回り込まれる「しかのこのこのここしたんたん」。5話では虎子のもとに1通の手紙が舞い込む。早く出ようが弱みを探そうが、シカから逃げることはできない。
しかのこのこのここしたんたん 第5話「アイツの弱みをにぎれ!! 」
1.逃げ出せないシカの世界
のこ「体育館を爆破とは、さすが元ヤンこしたん!」
虎子「お前のせいだろ、ってかお前も吹っ飛んでんじゃん!」
優等生アピールのため、人気のない早朝から登校してきた虎子。下駄箱を開けるとそこにはなんと、ピンクの封筒にハートマークの貼られた1通の手紙が入っていて……!?
逃げても逃げても「しかのこのこのここしたんたん」。今回はおなじみ3本立てながら、最後のパートには虎子が登場しない変則的な回だ。のこたん×こしたんガチ勢の私*1としては少し困惑したが、とりあえずは虎子の出番のあるA・Bから見ていこうと思う。
Aパートは虎子の下駄箱に入っていた「ラブレター」を中心とした話だ。虎子は自分がラブレターを送られたことや返事をどうするかなどに赤面することしきりだが、妹に少女マンガ脳とまで言われるほどピュアな彼女がラブレターを目にすればそんな反応になってしまうのも無理はない。早朝に登校した彼女の頭の中はすっかりそのことでいっぱいになってしまいかねないところであったが――のこの存在はそれを許さなかった。いつもは遅刻ギリギリなのに寝返りを打っていたらなぜか学校に来ていたという彼女に早々に見つかったことで、状況はあっという間にいつもの二人漫才に戻ってしまったのである。
更に言えば手紙の正体は元ヤンの虎子から日野最強の座を奪うべく他のヤンキーが仕掛けた果たし状であり、武器を持った3人を相手に虎子はバトル漫画的なピンチに襲われるのだがこれも長続きはしなかった。応援のためのこが投げた角はなんと強力な爆薬であり、こんなもの役に立つかと虎子が投げ捨てた瞬間大爆発を起こしヤンキーも虎子ものこもまとめて吹っ飛ばされてしまったのだ。虎子を取り巻くラブコメもバトル漫画も、のこの前では結局のところ無力であった。
Aパートで描かれているもの。それは虎子を捕えて離さない「シカの世界」である。のこがいる限り彼女はラブコメ時空には飛べず、同時に元いたヤンキーの世界に戻されることもない。彼女がいるのはあくまでも「いい加減なギャグアニメ」だ。だが、他の世界に行く自由は虎子にはないのだろうか?
2.シカの世界は幸せ
爆発に巻き込まれるオチが代表するように、虎子を捕えて離さないシカの世界は理不尽である。そこから逃げ出す自由はないのか? Bパートはその抵抗の記録である。
爆発事故で新聞沙汰にまで巻き込まれ、腹に据えかねた虎子は放課後ののこを尾行していた。彼女にも何か弱みがあるのではないか、それを掴めば立場を逆転できるのではないか……と。対象に気付かれてはならない尾行という行為が示すように、これは「シカの世界」の外部へ抜け出すための試みと言えるだろう。だが、結果から言えばこの試みは成功しなかった。
のこに気付かれない=外側から見てなお、シカの世界は異様である。のこは公園で1時間も何もせずにいるからもしや家がないほど貧乏なのかと思えばおやつとして角からバナナを出してくるし、日野動物園にやってきたかと思えばシカと一緒に展示に回り鹿せんべいに猛烈に食いつく。挙句の果てには「シカの大名行列」なる動物園の名物行事でシカに乗って園内を練り歩き……何より恐ろしいことに、動物園を訪れている人達はのこの存在を誰一人として不審がらない*2。ツッコミ不在のこの世界に虎子はツッコまずにはいられないが、ツッコんでしまえば彼女はもう「シカの世界」の内側だ。
虎子「うまっ!?」
のこ「でしょ? ここのタピうまうまなんだから」
外側に行こうとしても結局、虎子は逃げ出すことはできなかった。抵抗は失敗に終わった。だが、失敗が彼女にとって不幸かと言えば必ずしもそうではないだろう。のこに誘われて虎子が初体験した放課後の買い食いは、彼女と一緒に飲むタピオカティーは驚くほど美味しい。「うまっ」と驚いた直後に野生のシカが「シカー」と鳴く*3この世界は「いい加減なギャグアニメ」以外の何物でもないが、それが虎子にこれまで知らなかった感情をもたらしているのも確かな事実だ。「シカの世界」は、不条理だけれどけして彼女にとって悪い世界ではない。
3.しかしまわりこまれてしまった!
というわけで、今回のABパートで描かれたのは「シカの世界」から虎子が逃れられないこと、しかしそれがむしろ幸せでもあるという話であった。のこたん×こしたんガチ勢の私としてはこれで筆を置いてもいいのだが、1話のテーマを探るのが本ブログのレビューなのだからやはりCパートにも触れておくべきだろう。
根子「やったー! シカ部最高!」
先述したように、Cパートは虎子の出番のない話だ。本作は基本的にのこがボケる→虎子がツッコむことで成立しており、ならば虎子の出番がなければ破綻するのではないか? 「シカの世界」もなくなるのではないか? そういう仮説の実験がされているとも言える。だがこれも結果から言えば仮説は棄却されるに終わった。シカ部廃部のため虎子の不在を狙って部室を訪れた生徒会副会長・猫山田根子ちゃんの見たものは、虎子がいなくてマイルドになるどころかいっそうボケ倒すばかりのシカ部一同の姿でしかなかったのだ。あまつさえ猫山田はいつの間にかツッコミ代行ではなくボケ側に回ってしまい、ノコからシカ角をもらって喜んで帰ってしまう始末。「シカの世界」は虎子を捕えて離さないだけでなく、彼女不在の時すら対象を捕えて離さない確固たる存在となっていた。対象とは誰を?……言うまでもない、我々「視聴者」だ。とうとうここまでのこ達の話を聞いてしまった私達は、もうシカの世界から抜け出すことはできない。不条理で愉快でガール・ミーツ・シカな世界から逃げ出せない、幸せな束縛がここにはある。
名作RPGシリーズ「ドラゴンクエスト」では敵から逃げるコマンドが選択できるが、相手がボスの場合コマンドは必ず失敗してしまう。鹿乃子のこはいわばそのボスキャラだ。いくら逃げだそうとしても、私達の未来にはもはや「シカしまわりこまれてしまった!」のメッセージしか待っていないのである。
感想
以上、しかのこアニメ5話レビューでした。門外漢としては「百合」という形容を軽々しく使うのはちょっとためらわれるところですが、やっぱり本作はガール・ミーツ・シカなんだなと思います。訳の分からないのこに散々振り回されているのに、自分でもよく分からないまま彼女が大切になっている虎子の姿がとても好き。あと猫山田の頭をなでたい。さてさて次回は。
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しかしまわりこまれてしまった!――「しかのこのこのここしたんたん」5話レビュー&感想https://t.co/hlP4oeW7b0
— 闇鍋はにわ (@livewire891) August 1, 2024
ブログ更新、逃げられない幸せについての話。のこたん×こしたん、やはり最高。#しかのこ#しかのこのこのここしたんたん#おしおしお