真実のハロウィン――「負けヒロインが多すぎる!」9話レビュー&感想

©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

装いの「負けヒロインが多すぎる!」。9話は文化祭の準備回だ。仮装する者が多い今年のツワブキ祭は、言ってみるなら真実のハロウィンである。

 

 

負けヒロインが多すぎる! 第9話「先生は天井の染みかなんかだと思って続きをどうぞ」

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1.目に見えない仮装

ツワブキ祭で食べ物と絡めた研究発表をすることを決め、準備をする温水達。展示の原稿を1人で準備しようとした小鞠は無理を重ね、ついに倒れてしまい……

 

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鏡のような「負けヒロインが多すぎる!」。ツワブキ祭(文化祭)の開催が迫る9話の始まりでは、今年は仮装する生徒が多いことが語られる。さながらハロウィンのようだ、と。同じく冒頭で登場する「8K」的美少女な姫宮華恋が悪魔に扮する場面などもあり、視覚的にも今回は装いを楽しめる回だと言える。ただ、目に見えるものだけが仮装かと言えばそれは誤りだ。例えば文芸部次期部長の小鞠知花はオーバーワークを重ねながらもツワブキ祭での研究発表を1人でまとめようとするが、他人を頼らず強がるのは心理的な「仮装」の一種であろう。

 

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小鞠「で、でも明日は準備が……」
温水「ま、俺にも少しはいい格好をさせてくれ」

 

友達のいない自分に構ってくれた文芸部の先輩2人に、卒業して1人に戻っても自分は大丈夫なんだと見せたい。先輩の1人である玉木に告白して失恋し、彼がもう1人の先輩である古都と交際を始めたことで3人でいる時間が減った今ですら寂しさを覚えていながら強がろうとした小鞠は、睡眠不足の日々を重ね遂には倒れてしまう。強がりが仮装であるなら彼女が倒れたのは仮装の破綻に思えるが、そうではあるまい。主人公にして同じく文芸部の温水は研究発表を最後まで書こうとする小鞠の願いを受け入れる代わりに展示の準備は休ませることを決めるが、その時彼が口にした言葉は「ま、俺にも少しはいい格好をさせてくれ」であった。そう、いい格好とはこれまた「仮装」だ。温水は1人でも大丈夫だという小鞠の仮装を成功させるべく、自分もまた仮装することを選んだのである。

 

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檸檬「ぬっくんまで1人で無理して」
温水「無理はしてないよ、やれるところまでは俺がやろうかなって……」
檸檬「周りの力を借りるのもやれることの1つだよ」

 

1人でも大丈夫だと装うために他人の力を借りる。理屈の上では本末転倒にも見えるが、実際にはこれは矛盾していない。他の文芸部員などは温水が早朝に単身準備を始めると知って駆けつけたが、その1人である焼塩檸檬が語るように、自分1人ではできないことを他人に頼れるのも「1人でも大丈夫」の内だからだ。1人でなんでもできる人間などこの世には存在しないから、むしろ他人に頼れることこそ「1人でも大丈夫」の証ですらあるのかもしれない。

 

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夏休みに仲を深めた光希とその恋人千早、妹の佳樹なども手伝ってくれたおかげで展示の準備は無事終了。温水は小鞠にいい格好をすることに、「仮装」に成功する。仮装は1人でするものとは限らないし、なんなら1人ではできない……そんなふうに今回の話を読み解くことも可能だろう。しかしこれは本レビューの話のまだ半分だ。そもそも「仮装」とはなんだろうか?

 

2.真実のハロウィン

「仮装」。読んで字の通り、それは仮の装いである。本来備わっているものではなく、あくまでも他の姿をしているだけ……ハロウィンでは様々な仮装をした人が練り歩くが、もちろん彼らは皆人間であってドラキュラのように血を吸ったりミイラ男のように墓から蘇ったりしたわけでない。ただの偽物だ。だが、そこにあるのは本当に偽物だけだろうか?

 

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檸檬「だってちゃんと隠れてる……」
女子生徒「はいアウトー」

 

例えば温水のクラスでは「辻ハロウィン」なる出し物を予定しておりこの9話では檸檬がミイラ男に扮したりするが、驚くべきことに彼女は裸身にそのまま包帯を巻いて何の羞恥も感じていなかった。つまりミイラ男の仮装は仮の装いにも関わらず、檸檬の自分の体をさらすことへの抵抗のなさを如実に映しているのだ。他にも温水は華恋の悪魔の仮装にサキュバスっぽさを感じたり、逆にもう1人の文芸部員である八奈見杏菜の仮装からは幽霊っぽさをまるで感じずにいるが、これらも男子を魅了せずにおかない華恋の美貌や杏菜の生命力が如実に現れた結果とも言える。仮装は彼女達を偽るのではなく、一面ではかえって真実を浮き彫りにすらしているのである。

 

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杏菜「好きって言っちゃだめで、もうどうにもならなくて。それでも抱えた気持ちを外に出したいから小鞠ちゃんは書いて、檸檬ちゃんは走って……」

 

いったい、人は自分が思うほど自分や他人を正確に把握していないものだ。温水は多くの人間が彼を認めたり気にかけてくれていることに無自覚だし、玉木と古都は小鞠を妹のように愛おしんでいるが故に彼女の強さに(倒れてもなお研究発表だけはやり通そうとする強い意思の持ち主であることに)気付いていなかった。そしてそんな時、私達は仮装でしかないはずのものにかえって真実を教えられることがある。劇中で小鞠の弟に問われて温水は姉と友達だと言い繕ったが傍目にはとっくに二人は友人だし*1、杏菜がフラれ仲間の檸檬や小鞠に言及する時感じているのは二人に自分を重ねて――仮装することで見えてくる自分の現状だ。盗撮されている(???)からうかつな事は言わないようにと注意しようとした温水を告白と勘違いして杏菜がドギマギしてしまったように、私達は現実だけでは案外自分や他人を理解できない。仮装を通さなければ、あるいは仮装に手を伸ばさなければ見えてこない真実もこの世には存在する。

 

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学校をまるで別の場所のようにしてしまう文化祭や体育祭がそうであるように、仮装は時に現実よりも本当のことを映し出す。故に、仮装する者が多い今年のツワブキ祭は真実のハロウィンなのである。

 

感想

以上、マケインのアニメ9話レビューでした。レビュー前半部分だけだと描写をあまり拾えてないなと悩んだのですが、冒頭の温水の「ラノベで見たやつだ」が一種の仮装みたいだな……と感じたのをきっかけに後半を書くことができました。展示の準備でお菓子を大切そうに置く檸檬とか兄に上着をかけてもらって本当に嬉しそうな佳樹とか、言及しなかった部分でも色々素敵な場面が多い回だったな。

 

さて、次週なのですが3連休外出しっ放しのため更新が遅延します。スキマ時間に視聴回数だけは重ねて更新の準備をしておきたい……いよいよツワブキ祭開催と盛り上がるところなのに歯がゆい話ですが、すみません。

 

 

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*1:そういう意味で、玉木と古都の間に入れなくなった小鞠がまた1人に戻ってしまったと考えているのは不正確だ