1.ヤクザの世界は化粧まみれ
吉乃の父の墓参りを終え、彼女の祖父・蓮二たちのバーベキューに招かれた霧島。大叔父の萼と霧島の若い頃とのそっくりさなどで盛り上がる一同であったが、蓮二は一連の事件について何も知らなかったわけではないようで……?
化ける「来世は他人がいい」。11話は事件の後の騒動が描かれる回だ。霧島の元カノ・汐田菜緒を始めとした因縁が絡んだ騒ぎは謎を遺しつつもひとまず収束。吉乃は帰省の当初を目的の1つである墓参りを済ませ、染井組の皆とバーベキュー……吉乃の祖父である蓮二のバカ話もあり、緊張から解放されるような気分になった人は多いだろう。だが、すぐ明らかになるようにこれはかりそめの平穏に過ぎない。
蓮二「あくまで自分の問題や言い張るんやなお前」
霧島「……事実なので」
蓮二は地下室に霧島を呼び出し、前回何をしていたのか吐かせるために霧島に殴る蹴るの暴行を加える。壁には先に呼び出されていた吉乃の義兄・翔真の血痕もあり、蓮二が振っているゴルフクラブが叩くのはボールだけなのかという疑問すら湧いてくる。どんなに明るく気さくに見えても蓮二は桐ヶ谷組組直系染井組の組長――ヤクザなのだ。親しみやすい外面はいわば化粧に過ぎない。……しかし、今回の話が化粧を否定するばかりの話かと言えばそれも正しくはないだろう。霧島は蓮二に嘔吐するほど殴打されても口を割らずあくまで自分の問題だと言い張るが、つまりこれは彼が自分を装い続けた=怪我がバレないよう吉乃がメイクを施してもらった(蓮二にツッコミは受けたが)のと同様に化粧を通した結果でもあるからだ。
化粧とは肉体に施すものとは限らない。この11話は果たして、化粧をどのようなものと描いているのだろう?
2.化粧とすっぴん
今回の話で描かれる化粧は吉乃のメイクだけではない。その最たる例は霧島と翔真の喧嘩だろう。霧島は吉乃と付き合うことになったと翔真に伝えて挑発を重ね、以前より仲が良いとは到底言えなかった二人はとうとう殴り合いにまで至る。吉乃のいとこの椿が指摘するように彼の真意は蓮二に殴られた傷を見せないようにしたいところにあり、その点では霧島は翔真との喧嘩の傷で”化粧”しようとしていたと言える。……だが、化粧というのは実のところそれほど単純ではない。
霧島「『まあまあ』なわけないよ、どう見てもかわいい。頭おかしいだろ」
翔真「お前に言われたないわ」
吉乃「もうええ分かった!」
二人の喧嘩は状況を察して乱入してきた吉乃によって止まったが、その直前に霧島は翔真に包丁を渡して互いに刃物で決着をつけようとした。傷の上塗りをしたいだけならこんな危ない橋を渡る必要はないはずだ。また、吉乃にこんなことをした理由を聞かれた霧島は翔真の吉乃への態度の悪さ――というよりは気安さ――を挙げるが、実際霧島が吉乃絡みではそういう些細なことに心乱れる人間なのはこれまでも描かれてきた通り。彼が翔真に喧嘩をふっかけた理由は一番は先述の傷の上塗りのためだが、同時に霧島はそれで”化粧”して翔真への憤懣を晴らそうともしている。この喧嘩は化粧であると同時に”すっぴん”なのだ。
吉乃「翔真があんまりバカみたいに売られた喧嘩買うから、制服どっか破れたら喧嘩した相手の家行ってお互いに服縫わせてた。それが嫌で喧嘩せんようになった」
椿「あら、苦労してはるわ」
化粧。それは本心を隠すものだが偽るものとは限らない。例えば大阪時代の吉乃は翔真が喧嘩をすると相手とシャツを交換してボタンを縫い直させるようにしていたが、これは彼の喧嘩を止めるための間接的手法=つまり化粧したやり方だ。「喧嘩をやめろ」とすっぴんで言っても聞かない相手がしかし、化粧をして伝えれば案外素直に言うことを聞く。化粧をした方がかえって本心に忠実になるのもまた世の理であり、だから人は時にかえって遠回りな言い方や行動をするものなのだろう。吉乃にしても賭けと勝負の結果始まった霧島との交際を翔真へのコンプレックスを抑えるためだと語りはするが、それは男女交際がどういうものなのかまだ想像できずにいる=普通の付き合いができない彼女の状況をよく現してもいる。
吉乃「もしそうなったらまずタバコやめろよ。……おい、返事は?」
翔真「……ちっ」
人の心と言葉は不思議なものだ。霧島と椿を先に帰らせ2人で話す時、吉乃と翔真は一生一緒に暮らしても楽しいかも……などと話す。これは愛の告白ではない。あくまで冗談、化粧した話に過ぎない。けれど同時に、そういうことになったらそれはそれで吉乃たちは楽しくやっていくことだろう。彼女たちにとって互いがかけがえない大切な存在なのは間違いがなく、それはどうやっても明確には言語化できないものだ。こんな風に化粧した会話の時だけ、そのあやふやで確実な気持ちは姿を現すことができる。”すっぴん”になることができる。私たちは霧島ではないが、ここにあるのは彼でなくとも嫉妬してしまうであろうロマンチックな間柄だ。
今回は化粧とすっぴんの話である。そして、化粧とすっぴんは時に矛盾なく両立するものなのだ。
感想
以上、来世は他人がいいのアニメ11話レビューでした。霧島を容赦なくぶん殴るが本気でアテにもしている蓮二のコミュニケーションがなんとも極道。翔真の存在感がぐっと増す回だったなと思います。さてさて、この尋常ならざる恋愛譚もアニメは次回で最終回。どういうところに落ち着くんでしょうね。
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— 闇鍋はにわ (@livewire891) December 17, 2024
ブログ更新。蓮二の指摘する化粧の話題から吉乃、霧島、翔真のやり取りを考えてみる話。#来世は他人がいい#raisetanin