飛び出せ! 枠の外へ――「真夜中ぱんチ」1話レビュー&感想

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

夜におはよう「真夜中ぱんチ」。1話では動画を始めとした「枠」が提示される。その外へ飛び出すにはどうしたらいいのだろう?

 

 

真夜中ぱんチ 第1話「炎上娘とお寝坊ヴァンパイア」

mayopan.jp

1.枠の外

世界中の人が夢中の動画サイト・NewTube。そこで活動する「はりきりシスターズ」のまさ吉こと真咲は生配信中に仲間を殴ってしまい、メンバーから脱退させられることに……再起を目指す彼女が出会ったのはなんと!?

 

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P.A.WORKSが2024年春に送る3本のアニメの1つ「真夜中ぱんチ」。同時期に放送される「天穂のサクナヒメ」「菜なれ花なれ」と比較するとタイトル通り夜のイメージの強い作品だが、1話で注目したいのは「枠」の概念だ。

 

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本作は動画サイトへの投稿を主題とした作品である。現代を生きる私達にとって動画はもはや切っても切り離せないものであり、娯楽や勉強を始めありとあらゆるジャンルは動画に集約されつつあると言ってもいいだろう。テレビが発明されて1世紀近くが経った今、誰もがスマホやモニタに映る四角い映像に――四角い「枠」の中に夢中だ。主人公の真咲もその一人であり、高校時代の仲間2人と組んだグループ「はりきりシスターズ(はりシス)」でチャンネル登録者数100万人を目指して頑張っていた、はずだった。

 

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真咲「ふっざけんな!」

 

生配信中に仲間を殴って炎上沙汰になった真咲を待っていたもの。それは徹底的な枠からの除外である。処遇についての話し合いにはほとんど参加できず脱退を決められ、それを発表する配信に出演するのも他の2人だけ。憤慨して乱入すれば彼女が映った瞬間に放送は「ちょっと待ってね」に切り替わってしまう……真咲は完全に蚊帳の外、いや枠の外に置かれていると言っていいだろう。ただ、一方でこの1話にはそれとは矛盾した描写も存在する。

 

2.飛び出せ! 枠の外へ

枠の外に置かれた真咲の矛盾する描写。それは当然ながら彼女が枠の外に出られない描写である。

 

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店員「オイ。お客さんはりきりシスターズのまさ吉さんですよね? リアルでも迷惑かけてんじゃねーよ」
真咲「あ、はい……すいませんでした」

 

グループを事実上追放された真咲は、その後別の形で配信を試みている。ソロでのチャンネルを開設したり、新メンバーを募集しようとオーディションを実施したり……だが、周囲はそんな彼女に1からのリスタートを許さない。ソロチャンネルには非難のコメントがあふれ、オーディションに来るのは炎上に便乗した他の配信者や冷やかしばかりだし、挙句の果てには居酒屋で飲んだくれていた時さえ自分がまさ吉だと知る店員から「リアルでも迷惑かけてんじゃねーよ」とお叱りを受ける始末だ。つまり真咲は一人になってなお、はりシスでの不始末の枠から出られずにいる。

 

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りぶ「……見つけた!」

 

暴力の結果だから自業自得ではあるが、真咲ははりシスの枠から追い出されたにも関わらずはりシスの枠の外から出られない。これはある意味当然の話で、本当に1からリスタートしたいなら動画配信から足を洗えばいいのに真咲は今も動画配信にこだわっている。社会的にも心理的にも中途半端で居場所がない、内や外に関係なく「枠」そのものに囚われた状態だからこその苦境……だが、はりシスの動画が初めてバズった廃病院を再訪した真咲はそこで衝撃的な出会いを果たすこととなった。真咲の血が大の好みだという「りぶ」――ヴァンパイアだ。

 

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ヴァンパイアのりぶはやることなすこと全てが人間離れしている。日光に触れれば肉体は”炎上”し、つい先日まで眠り続けた時間は20年、天井を当たり前のように歩く……全てが人間の枠の外にある。そんなりぶに追いかけられた真咲は廃病院屋上の端に登ってしまうが、ここまでを鑑みればそれは単なる場所として見るべきではないだろう。そう、真咲が追い詰められたのは病院という「枠」の端ギリギリである。

 

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りぶ「君の血はりぶの大本命。他に代わりなんてマジないし」
真咲「……え?」

 

吸血鬼のりぶが自分を知っている理由が炎上動画と知った真咲は当初、ここでも枠から逃れられないのかと絶望する。居場所なき中途半端な場所にしかいられないのだと諦めを口にする。だがりぶは他の興味本位の人間とは違い、真咲の血を大本命だと言った。「他に代わりなんてマジないし」とまで言った。もちろんこれは本来、吸血のターゲットにされた人間にとって何も嬉しくない話のはずだ。けれど真咲にとっては違う。どんな形だろうと、自分を必要と言ってくれることほど今の彼女にとって不意をつかれることはない――驚きのあまり足を踏み外すのは、これまでの「枠」から外れた証である。そして次の瞬間彼女が目にしたのは、空を飛ぶりぶに抱えられた自分が宙に浮いている驚くべき現実であった。

 

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りぶが空を飛ぶのは別に驚くべきことではない。ヴァンパイアなのだから。けれど彼女に抱えられて人間の真咲が空を飛べばそれは驚きの体験になる。この事実は示唆的だ。どんな人間でも超えられない枠をヴァンパイアはたやすく超えてみせるし、そんなヴァンパイアが人間と同じことをすれば(枠の中に入れば)それだけで人間とは違うことが起きる。枠の外へ飛び出すことができる。そこに見え隠れする枠は、真咲が囚われたはりシス脱退のようなちんけなそれとは違うもっと大きな「枠」だ。だから彼女はりぶを動画配信の世界へ誘う。そのためだったら目標のチャンネル登録者数100万人と引き換えに自分の血をりぶに吸わせることだって厭わない。己の命を枠の外に放り投げても構わない。

 

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本物の枠の外は、目に見える枠の境界線にこそ潜んでいる。動画配信という枠に挑むことで、真咲とりぶは見えない枠の外へ飛び出していくのだ。

 

感想

以上、マヨぱん 1話レビューでした。1話は何を掴みにしたらいいか迷うものですが、スマホに対するりぶの「何この四角いの」とか廃病院での二人の位置取りからそれらしきものを引っ張っていくとこんな感じになった次第です。主人公の好感度をそこまで重視してなさそうなあたり、期待できそう。登場人物はまだまだ他にもいますが、どんな関係になっていくんでしょうね。

 

 

 

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