鹿乃子のことは何者だったのか――「しかのこのこのここしたんたん」12話レビュー&感想

©おしおしお講談社/日野南高校シカ部

マイペースな「しかのこのこのここしたんたん」。12話ではのこたんに次々と刺客が襲いかかる。鹿乃子のことは何者だったのだろうか?

 

 

しかのこのこのここしたんたん 第12話(最終回)「さらばのこたん!? シカ部よ永遠に」

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1.ゆるキャラ試験

突如として虎子の前から、いや皆の記憶から姿を消してしまったのこ。誰一人として彼女を覚えていない状況に、虎子は自分は夢を見ていたのではないかと不安になりながらのこを探し――なんてことはなく、最終話ではシカ系ゆるキャラ養成機関”シカの穴”がのこに刺客を放ってくる。果たしてのこはシカの穴に連れ戻されずに済むのか……?

 

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ご当地振興「しかのこのこのここしたんたん」。アニメ最終回である12話は”のこ”の正体が明かされ危機が訪れる。なんと彼女はシカのゆるキャラ養成機関”シカの穴”の脱走者であり、アニメ放送によって居場所のバレた彼女を狙って刺客が放たれたというのだ!……とはいえ、これに対していわゆる「考察」を真面目にする人はいないだろう。劇中でもツッコまれているように、最終回のためにとってつけた設定なのは言うまでもないからだ。ただ、一方でこの設定は彼女が何者か考えるための一石を投じてはいる。つまり「鹿乃子のことはゆるキャラなのか?」という疑問である。

 

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ゆるキャラ、それは主にご当地振興を目的に生み出される「ゆるいマスコットキャラクター」である。おおむね2010年代を頂点にブームは落ち着いたがイメージキャラクターとして定着したものも多く、地場産品などではお馴染みの存在だ。アニメによる観光客の誘致が期待される昨今、東京都日野市を拠点とするシカの角の生えた少女であるのこには確かにゆるキャラっぽさがなくはない。今回登場する実在のゆるキャラ、北海道のキュンちゃん長崎県小値賀町ちかまるくんとはなちゃんは体裁としては刺客だが、状況としてはむしろのこのゆるキャラ適性を測るべく胸を貸してくれていると見ることも可能だろう。

 

果たしてのこにはゆるキャラ適性があるのか? 勝負が全敗なのを見れば分かるように答えは否だ。彼女にはキュンちゃんのように見た者の胸をときめかせる愛らしさはないし、ちかまる君とはなちゃんのように勝負にかこつけて観光案内をする巧さもない。主人公の虎子が手助けしてくれたりゆるキャラには他にも仕事があるおかげでウヤムヤになっているが、特訓が面倒で逃げ出しシカ部で楽に生きていたいという彼女はおよそゆるキャラからは程遠い落第生なのである。

 

のこはゆるキャラに向いていない。だが、彼女には最後の刺客としてあまりにも大きな壁が立ちふさがる。そう、奈良県が誇る超有名ゆるキャラせんとくん」だ!

 

2.鹿乃子のことは何者だったのか

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せんとくん。それは平城京の遷都から1300年を迎えるのを記念して2010年に発表されたゆるキャラだ。鹿のツノが生えた童子のデザインは当初物議を醸したが(正直、私もだいぶ否定的だった)それが知名度アップにも繋がり、現在は全国でもトップクラスの有名ゆるキャラとなっている。6話でもシルエットで登場していたが、のこたんとゆるキャラを考えるなら避けては通れない存在であろう。

 

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せんとくんの存在感は圧倒的である。持ち歌である「せんとくんなら知っている」をバックにした入場に観客は大盛り上がり、のこの攻撃を歯牙にもかけないその強さはスタイル同様まさに横綱相撲……虎子と特訓したとはいえ、のこが敵う道理はどこにもない。だが、彼女に何もできないのかと言われればそれも誤りだ。


追い詰められたのこが取った行動。それはゆるキャラにはけしてできないハチャメチャなものだった。シカのアイデンティティであるツノを外して凶器にする、買収を試みる、取り外しできる頭部を回転させてのまさかの「シカコプター」、それによるツノ爆弾投下攻撃……品位としてありえないこれらの行動は、ゆるキャラとして見れば決定的な失格であろう。でも、こんなことをするのがのこではなかったか? 何を考えてるのかよく分からない、あらゆる道理の壁をツノで砕く不条理の塊。ゆるキャラとしては失格だが、そもそもゆるキャラの枠に収まるようなキャラではないのだ。その存在を認めたからこそ、せんとくんも事態の収拾のためのこをはっ倒しこそすれ、自分も相手も勝者だとのたまう彼女に怒ったりはしないのだろう。

 

鹿乃子のことは何者だったのか? はっきり言えば、その答えは分からない。1話の登場がシカコプターによるものだったと伏線が回収されても、彼女がどこから来たのかどうやって生まれたのか、なぜ彼女の登場と共に世界が変わってしまったのかは謎のままだ。けれどその答えが明かされる必要はどこにもない。ここに存在するなら――シカ部と、そして虎子と一緒にいるならそれだけで彼女は彼女たり得ていると言えまいか。

 

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鹿乃子のこは「のこたん」である。それさえあれば本作はガール・ミーツ・シカで、「しかのこのこのここしたんたん」であり続けられるのだ。

 

感想

以上、しかのこアニメ最終回12話レビューでした。前回の引きが開始数秒でひっくり返されるのは想定していましたが、ゆるキャラとの勝負で終わるとはまさか想像もせず。

正直に言えば笑いもネジの外れ方も私の期待した方向とは違ったのですが、自分の頭の中をこねくり回す意味で毎回レビューの書き甲斐がある作品でした。不条理なのと同時にガール・ミーツ・シカとしての筋は通っているのも良かったです。スタッフの皆様、お疲れ様でした。

 

 

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