君の隣――「来世は他人がいい」最終回12話レビュー&感想

©小西明日翔講談社/来世は他人がいい製作委員会

ひととき眠る「来世は他人がいい」。最終回12話では霧島にとって天地がひっくり返るような出来事が起きる。吉乃の隣こそ彼の居場所である。

 

 

来世は他人がいい 第12話(最終回)「彼女が翳ると闇夜が降りて雨がふる」

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1.AパートとBパートのギャップ

帰省を終え、色々な出来事があった大阪から東京へ戻ってきた吉乃と霧島。しかし「じゃあまた後で」と言っていた吉乃は翌日から霧島と口をきいてくれなくなり……?

 

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一眠りの「来世は他人がいい」。12話は今後の展開への含みの多い回だ。吉乃の実家である大阪で桐ケ谷組系の内輪もめが表面化し始め、更にそこには吉乃の祖父・蓮二と長い付き合いのはずの秋目が絡んでいることが判明。加えて大阪での事件にも絡んでいた謎の男・周防薊が秋目の指示で動いているらしいことも示唆される……と厄介な火種が見えてくる。今後にこそ波乱を予感させる、最終回らしくない幕引きと言えるだろう。続編を意識した結果、と言えばそれまでかもしれないが、私が面白いと感じたのはそうしたヤクザの抗争部分が今回のBパートにほぼ丸々使われていたことだ。

 

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この12話は主に2つの出来事で構成されている。1つは先述したヤクザの抗争メインのBパート、もう1つは霧島を無視する吉乃というAパート。どちらのトラブルの方が大きいか?で見るならBパートの方が上なのは言うまでもない。およそ比較にもならない話だ。しかし一方、霧島の慌てぶりで見るならこれはもう圧倒的にAパートに軍配が上がる。もちろん揉め事に直接関わっていないからというのはあるだろうが、霧島にとっては桐ケ谷組の抗争よりも吉乃に無視される方がずっとこたえているのだ。彼にとっては吉乃>ヤクザの抗争であり、事態こそ中途で終わっているがA・B両パートが対照をなす構成になっているのがこの12話と言えるだろう。それを踏まえてみた時、Aパートはいっそう味わい深いものとなる。

 

2.君の隣

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霧島「辛い……」
橘「気色悪いんだよ」

 

吉乃の不機嫌はヤクザの抗争より怖い。それがよく分かるのは、彼女に無視される状況が続く中での霧島の変化だろう。霧島が大阪での事件で義理の兄にあたる翔真を巻き込んだことに腹を立てた吉乃は3日間、72時間に渡って彼を無視し続けたが、当初の霧島は困惑しながらもある意味いつも通りだった。彼女の住む離れのインターホンを1時間で100回押す、好きそうな食べ物を作って呼びかける……マゾヒストでもある彼にとって無視はご褒美にもなり得るものであり、実際その指摘に霧島は途中までは正直少し楽しかったことを打ち明けている。だが、先の見えない無視があまりに続く状況にはさすがの彼の被虐趣味も耐えられない。挙句の果てには吉乃が病気で自分だけ認識できないのではとトンチンカンなことを考え出す(深山一家の構成員である橘いわく「偏差値3くらいになってねえか?」)ありさまで、ふだんの彼という人間はどこかに行ってしまったかのようだ。吉乃至上主義者たる彼にとって、吉乃に無視されるこの状況は自己規定の全てを破壊されるに等しい危機なのである。

 

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霧島「君、天の岩戸から出てきたみたいだ」

 

72時間が過ぎて――いや、もはやインターホンを連打することもなく、雨が降るのも構わず縁側の前に座り続ける霧島の前に予定よりほんの少し早く姿を見せた吉乃を、彼は天の岩戸から出てきたみたいだと言う。実際霧島にとってこれまでの72時間は暗闇であり続けたに等しく、そこには何の光も差していない。その間の彼は何者でもない。これは翔真と比較して自分はヤクザの素質が無い、他人もさせないだろうと謙遜でなく言い切るところからも明らかだ。1話でこの男が吉乃をある意味で裸にしたのを振り返れば、今回の吉乃の無視は彼の方を裸同然にしたと言える。

 

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吉乃だけが、吉乃の存在だけが彼を「深山霧島」にする。内に抱えたその虚無、不思議な穏やかさ、そして吉乃をしてぞくりとさせるようなおかしさ――その全ては吉乃あってこそのものだ。だから彼にとってはヤクザの抗争よりも吉乃の不機嫌のほうが怖く、きな臭い流れそのものより吉乃の身の安全の方がよほど心をかき乱す。アニメとしての本作はCパート、倒れたか何かしたかと思いきやふとんを枕に眠っているだけだった吉乃に魅入られ、微笑むことすらなく彼女の傍らにある霧島の様子で幕を下ろすが、彼にとってこの時ほど幸せな時間はないだろう。どれほど現況がきな臭くとも、そこに吉乃はいてくれている。自分は隣にいることができている。それだけで彼は「深山霧島」でいられるし、それだけあればきっと彼には十分なのだろう。吉乃の隣こそ、いや吉乃の隣だけが彼の居場所なのだ。

 

感想

以上、来世は他人がいいアニメ最終回レビューでした。霧島の過去はあまり明かされていませんが、1話で書いたように「はらわたの恋」だったなと思います。キャスト陣の印象的な演技はもちろんのこと、ふだん触れないタイプの作品はやはり違った刺激が得られるのが面白い。あとTHE ORAL CIGARETTESのOPテーマ「UNDER and OVER」が大変に格好良く、まさしく本作の入口へ誘ってくれた感があります。スタッフの皆様、お疲れ様でした。

 

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