焼塩檸檬は時をかけるーー「負けヒロインが多すぎる!」2話レビュー&感想

©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

追いつけない「負けヒロインが多すぎる!」。2話では2人目のマケイン、焼塩檸檬にスポットが当たる。陸上部で走る彼女は「時をかける少女」である。

 

 

負けヒロインが多すぎる! 第2話「約束された敗北を君に」

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1.時間は可変である

体育倉庫の片付けをしていた温水は、同級生の綾野光希に思いを寄せる焼塩檸檬から恋愛相談を受ける。気を利かせて彼女が光希と二人になれる機会を提案した温水だったが、なんと体育倉庫が勘違いで外から鍵をかけられてしまい……!?

 

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走る少女達の「負けヒロインが多すぎる!」。2話は主人公・温水のクラスメートである焼塩檸檬(やきしおれもん)の恋愛事情が中心となる回だ。体育倉庫で一人片付けをしていたところ頬を赤く染めた彼女に声をかけられ、温水は思わず愛の告白の類を期待しそうになってしまうがそんなはずはないと自分に言い聞かせる。「ラブコメ的に言えば、俺と焼塩の間には体育倉庫イベを起こすためのエピソードが不足している」……悲しいかなこれは事実で、檸檬の目的は同級生の綾野光希(あやのみつき)が温水の所属する文芸部から本を借りる話がどうなったか探ることにあった。彼女は好意を抱いている光希と距離を縮める機会を作れないかと考え接触してきたのであり、「体育倉庫イベ」が起きる理由などあろうはずはなかったのだ。いや、ないはず・・・・、だった。

 

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気を利かせた温水は檸檬が光希と二人で文芸部を訪れてはどうかと提案し感謝されるが、直後に彼らは自分達が体育倉庫から出られなくなっていることに気付かされる。他人に聴かれないよう檸檬が扉を締めたのが災いし、外の人間が体育倉庫には誰もいないと誤解して鍵を締めてしまったのだ。折しもこの日はその年初めての猛暑日であり、熱中症一歩手前に陥った檸檬はすっかり正気を喪失。温水が見つけた冷却スプレーをかけてくれるようねだり最後には彼を女性と勘違いして上半身裸にまでなってしまう。「少しくらい変な気になっても俺は悪くないと思います!」と嘆きつつ温水は必死で自制するが、これがいわゆる「体育倉庫イベ」でなくてなんであろう。確かに彼と檸檬の間にはエピソードが不足していたが、彼女は足りないはずの時間的積み重ねを全く跳躍してきたのだった。

 

1日は常に等しく24時間であるが、その時間をどのように感じるか、あるいはどのような速度で感じるかは一様ではない。二人は声を聞きつけた担任の甘夏先生に助け出されるが、意識を取り戻してみれば檸檬はこの出来事を完全に忘れていた。温水にとっては人生の一大事になりかねなかったあの何十分間かは、檸檬の方では1秒たりとて記憶に残りはしなかったのだ。光希に思いを寄せる彼女にとってこれは幸いだったろうが、それは必ずしも彼女を救うだけの理屈ではなかった。

 

2.焼塩檸檬は時をかける

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檸檬「違いますよ!」
光希「そうですよ! 俺彼女いますし!」
檸檬「……ん~~????」

 

体育倉庫イベから数日。温水の提案通り、檸檬は光希と共に文芸部の見学に訪れることとなった。部員を増やしたい副部長の月之木古都(つきのきこと)は二人をカップル(あるいはそれ未満)と見なして勧誘しようとするのだが、それは檸檬の思いもよらなかった事実を光希に語らせる結果を招いてしまう。なんと彼には既に交際相手がいたのだ。同じ塾に通う少女、朝雲千早……確かに最近二人が一緒にいることは多く、檸檬はそこに危機感を募らせていたのだが事態は想定よりずっと進行していた。更にショッキングなことに光希は檸檬を恋愛対象としては全く見ておらず、彼女が自分に寄せる好意につゆほども気付いた様子を見せない。光希と千早の「時間」は檸檬のそれより遥かに早く、彼女は完全に置いてけぼりにされていたのだ。

 

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檸檬「そっかー光希彼女いたんだ……はは、私って今まで何してたんだろうね」

 

所属する陸上部ではエースを張っている一方、恋愛レースではそもそも出場すらできていない。なんとも皮肉な話だが、これが焼塩檸檬の現状である。養護教諭の小抜小夜はその日、夜中にも関わらず校庭のグラウンドで走っている檸檬を見つけ驚くが、彼女の出遅れは実際それくらい致命的なものだ。光希と千早が既に交際を始めてしまった以上、二人に追いつくことはもうけしてできない。……理屈の上では。

 

檸檬が知らぬ間に恋愛レースが決着していた事実が示すように、そして光希が彼女がいると口にした瞬間が演出で目一杯引き伸ばされているように、時間というものは実際は可変である。そして同時に、体育倉庫イベからも明らかだが人は時間を跳躍することだってできるものだ。既に1位が決まっているとしても、暗闇の中のように行く手に光がないとしても、走りさえするならゴールにたどり着くことはできる。檸檬は確かにもはや事実上失恋しているけれども、まだゴールにたどりついてはいない。だって彼女はそもそも恋愛レースに出場すらしていないのだ。それならこのまま何もしないなんて、走りさえしないで終わる選択肢なんて彼女にあるわけがない。だから彼女は走る。全力でもう一度だけ、スタートを切る。

 

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小抜「いいわ、走りなさい。ただし全力で」
檸檬「もちろん!」

 

焼塩檸檬時をかける少女である。どれだけ遅くとも、どれだけ遠くとも、走り出した彼女はきっと光希と千早の二人に追いついてみせるのだ。

 

感想

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以上、マケインのアニメ2話レビューでした。今回はなかなか切り口が見つからず悩んだのですが、視点を切り替えてみると実験的に書けそうな気がしてこんなレビューになりました。本文中では触れてませんが、小抜先生が高校時代から知っている保健室の天井のシミだとか、杏菜の可変する温水への借金なんかもヒントになって書けた次第です。温水は借金に罰金をつけていいんじゃないだろうか。

 

さてさて、檸檬はどんな風に恋心に決着をつけることになるのか。彼女がちゃんと「マケイン」になれるのを願いたいと思います。

 

 

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