忍者屋敷の出入り口――「mono」10話レビュー&感想

©あfろ芳文社アニプレックス・ソワネ

夕暮れの「mono」。長野・富山の旅も第10話でいよいよ終わり。本当の出入り口は隠されたところにある。

 

 

mono 第10話「試験に出る長野・富山の旅 第3夜」

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1.世界は忍者屋敷

白馬を出て戸隠へ向かうさつきたちは、途中でいわくつきの切り株を見つける。偶然居合わせた玄熊先生に解説を受けるのだが……

 

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始まりの「mono」。第10話は3話かけた旅行の締めの回だ。冒頭の振り返りや2泊3日の旅程への言及で、私たちは長野と富山での旅が終わることを――「出口」に向かうことを否応なく意識させられる。だが、一方で今回は出口が一筋縄ではいかないこともまた示している。そばと並ぶ戸隠の名物、忍者屋敷である。

 

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さつき「分かりやすいところに偽の出口があって、本当の入口は隠してあるのがここのパターンなんだ!」

 

思い込みや錯覚を巧みに利用した忍者屋敷では、分かりやすく提示された出口は往々にして偽物である。これが屋敷に限らないのは前半のオカルトスポット・七曲りの一本松でも明らかで、さつきが見た人影はホラー漫画家の玄熊先生だった……という出口は偽物、突然姿を消した彼女と連絡を取ってみればなんと家から出ていないというホラーの入口が待っていた。戸隠神社への道が終盤で勾配がキツくなっていくのもそうだが、今回の話は多くが忍者屋敷的な構造を持っているのだ。

 

2.忍者屋敷の出入り口

世界は案外忍者屋敷的である。これはそば打ちが春乃にとって「にゃんこソバ」ネタの入口だったことなどからも言えるが、白眉と言えるのはやはりこの旅行の終わりだろう。

 

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8月末の2泊3日の長野・富山旅行は、さつきたちにとって夏休みの終わりを強く感じさせるものだった。彼女たちは高校2年、来年は受験勉強で大忙しだろうからもうこんなふうには遊べない……という話は終わりを否応なく感じさせるが、実際のところ8月はまだ少し残っているし、アンのように宿題が手つかずの人間もいる。旅行が終われば夏休みも終わり、というのは忍者屋敷の偽出口と同じ錯覚だ。そして漫画家の春乃が残りの原稿をやらなきゃとボヤくように、大人になることも宿題の類からの脱出を意味しない。しかし、分かりやすい出口が偽物な一方、隠れた入口を持つのもまた忍者屋敷だったはずである。
数日後、春乃は今回の旅行後そのまま北海道へ渡った華子から連絡を受けるが、彼女がそんな長期間旅ができるのには理由があった。なんと華子は休暇を取得したのではなく、仕事を辞めたというのだ。

 

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仕事を辞めたからといって、華子は「脱出」したわけではない。現代社会で生きる以上収入は必要であり、ずっと働かないのは相当な資産か才覚がなければ難しい。言い換えるならそういう「宿題っぽいもの」はやはり残っている。けれど一方、この決断が華子の日々を大きく変えるのも確かだ。夏の終わりに日本最北端までバイクを走らせる彼女は実に楽しそうだし、それを見たさつきたちもその自由さにあこがれを覚えている。華子の選択は、彼女とさつきたちにとって思いもかけない人生への「入口」になったと言えるだろう。私たちはともすると「出口」ばかりを探しがちだが、本当はそれ自体が忍者屋敷で迷うのと同様の錯覚でしかないのかもしれない。

 

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アン「……私、華子さんみたいに自由な社会人目指すわ」
さつき・桜子「私も」

 

この世界は忍者屋敷のようで、分かりやすいところから出ようとすれば行き詰まってしまう。けれど、隠れた入口を見つけられれば眼の前には新しい世界が広がっているのだ。

 

感想

以上、monoのアニメ10話レビューでした。引用したさつきの台詞をヒントに書けそうだなと取り掛かったのですが、確認してみると一つの台詞内にも関わらず「出口」「入口」が統一されていないことに困惑。出口が見えなくなってしまったのですが、書き進めてみると台詞の通りで意外な入口が見えてきました。

 

www.togakushi-ninja.com

今回出てきた忍者屋敷を含めた施設のHPを検索しましたが、他にも民俗資料館やアスレチックなどもあるみたいですね。楽しそう。

 

すみませんが来週は所用のため、更新は火曜になる見込みです。なかなか慌ただしくなりますがちゃんと更新していければ……!

 

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