2つの顔は同門――「片田舎のおっさん、剣聖になる」10話レビュー&感想

©佐賀崎しげる鍋島テツヒロSQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会

再会の「片田舎のおっさん、剣聖になる」。第10話では新たな事件が幕を開ける。人には2つの顔がある。

 

 

片田舎のおっさん、剣聖になる 第10話「片田舎のおっさん、王女の護衛に着く」

ossan-kensei.com

1.公私の別

元弟子の1人、ロゼがスフェンドヤードバニア教会騎士団の副団長になっていたことに驚くベリル。そして、使節団がレベリス王国を訪れる日がやってきた……

 

秘めたる「片田舎のおっさん、剣聖になる」。第10話はかねてより話のあった隣国の使節団絡みで事件が起きる回だが、1人の人物に自然と視点の集まる回でもある。今回はその対象である女性、ロゼ・マーブルハートの「2つの顔」について考えてみたい。

 

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ロゼ「お願いしまーす」

 

冒頭明かされるように、ロゼは2つの立場を持った女性だ。1つはスフェンドヤードバニア教会騎士団の副団長、1つはベリルの元弟子。ベリルは前者としてのロゼを知らず、意外な再会に驚くこととなった。

2つの立場は言わば「公」と「私」である。人は多くの場合そこに2つの顔を持つものだが、ロゼの特徴は両者にあまり境目が見られないところだろう。武官同士の挨拶の場ではベリルに親しげに話しかけ、その後も役目である首都バルトレーンの地理把握を旧交を温めるついでとしてお願いしようとする。およそ副団長らしからぬ振る舞いだが、おそらくこうした点が彼女を子供にも人気な人好きのする人間に仕立てているのだろう。鎧姿でも私服でも彼女は変わらず「ロゼ・マーブルハート」なのだ。

 

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ミュイ「……やっぱ、いつものかっこうが一番格好いいんじゃね」

ベリル「ん? 何か言ったかい?」

ミュイ「別に」

 

ロゼほどでないにしても、人の公私は案外分かれていない。使節団のグレン王子と彼をもてなすサラキア王女は個人的にも惹かれ合っているようだし、ベリルと同居するミュイは家で彼の式典用の服を見ても普段ほど格好いいとは感じなかった。公私の別は「2つの顔」とは限らないのである。

 

 

2.2つの顔は同門

公私の別は「2つの顔」とは限らない。逆説的だが、それはむしろ1つの顔に見えるところにこそある。

 

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例えば騎士団長のアリューシアは当初ロゼの登場に不機嫌を隠せなかったが、自分と彼女が同門であることからベリルの優秀さに話が移った時はむしろご機嫌になっていた。ベリルに敬意以上の思慕を寄せている彼女の不機嫌とご機嫌は同門であり、1つの思いから生まれる異なる顔とはすなわち「2つの顔」である。
また、後半で使節団を護衛していたベリルたちは刺客から襲撃を受けるが、真に恐るべきは生け捕りにされた彼らが自らの命を絶っていったことだ。ベリルたちは毒物や目潰しといった己に向けられる「なんでもあり」には対処できたが、彼らの彼ら自身に対する「なんでもあり」には――つまりもう1つの顔にはなすすべが無かった。

 

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人は時に、普段からは想像もできない顔を見せる時がある。今回も戦いで以前とは違う剣筋を見せ、また刺客たちの死に驚いた様子のないロゼの顔はまるで別人になったようだ。けれどそれは豹変してしまったわけではなく、おそらく彼女が今もベリルの知るロゼだからこそなのだろう。人懐っこい微笑みもラストの冷たい無表情も、同じ人間を別の角度から見た違いに過ぎない。では、何が彼女にその違いを生じさせているのか。

 

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2つの顔は同じところから生まれてくる。かけ離れているようでも、結局それは同門なのだ。

 

感想

以上、おっさん剣聖のアニメ10話レビューでした。剣戟のシーンに迫力があり、いよいよ後半の事件の幕開けなんだと感じられる回だったなと思います。それぞれ戦い方が違うので観ていて面白い。ベリルの一張羅、ミュイも見るのを考えると確かにアリューシアの勧めたプールポワンはなかったな……
単純に斬るだけでは解決しない事態になりそうですが、さてさてベリルはどうするんでしょうね。

 

 

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