「ずっとずっと!」を結ぶ歌――「ラブライブ!スーパースター!!」最終回3期12話レビュー&感想

©2024 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

終わりの先の「ラブライブ!スーパースター!!」。最終回3期12話でかのんたちが歌うもの。それは「ずっとずっと!」を結ぶ歌だ。

 

 

ラブライブ!スーパースター!!」3期12話(最終回)「ずっとずっと!」

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1.終わりと始まり

ラブライブ!で見事連覇を果たしたLiella!。かのんたち3年生には卒業の時が迫っていた。春からはウィーンでまた1人、と不安に駆られるかのんだったが……

 

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結ぶ「ラブライブ!スーパースター!!」。最終回3期12話の副題は「ずっとずっと!」である。劇中にもこの言葉は登場はするのだが、直後に感極まる描写が続くこともあってどちらかと言えば印象としては埋もれがちだ。それでもやはり、この言葉は3期続いた物語の結びにふさわしい副題であるように思う。それを語るために、まずは今回の「いつか1つになる」ものを追ってみたい。

 

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1つの学校に2つのスクールアイドル部という前代未聞の状況を選びつつも「いつか1つになる」ことをかのんが志した1話がそうであったように、この3期は弁証法的な色調の強いシリーズであった。3話の四季とセンターの問題であるだとか、5話の可可の今と未来の問題であるだとか、敵対して見えるものが実際は競い合える関係にあり、どちらも完全には否定されず統合されてより高次の結論にたどり着く物語。同じ観点に立った時、今回その位置に何があるのかは極めて分かりやすい。卒業が意味するもの、学び舎からの巣立ち……「終わり」と「始まり」である。ただ、注目したいのは両者の境が案外はっきりしていないことだ。

 

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例えば今回の冒頭は留学の準備を始めるかのんの様子から始まるが、そこでのかのんは慌てることしきりである。生活に必要なものは向こうで用意されていると知ってはいても、知っている人のいない初めての留学生活の「始まり」に不安を隠せないのは無理からぬところだろう。だが、これはかのんにとっての初めてであって別に史上初ではない。彼女の家に下宿しているマレガレーテだって日本に来た時は同じようなものだったし、それでも今とても楽しく過ごしている。自分1人だけでなく他の人も並べて考えるなら、知り合いのいないところへの留学くらいの出来事はとっくに「始まって」いるのである。

 

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千砂都「おまたせー! ちぃちゃん特製のたこ焼き鍋だよ!」

 

誰かと一緒の時、終わりと始まりはその境を曖昧にする。他の3年生でも例えばすみれは卒業後に事務所に所属しての芸能活動を「始める」わけだが、同じ事務所に所属することになった可可との付き合いは「終わらない」。千砂都はアルバイトをやめてもみなでパーティとなれば鍋にしてまで作るなどたこ焼きとの縁は「終わらない」。恋も大学生活の始まりと並行して運営に携わるから母の作った結ヶ丘との関わりは「終わらない」。終わりと始まりは敵対などしていなくて、いつの間にか両者の間にはもっと高次のものが――「1つになった」ものが生まれている。そして、これはもちろん3年生だけで完結するものではない。3年生だけでは終わったりは、していない。

 

3.「ずっとずっと!」を結ぶ歌

終わりと始まりは、誰かと一緒の時その姿を変える。その象徴はやはりかのんたちが高校生活を終える時、すなわち卒業式であろう。

 

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きな子「そんな先輩方の気持ちを背負って、私たちはこれからも頑張ります。最高の時間を、本当にありがとうございました!」

 

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恋「これからもつなげていってください、ここにいる全員の一歩一歩が結ヶ丘を作っていきます。そしてそれがはばたくわたくしたちの力となっていくのですから!」

 

卒業式の行事で描かれるのは、在校生代表であるLiella!の2年生、きな子の送辞と卒業生代表である恋の答辞だ。その言葉が指すように、送辞と答辞は片方だけでは用をなさい。答辞がなければ送辞は本当は終われず、送辞がなければ答辞は始まれない。文章としてはそれぞれ単独だが、この時終わりと始まりの境目はあやふやだ。それは送辞が卒業生から大切なものを受け継いでいく決意表明であり、同時に答辞が自分たちとの切れないつながりを在校生へ伝えるエールであることからも言える。

 

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かのん「これまでもこれからも、大人になっても、ずっとずっと!」
3年生「よろしく!(デス!)」

 

卒業式が終わったら、校門を出たら、かのんたちの高校生活は終わる。きな子たちが部室や教室に行っても、先輩の姿はもうそこにはない。けれど思い出はなくならないとかのんが言うように、その時彼女たちの間には表面的な終わりを超越したものがある。かのんの台詞通り、これまでもこれからも、大人になっても「ずっとずっと!」よろしくと言えるものが――始まりであり続けるものがある。だが、それは永久不変のものではない。なぜか? 「ずっとずっと!」を担う者たちは代替わりし続けていくからだ。来年にはきな子たち、その次の年にはマルガレーテたちが後輩にバトンを渡していく、終わりと始まりが入れ替わっていくものだからだ。不変ではないから、誰かと一緒であることで終わりと始まりが姿を変えていくから成立するそれは、固定された永久不変よりもはるかにしなやかに続くもの……つまり「ずっとずっと!」である。

 

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3年間を描いた物語の結びに、かのんたち3年生はもう一度だけ歌う。本来なら、彼女たちがスクールアイドルとして歌うことはもうなかったはずだ。今年のラブライブ!全国大会はもう「終わった」のだから。だが、きな子たちにライブを見てほしかったからこそかのんたちは再びステージに立った。言い換えるなら、この幻のライブは後輩がいてくれたから成立したもの=広義の11人のライブに他ならない。だからこそ締めくくりとなるこの「始まりは君の空」はデビュー時のそれではなく、エンドロールに移ったところで11人の歌へと姿を変える。初めての歌としての、始まりの歌としての真実を現す。12話が描いているのはかのんたち3年生の卒業ではあっても、彼女たちだけではこの12話は成立しなかった。11人いなければ「ずっとずっと!」にはなれなかったのだ。

 

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「ずっと」という言葉は不思議な言葉だ。長さを表す言葉としてはひどく感覚的で、実際にどれだけの時間を指しているかの基準を持っていない。けれど私たちはその感覚的な長さに時計の針を超越した長さを感じることができる。「ずっと」が2つも並べば――結ばれれば、私たちはそこに永遠だって見つけ出せる。だからこの12話は「ずっと」ではなく「ずっとずっと!」でなければならなかった。

 

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2021年にTVアニメの放送が始まった「ラブライブ!スーパースター!!」。結ヶ丘女子高等学校を舞台に様々なものを結び続けたLiella!が締めくくりに歌ったのは、やはり「結ぶ」歌だ。「ずっと」と「ずっと」を力強く結ぶ歌だから、「始まりは君の空」は終わりと始まりを結ぶ歌になったのである。

 

感想

以上、スパスタ3期の最終回レビューでした。終わりと始まりを結ぶ話なのだろうな、というのは分かったもののそれだけでは何か書くには足りないな……と感じたのですが、副題を見てピースがはまったように感じました。
「今年こそ、今度こそ優勝を」ではない状況だからなし得た話だと感じる一方、学年の違いをこれまでの作品以上に感じさせる展開が印象に残るシリーズでした。特に1期の頃は「歌えたら苦労しないっつーの」「これったらこれー!」「あんまりなんじゃない!?」とかやってたかのんたちが3年生になって卒業していく姿が、いっそ寂しさを覚えるくらいまぶしくて。3年間の大きさを感じます。バランスとしてもやっぱり11人必要だったな、とも。
素敵な物語をありがとうございました。スタッフの皆様、ありがとうございました。

 

 

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