終わり近づく「しかのこのこのここしたんたん」。11話では平和とは何かが問われる。幸せは、平和が長続きしないところにある。
しかのこのこのここしたんたん 第11話「The pursuer and the pursued」
1.暴走するのこの魔力
のどかな春の日、こんな時間がずっと続いてほしい……と願う虎子。願い虚しく、隣の席ののこが授業中に思い切り寝始め……
穏やかなる「しかのこのこのここしたんたん」。11話は主人公の虎子の冒頭の「平和、短かったな」という言葉が全てを象徴するような回だ。1本目ではのこの居眠りが授業中に異常事態を巻き起こすし、2本目では彼女を狩りにマタギがやってきたことで学校が猟師と獲物の対決の場に変わってしまう。どちらもきっかけはツノの生えた少女「のこ」にあり、その意味で彼女は平和の敵のようなものだ。
鹿乃子のこという存在は歩く不条理である。頭に謎のツノが生えていたりそこから鼻提灯ならぬツノ提灯ができたり、外せば連結して双頭刃のようなものにできたり……彼女はいるだけで日常を非日常に、言い換えるなら平和を平和でないものに変えてしまう。だが、のこの持っている魔力はいつも彼女に都合がいいように働くとは限らない。
3本目では虎子がのこの穴空きジャージの代えを彼女と買いに行くが、そこで遭遇するのは1本目や2本目が嘘のように怖がりなのこの姿である。彼女は今どき猫でもあまり恐れないペットボトルが怖くて仕方がなく、それだけで動けなくなってしまう。つまり「平和を平和でないものに変えてしまう」力がここでは逆にのこに牙を剥いているのであり、彼女は自らの魔力の落とし穴にハマってしまったのだ。
2.幸せは調子のおかしいもの
順逆を入れ替えてしまう魔力故に、ただのペットボトルが恐怖の対象となってしまうのこ。彼女の救いとなったのは、同行していた虎子が手を差し伸べた手であった。「しゃーねえから回り道するぞ。ぶ、部長だからな！ シカの世話焼くのが部長の役目っつーか……たく、世話の焼けるシカだぜ」という彼女の口ぶりは絵に描いたようなツンデレだが、ここで少し考えてみてほしい。ツンデレとは思っていることを素直に言えないものだ。順逆が入れ替わってしまうものだ。すなわちここにも魔力的な反転は息づいている。
振り返ってみれば、虎子はのこにただ一人他とは違う反応を示す人間であった。1話で彼女が教室に入ってきたあの日以来、本作の人々はシカを中心に回るこの世界に何の疑問も持たなくなってしまったが虎子だけはそうならなかった。シャボン玉のようにツノ提灯が飛べば困惑し、北海道のローカルルールのはずのシカの日を東京で適用してマタギがやってくることにツッコむ……そういうことをするのは彼女だけだ。のこのある種の魔力が効いていないのか反転しているのか、とにかく虎子だけがのこの書き換えた世界の理に逆らって動くことができる。逆に言えば、のこを反転の落とし穴から救ってやることができる。ツンデレ仕草でのこに手を差し伸べるも結局迷子から抜け出せなかった虎子が最終的にのこにしてやったのは、ジャージに空いた穴にワッペンを縫い付けて補修してやること――ボロボロのジャージを「逆に」思い出の品に変えてやることだった。
のこ「ありがとうこしたん、大事にする！」
人間というのは不思議なもので、全てがまっすぐ同じ方向を向いているばかりがいいとは限らない。時には調子が狂う相手と一緒にいる方が、平和とは言えない状況に陥る相手の方がかえって幸せな時もある。画面上に現れているのは虎子の独白だけだけれど、それはきっとのこにしても同じことだろう。この歩く不条理が心から嬉しそうな笑顔を向ける相手はきっと、彼女の行動を当然のものと受け止めずツッコんでくれる虎子1人しかいない。
虎子とのこが交わるところ、平和は長続きしない。けれど、だからこそ一緒にいることが二人の幸せなのだ。
感想
以上、しかのこアニメ11話レビューでした。め、メチャクチャ書きにくかった……早めに7割書けて余裕だったはずが終盤で止まってしまい、結局1から書き直すことになりました。虎子のツンデレがストレート過ぎやしないかと思って見てましたが、こうやって書けてみると必然も必然という気になってくるから不思議なものです。あそこからのやりとり、ギャグとしての過剰演出でもなんでもなく本当に感動できるな……
さてさて、最終回にしてのこたんが皆の記憶ごと失踪とシリアス展開を予想させる引き。こういう話になっておかしくないとは思っていたところであり、同時に開始数秒でひっくり返すのもこの作品ならやりかねない気もしないところでもあり。最終回を見届けたいと思います。
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幸せは調子のおかしいもの――「しかのこのこのここしたんたん」11話レビュー＆感想https://t.co/OLhCxIOlmn
— 闇鍋はにわ (@livewire891) September 12, 2024
ブログ更新。短い平和と、虎子とのこの幸せの話。#しかのこ#しかのこのこのここしたんたん#おしおしお
