罪過の大穴――「ダンジョン飯」16話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

循環の「ダンジョン飯」。16話では3つのパーティが一堂に会する。だが、そこから見えるのはライオス達がダンジョンに空けた大穴だ。

 

 

ダンジョン飯 第16話「掃除屋/みりん干し」

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1.チルチャックが見つけたもの

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チルチャックがダンジョンの変化の法則性を見つけ、ようやく上階への階段にたどり着いたライオス達。腹ごしらえをしている最中、突然攻撃を受け……!?

 

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変化する迷宮の「ダンジョン飯」。ダンジョンの生態系の描写がウリの一つである本作だが、今回は魔物とは違うダンジョン特有の生物が登場する。「ダンジョンクリーナー」……迷宮内のゴミを掃除し、破壊された場所を修復するという魔術的な生物だ。激しい戦闘があれば壁や床はあっという間にボロボロになってしまうのでは?というRPGの疑問に上手く答えた設定と言えるが、更に面白いのはそれがただのウンチクに留まっていない点だろう。「ダンジョンクリーナーが補修したての部分はまだ乾ききっていないから身を隠すのに使える」という形で登場するのだから振るっていて、つまりのっけから裏技的な――抜け道的な手法がとられているのだ。

 

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マルシル「お言葉ですけど、この4人でレッドドラゴンも倒したんだから!」

 

「抜け道」。ライオス達の冒険にこれほど相応しい表現はあるまい。少数戦力かつ短時間でダンジョン深くまで潜るため彼らが始めた魔物食はいわば新たなルートだ。十分な戦力で再挑戦という正攻法で再挑戦した元仲間のシュローより先に目標のレッドドラゴン討伐に成功した点も含め、まさしくライオス達は抜け道を進んだと言っていい。だが一行の行動を道と表現するなら、仲間の一人チルチャックの今回の発言はより深い意味を持って響いてくる。そう、ダンジョンの構造が変化する法則性を見抜いた彼はこう言ったのだ。「どこかが塞がってどこかが繋がる。基本的にはこの繰り返し」……と。

 

2.罪過の大穴

「どこかが塞がってどこかが繋がる。基本的にはこの繰り返し」。チルチャックのこの言葉は、実のところダンジョン変化の法則性に留まらない。

 

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マイヅル「後生ですから、ちゃんと食事と睡眠をとってください。このままではお体がもちません」

 

例えばシュローは戦力面で見れば確かに正攻法=正規ルートでダンジョンに挑んでいるが、新たに仲間を雇う余裕はなくマイヅル達身内の者に頼らざるを得なかった。また時間がかかってしまう焦りから食事や睡眠を犠牲にしてここまでやってきていたが、やつれてしまうほどの強行軍は明らかに正攻法ではないだろう。彼は戦力を「繋げる」代わりに休息を「塞いで」ここまでやってきてしまったのだ。

 

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リン「無駄足だったってこと?」
カブルー「まあまあ、もう少し時間をくれよ。彼らがどうやってここにたどり着いたのか、これから何をするつもりなのか知りたいだろ」

 

またシュロー達には本来別パーティであるカブルーの一行も同行していたが、彼らの目的の一つは自分達の荷物を奪った(と誤解していた)ライオス達をとっちめることにもあった。だがカブルーは対面した際のライオスの態度からその詮索が無意味なことを悟り、一方で彼らがこれまで何をしてきたのかやその目的に興味を抱く。彼の場合は復讐が「塞がった」代わりに別の理由が「繋がった」と言える。

 

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シュローやカブルーの描写が示すように、ダンジョンは――そこでの人や魔物の関係性というものは――「どこかが塞がってどこかが繋がる。基本的にはこの繰り返し」である。言い換えればそれは、どこかが壊れては修復される繰り返しだということだ。ダンジョンを破壊するものがいるからこそ、それを修復するダンジョンクリーナーが必要とされるのと同じ理屈である。そしてこの対の関係で見た時、現在もっとも強大なダンジョンの破壊者が誰かは言うまでもあるまい。そう、ライオス一行である。

 

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「抜け道」を歩くライオス達は、様々な形でダンジョンを破壊してきた。魔物を単なる障害ではなく食材として扱い、討伐対象のオークと協力関係を結び、わずか4人でレッドドラゴンを倒し――そしてレッドドラゴンに食べられたライオスの妹ファリンを黒魔術によって蘇生させた。関われば理由や程度を問わず西方のエルフに幽閉され亡骸も戻らない禁忌の術を使って、だ。真相を聞かされたシュローが激昂するのも当然の話で、ライオス達の行為はダンジョンの秩序の・・・大破壊に他ならない。

 

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ファリン「デルガル様……お探ししなくては……」

 

ライオスは言う。黒魔術によるファリンの蘇生が問題になるのはダンジョンの外で知られた場合であり、(ファリンに好意を抱いている)シュローはけしてこの秘密を口外しないはずだ、と。彼はこのダンジョンに、そしてシュローに「ダンジョンクリーナー」としての役割を期待しているのだ。確かに理屈は通っているが、しかしこれは甘い考えに過ぎなかった。ライオス達はいまだ知らないが、ファリンはダンジョンの主たる狂乱の魔術師によってその心も体も異形の者に作り変えられて・・・・・・・いたのである。そう、まるでダンジョンが作り変えられるのと同じように。

 

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「どこかが塞がってどこかが繋がる。基本的にはこの繰り返し」。ダンジョンに限らず全てはこの繰り返しだ。ライオス達が幸福に繋げたはずの道の正体とは、彼らやファリンの今後を塞ぐ罪過の大穴だったのである。

 

感想

以上、ダンジョン飯のアニメ16話レビューでした。「マイヅルとセンシの間で心が通ったと思ったら今度はライオスとシュローが衝突」「ライオスに取り入ったつもりのカブルーが魔物を食べさせられるピンチに陥りそう」なんかの流れを踏まえてこんなテーマの回と言えるかなと。物事はなかなか八方よしとはいきませんね。

 

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イヌタデ、センシですら身動きとれないほど腕力あるのか。

 

 

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