焼塩檸檬は魔性の女――「負けヒロインが多すぎる!」5話レビュー&感想

©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

夏の魔法の「負けヒロインが多すぎる!」。5話は檸檬が主軸の新章だ。彼女は、焼塩檸檬は魔性の女である。

 

 

負けヒロインが多すぎる! 第5話「 朝雲千早は惑わせる」

makeine-anime.com

1.置き換えの魔法

夏休みも残り少なくなったある日、温水は杏菜の訪問を受ける。なぜか父の先月の給料が全て素麺になり、友人に配って回っているというのだ。一方、檸檬はなぜかフラれた光希と会っていて……!?

 

惑わしの「負けヒロインが多すぎる!」。5話はマケインの一人、焼塩檸檬が中心となるのを感じさせる回だ。彼女が何を考えているのかは示されていないが、見終えて私が感じたのは「焼塩檸檬には魔性がある」ということだった。

 

<魔性>
悪魔のような、人を惑わす性質。また、それをもっていること。
小学館大辞泉を出典としたコトバンクより)

kotobank.jp

 

檸檬のどこに魔性があるのだ?とお怒りの方もいようが、なぜそんなことを考えたのか説明するためにまず素麺に触れたい。そう、今回登場する揖○乃糸ならぬ祖母乃糸、マケインの一人である八奈見杏菜が友人などに大量に配っている素麺だ。

 

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杏菜「父さんの今月のお給料が素麺だったの」
温水「給料が? どういうこと?」
杏菜「だから色々あって7月分のお給料が全部素麺で払われたの。末端価格30万円分の素麺がうちにあるんだよ……」

 

杏菜は先に触れたように友人に素麺を配っているが、これはお歳暮だとか祖父母の家から多量に送られたわけではない。経緯は不明だが父の前月分の給料がなぜか全て素麺で支払われ、総額30万円分の素麺が八奈見家にあるというのである。給料が素麺に「置き換えられた」わけだが、いくらなんでも消費し切るまで全てを素麺に置き換えるわけにもいかず杏菜は友人の家を回り、主人公の温水の家では代わりにカレーライスを3杯いただいていた。劇中描かれた文芸部の部室にも素麺の箱が山と積まれていたから、今の八奈見家には素麺が文字通りあふれるほどにあるのだろう。

 

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温水「ええとつまり、素麺の食べ過ぎでふと……」
杏菜「太ってないですけど!?」

 

「置き換える」ことは難しい。上等な素麺だろうが食べ続ければ飽きるし、冷たくて細くてツルツルしていようが炭水化物の塊だから食べ過ぎればカロリーオーバーになってしまう。また杏菜は未だ癒えない失恋の傷心を「心が弱った時に読む本」で埋めようとするが、できたてほやほやのイチャイチャ期を脱ししっとり新婚カップル状態になった相手カップルの前には見せかけの落ち着きは呆気なく吹き飛ばされることとなった。素麺を筆頭に、今回の杏菜からは「置き換え」の難しさ彼女の拙さが描かれていると言える。では、他のマケインの場合は――焼塩檸檬の場合はどうだろう?

 

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小鞠「や、焼塩って、男の兄弟はいるのか……?」

 

今回檸檬が見せているもの。それは「置き換え」の上手さだ。兼部している文芸部の部室を陸上部のユニフォームからの着替えに使用して(置き換えて)鉢合わせた主人公の温水の入室に鉢合わせたり、前回温水を杏菜と二人にするための方便でランニングしたいと嘘をついた同じく文芸部の小鞠を案外その気にさせていたり……本人に言わせれば着替えの際に鍵を締めていなかったのは「ちゃんと中に着ている、意識し過ぎ」なだけだし、小鞠の体力に合わせたメニューにしたり彼女が疲れたらおぶってあげるというのも裏表のなさの発露に過ぎないのだが、その裏表のなさゆえに周囲はかえってドギマギさせられ彼女を魅力的に感じてしまう。檸檬がモテることは2話で言及されているが、それはおそらく彼女の何気ない振る舞いが多くの人に自分にもチャンスがあるのではと思わせてしまうからなのだろう。なんでもないことを恋愛フラグに「置き換えて」しまう無自覚な巧みさ、悪魔のように人を惑わせてしまう性質……それが焼塩檸檬の魔性なのである。

 

2.焼塩檸檬は魔性の女

焼塩檸檬には魔性がある。それは従来なら恋愛感情を勘違いさせるに留まるものだったが、小鞠と打ち解けているところから見えるようにこの魔性は更に効果を強めつつある。恋愛対象としてではなく、恋敵と認識する相手にすら及ぶほどに――そう、魔性の影響をもっとも強く受けているのはこの5話で大きく出番の増えた少女、朝雲千早だ。

 

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千早「少し、場所を変えてお話しませんか?」

 

千早は綾野光希の恋人である。言い換えるなら、勝負すらさせることなく檸檬の想い人と恋仲になった「勝ちヒロイン」。しかしこの5話で見せる彼女の実像はこれまでのイメージからは程遠いものだ。温水と杏菜は光希と檸檬がなぜか二人で会っているのを見て驚くが、更に驚かされたのは浮気を疑って二人を追いかけていた千早がその楚々としたイメージからはかけ離れた強烈な個性の持ち主である事実であった。サングラスとマスクで顔を隠しておでこを光らせ、(おそらくプレゼントに仕込んだ)GPSで光希の位置を把握……立派に残念な、どちらかというと負けている側のようなムーブが今回の千早にはある。そう、勝ちヒロインなのに負けヒロインと「置き換わって」いる。

 

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実際、檸檬の好意を知る千早は自分と光希の交際に疑問を持っていた。付き合うべきは本当は光希と檸檬の二人だったのではないか、自分は横から現れて奪ってしまったのではないか、と。もし光希の心が本当は檸檬にあるのなら身を引こう、と覚悟を固めてすらいたほどだ。光希に事情を聞かず追跡調査をしているのを含め彼女は完全に及び腰になっているのだが、それはおそらく檸檬に「勝てる」自信がないからだろう。光希は甘いものが苦手だからと自分では誘ったことのないジェラートを二人が一緒に食べる姿は千早からすれば絵になり過ぎていて、自分が「置き換わった」ところが想像できない。本来そこにいるのは恋人の自分であるはずなのにも関わらず、だ。檸檬の魔性は好意を誤解させるだけでなく、恋敵に敗北感を植え付けるほど強烈なものなのである。そしてこの効果は更に強烈なものとなり、光希を追いかけていたはずの千早は逆に温水との浮気デートを光希に見つけられたかのような=置き換わった事態に陥ってしまった。おそらくこの新章では、置き換わりにどう対処していくかが一つの問題になっていくのではないだろうか。

 

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千早「焼塩さんが羨ましいです。まっすぐでちゃんと自分の気持ちを出せて。私光希さんに迷惑かけたくないとか、そんなことばっかり……」

 

焼塩檸檬は魔性の女だ。触れる者をみなおかしくしてしまう、夏の魔法がこの少女には宿っているのである。

 

感想

以上、マケインのアニメ5話レビューでした。「 朝雲千早は惑わせる」の副題からするともう1ひねりした方がいいのかもしれませんが、今回の話を捉えるフレームとして「置き換え」が使えるのは確かそうなのと描写からすれば魔性があるのは檸檬の方かなということでこんなレビューになった次第です。

 

原作編集者にお腹も日焼けしてるのとそうでないのとどっちがいいか悩ませるくらいに魔性。学生時代の私なら「ぬっくん」と呼ばれた瞬間に恋に落ちてるであろうくらい魔性。たぶん章の終わりにはみな首まで泥沼に浸かってるのではなかろうか。次回も楽しみです。

 

 

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