リンクするリンク――「メダリスト」1話レビュー&感想

©つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

どこまでも滑る「メダリスト」。1話では少女と青年が運命の出会いを果たす。二人が滑る場所、それは「リンクするリンク」だ。

 

 

メダリスト 第1話「氷上の天才」

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1.1つ目のリンク

「俺ももう少し早くスケートを始めていたら、今とは違っていたんだろうか?」 リンクの上で小さな子どもを見かけ、26歳の明浦路司(あけうらじつかさ)はそんなことを考える。大好きなスケートを始めたのは14歳、それは才能を開花させるにはあまりにも遅いスタートだったからだ。バイトで練習台を捻出する日々の中、知り合いから呼び出しを受け名古屋へ足を運んだ彼はそこで、1人の少女と出会う……

 

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氷上の「メダリスト」。つるまいかだが月刊アフタヌーンで連載中の漫画をアニメ化した本作は、フィギュアスケートを題材にした意欲的な作品だ。1話では主人公の少女とそのコーチとなる青年・明浦路司の出会いが描かれるが、視聴して私が感じたのは2つの「リンク」の存在だった。今回のレビューでは、そのリンクが何を示しているのか語ることで2人のドラマに迫ってみたいと思う。

 

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司(もう帰ろう……!)

 

1つ目のリンク、それは「場所」である。英語で言えば通常は「plaece」や「location」だが、フィギュアスケートが題材ならもっともふさわしい場所はスケート場だろう。すなわち「rink」=リンク。
本作は明浦路司という青年の視点で描かれているが、序盤からうかがえるのは彼のどうしようもない「場」違い感だ。冒頭で見せる滑りは華麗なものだが日中4時にスケート場(のリンクの上)にいる大人は彼くらいのものだし、人に呼ばれて横浜から名古屋までやってきた彼は当然ながらこの街の住人ではない。端的に言ってよそ者なのだ。加えて彼は自分を呼び出した、アイスダンス全日本選手権のパートナーだった瞳から仕事の打診を受けるがこれにも嬉しそうな顔をしない。彼は自分の成績は瞳の実力に引っ張られてのものだったと考えていて、フィギュアスケートクラブのアシスタントコーチに適格とは思えない……つまり自分なんかは場違いだと感じてしまっているのだ。

 

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男性「14歳? 中学生で初心者? 無理無理」

 

司が感じる場違い感。それは究極的にはフィギュアスケートを始めるのが遅かったという後悔に由来する。スケート場で5歳くらいの子を見て「俺もあのくらい小さな頃から始めていたら今とは違う場所に」と感じるのは、その遅さ故に自分と場所が噛み合っていないと感じるからだ。中学生になって今更遅いと言われながらも優秀な成績を残した彼はしかし、それでもリンクを自分の場所にできていない。フリーターをいつまでも続けるわけにはいかないと分かりつつも、バイトで練習代をしぼり出してリンクにしがみつき続けている。そうした背景を鑑みれば、料金を払わずにスケート場で滑ろうとしている少女を目にして司が激怒するのは当然のことだろう。そこに立つ資格に悩み続けているのが彼という人間なのだから、そんな行為を許せるわけがない。

 

場所に、リンクの上に立つには相応のふさわしさがいる。だが、その「ふさわしさ」とはいったいなんだろうか?

 

 

2.2つ目のリンク、そしてリンクするリンク

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司「天才ですよ天才!」
瞳「だから声!」

 

リンクの上に立つために必要な「ふさわしさ」とは何か? 多くの場合、この問いに返ってくる答えは才能や実力だろう。無銭スケート事件の翌日、司がアシスタントコーチ就任の打診を受けているところへ母とやってきた少女が見せたスケートの技術はそれは見事なものだった。ひょうたんやT字ストップはおろか、スネークやフォアクロスといった動きまで……選手を目指すにはギリギリの小学5年生とはいえ独学でここまでできることに司は興奮を隠せず、乗り気でなかった母親も感激に涙を浮かべるほど。しかしそれにも関わらず、母親は少女がスケートを始めることを許そうとしなかった。あふれんばかりの才能は、それだけでは少女とリンクの場違いを解消してはくれなかった。

 

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母が娘にスケートを許さない理由、それは少女の姉がかつてフィギュアスケートをしていた過去に由来している。彼女が5歳から遊びもせずに練習を重ねたが結果を出せず、最後はボロボロになってスケートをやめていった事実は母の心にも深い傷跡を残していた。才能があると認められようと、感激するほどの動きを実際に娘が見せようと、それでも母の脳裏には姉の姿が蘇ってしまうのだ。この子まであんな目に合わせたくないと、そう思わずにはいられないのだ。これが2つ目のリンク、そう、接続としての「link」。ここにふさわしさへの鍵がある。

 

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少女「私、だめじゃない部分がある自分になりたい。私にも、誰かに負けないくらい好きなことがあるって、上手にできることがあるって、『私は恥ずかしくない』って思いたいの!」

 

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司「お母さんが練習に連れてきてさえくだされば、この子は絶対に才能を開花できると思う。いや、思うじゃない! 俺が! 全日本選手権に出場できる選手にしてみせます! よろしくお願いします!」

 

リンクを断ち切ることは難しい。しがらみに囚われないつもりで人がやることは大抵、過去の繰り返しにしかならない。必要なのはむしろ別のリンク――より強大なつながりだ。学校での成績も要領も悪い「場」違いな自分にとってスケートだけがお守りだったと、スケートだけが世界にリンクする手がかりなのだと涙ながらに訴える少女の姿は、司に強烈な共感をもたらす。中学生になってからスケートを始めようとして相手にされなかったあの時の自分がどうしてほしかったのか、何を願ったのか? あの時とのリンクをもたらす。だから彼は自分がコーチになると申し出るのだ。乗り気でなかったはずの役割を自ら引き受けるのだ。我を忘れたような、子供っぽいくらいの熱弁をふるって母親を説得してしまうのだ。ふさわしき「rink」は「link」によってこそ導かれる。話がついた後に司がようやく少女の名前を、結束いのりという「超いい名前」を知るのは、それが2人がリンクした何よりの証だからなのだろう。

 

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氷上で踊ることは難しい。世界一の選手ですら、やりたい技を100%成功させるのは難しいほどに。それでもあんなふうに踊りたいと思ったその時、rinkへの道はlinkする。「リンクするリンク」――それがフィギュアスケートのリンクなのだ。

 

感想

以上、メダリストのアニメ1話レビューでした。劇中で何度か「場所」と言っているのが耳に残り、気づけばダジャレなレビューになっておりました。それにしてもよくこの題材をアニメ化しようと思ったな! めちゃくちゃ大変そうで、それができちゃってるのがすごい。毎週大いに盛り上がることになりそうで楽しみです。

 

 

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