歌え! 君が主役の歌――「真夜中ぱんチ」4話レビュー&感想

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

再会の「真夜中ぱんチ」。4話は譜風にスポットライトが当たる。だが、今回の主役は本当に彼女なのだろうか?

 

 

真夜中ぱんチ 第4話「次の企画の主役はwho?」

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1.譜風を捕える枠

譜風は晩杯荘の住人の1人である。バイトをして家賃を入れる真面目で大人しい彼女には、意外にも高い歌唱力があった。それを知った真咲は次の動画を彼女の「歌ってみた」にしようとするが、譜風は歌うことを断固拒絶し……!?

 

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譜風「私は絶対歌いません!」

 

思い出の「真夜中ぱんチ」。4話はこれまで比較的影の薄かったヴァンパイア、譜風(ふう)を掘り下げる回だ。50年前の秘密も明かされ、いわゆる当番回という意味ではまさしく彼女が主役なのだが――なんとなく私は、自分がレビューを書くならその一言で片付けてはいけないようにも感じた。なぜか? それを説明するためには、私が本作を観る上での柱としている「枠」の概念に今回も触れなければならない。

 

今回の話は譜風が動画配信の「歌ってみた」企画の主役に指名される回だが、彼女は当初その指名に頑として首を縦に振らない。なぜか?とはプロデュース担当の真咲でなくとも疑問に思うところだろうが、理由すら話そうとしない。歌う資格がない、という言葉で全てをシャットアウトしそれ以上の介入を拒絶する彼女はいわば自分に閉じこもっている状態だと言えるだろう。この、彼女が閉じこもっているものが今回の「枠」だ。そして同じくヴァンパイアであるりぶの心当たりを手がかりに真咲が知ったのは、譜風が閉じこもる枠にはかつて出会った一人の少女が大きく関わっていた事実であった。

 

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今を遡ること半世紀、譜風は毎晩のように公園で1人の少女と会っていた。彼女の名は綾。ロングスカートにオープンフィンガーグローブ、「唯我独尊」のシールを貼ったギターケースを持ち歩くヤンキー……正反対にも二人は歌のことで意気投合し、譜風の歌に惚れ込んだ綾は一緒にプロを目指そうと誘いをかける。だが、世に隠れ住むヴァンパイアである譜風が表舞台に立つことなど許されるはずもない。断りきれずまた正体を明かすこともできなかった譜風は結局オーディションの当日、それもステージに立つ直前になって逃げ出してしまった。綾に手を引かれステージに出ようとしたその瞬間、陽の光に肌を焼かれ痛みで手を振り払ってしまったのだ。

 

譜風が閉じこもっている枠。それは「歌う資格のない、最低の裏切り者の自分」という枠である。自己定義である。そして、50年を経てその枠は譜風に固着してしまった。悪い意味で安定してしまったと言ってもいいだろう。だから彼女は枠の中に踏み入られるのを嫌がるわけだが――それはつまり、「一人で一生うじうじやってる(by真咲)」だけでしかない。譜風はその枠を飛び出さなければならない。

 

2.歌え! 君が主役の歌

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真咲「ど……どうだった?」
譜風「……綾ちゃん、亡くなってました」

 

譜風を枠から飛び出させるために必要な存在。言うまでもなくそれは綾である。真咲達の必死の調査で彼女がニューヨーク*1で2年前にライブをしていたらしいことを知った譜風は単身飛行機に飛び乗って渡米する。書き置きを見たりぶの慌てぶりからすればこれは彼女には極めて珍しい、枠から少しはみ出た動きだったのだろう。……が、結果から言えば譜風は綾に再会することは叶わなかった。なんと彼女は既に亡くなっていたのだ。

 

ようやく勇気を出して会いに行ったのに、もはやこの世界にいない。人間とヴァンパイアでは寿命が違うから仕方のない話とはいえ、ある意味でひどい「裏切り」である。これは譜風が受けた罰なのか? もはや彼女が枠を飛び出す機会は永久に失われてしまったのか? 否。綾のいたライブハウスのオーナーから形見にと受け取ったギターケースの中には、ギターだけでなく1枚のCD-R*2が入っていた。

 

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綾「まあつまりさ、あたしは今もあいつが歌ってくれてたらめっちゃ嬉しいってこと」

 

CD-Rの中に記録されていたもの、それは生前の綾が友人から受けた個人的なインタビュー映像であった。なぜ歌手を目指そうと思ったのか問われ、譜風といた頃より大人になった映像内の彼女はこう返す。「昔ちょっとだけグレてたあたしと唯一仲良くしてくれたダチがいて、そいつと出会ってから……かな」と。ダチに、譜風に、背中を押されたというのだ。


振り返ってみれば、50年前の綾は確かに一人であった。同じヤンキーとつるんでいる様子もなく、彼女は世間の枠にも不良の枠にも入れない夜のはぐれ者だったのだろう。けれど、譜風と出会ったことで彼女は歌手を目指そうと思えた。譜風と一緒に過ごした時間が綾に与えた勇気は、彼女が傍らにいなくともその背中を押し続けていたのだった。

 

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譜風「ごめんなさい。勝手に逃げて勝手にいなくなって、生きてる内に会いに行けなくて、ごめんなさい……私もずっと一緒に歌いたかったよ、綾ちゃん……」

 

譜風は確かに綾を裏切った。土壇場で手酷く裏切った。けれど太陽の光に焼かれて手を振り払ったあの時点で、譜風は綾を陽の当たる場所へ送り出して・・・・・もいた。裏切り者ではあっても譜風は、彼女という枠は「歌う資格のない、最低の裏切り者の自分」などではなかったのである。だから今度は、綾の「裏切り」の方が逆に譜風の背中を押す。「ごめんなさい」がけして届かないことが、もはや一緒には歌えないことが、もう一度彼女に歌を歌わせる。綾は既に亡くとも緊張した時に自分に「ヤキを入れる」精神は譜風に受け継がれているし、ヘッドホンを通して譜風が聞くのは彼女の遺したギターの音だ。

 

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「次の企画の主役はwho?」と題したこの4話で、譜風と綾がかつて結成したグループ名は「Who are you?」であった。これは事実上の副題への回答であり、今回の主役は譜風であって譜風ではない。「Who」ではない。そして「you」とは、二人称とは二人になったからこそ生まれるものだ。

譜風と綾が、一人では何者でもない二人が出会って生まれた「you」。それこそは今回の真の主役だったのである。

 

感想

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以上、まよパン4話レビューでした。人間とヴァンパイアだとか生と死だとか「枠」になりそうでならないものばかりに目が向いて最初は困ったのですが、譜風と綾が引き裂かれる場面について別の意味があるんじゃないかと思いついてからはすんなり書くことができました。真咲が譜風達と「you」の間柄になっていく話でもあるし、りぶと苺子がビデオを見て泣いてるのも下手すると鼻白みかねないところだけどよく踏み切ったなと思います。彼女達にとっても譜風は「you」なわけで、そりゃ即席の防音室も作る。ぬいぐるみに防音効果があるとは初めて知りましたが、たぶんこれ苺子提供なんだろうなあ。

 

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変化球の後にど真ん中のストレートを投げ込まれたような回でした。さてさて、次回はサバイバルということで水着回&またぶっ飛んだ内容になってくるのかな?

 

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*1:入浴だけに譜風の銭湯のバイトとかけてる、という指摘をXで見かけて笑った

*2:ドライブに挿入する場面でDVDではなくCD-Rなのが確認でき、撮影時期的にも納得だが、焼き直しでないなら寿命ギリギリもギリギリでは……